トマス
屋敷の中は、誰もいなかった。
父親のいるところはわかっている。二階の寝室だ。
そこら中からアルコールの匂いがする。空き瓶がいくつも転がっていることから、相当羽目を外したのだろう。今頃は外の騒ぎにも気づかずに、鼾でもかいているのか……
「ビンゴ」
セレーネの予想通り、寝室には盛大に鼾をかく父、トマスの姿があった。
警備の姿も見当たらない。
「時間はまだあるわね」
――心地よい夢を見ていた。
ビーチで美女を侍らせて、優雅にバカンスを楽しむ自分
そこにはいつも自分に縋り付いてくる醜い妻と、いつも自分を見下すようにしている醜い娘の姿はない。
(あいつらは死んだんだ)
そう、自分が殺し屋に依頼してた。あんな視線を向けられるのはもう御免だ。だから依頼した。
自由になるために
「トマス様ぁ~」
甘ったるい声が自分を呼ぶ。
(あぁ、なんて幸せだ)
そう思いながら美女の顔を見やる――ことは出来なかった。
そこには、首からのない物があるだけだった
「ヒィィィィィッ!??!?!?!」
女の首は自分の膝元に落ちてくる。
すると同時に腿に激痛を感じ、トマスの意識は現実の引き戻された。
そこには――
「お父様、おはようございます」
この世で一番見たくない顔があった。
「ヒィィィィィッ!??!?!?!」
夢と同じ叫び声をあげるトマス。
腿には、ひび割れた瓶が刺さっていた。それをセレーネは、更に奥へと押し込む。
「ギィッッッッッ?!」
激痛走り、目尻に涙がたまる。
セレーネは、笑っていた。