スキア
人が倒れていた。いや、あれはもう人ならざる者。
心臓部分だけに、奇麗な穴をあけたそれは、まだ自分が殺されたという事実に気が付いていないかのように、静かに眠っていた。
10もの屍が転がる、無惨ともいえる、沈黙の流れる部屋。そこに、一人だけ人間がいた。
月明りに照らされてその人物の顔が明らかになる。
黒い髪に黒い瞳、シャツもジャケットもズボンも黒い、スーツを身に纏う男。色白い肌が、不気味さを際立たせていた。
この襲撃の生き残りか。
否
では、第一発見者か。
否
彼は殺し屋。
今日も任務の通りに人を殺めたのだ。
汚さずに素早く
それが彼の仕事でのモットー。
実際、彼の体には返り血の一つもついていなかった。
「スキアさん……。ボスがお呼びです。」
スキアと呼ばれた男は、返事をすることなくその場を立ち去る。
スキア。
この業界――つまり、殺し屋――で、彼の名前を知らない者はいない。
今まで仕留め損ねたターゲットはいない。
すべてを完ぺきにこなす、まさに殺人鬼。
そんな殺人鬼に、また一つ、任務が持ち込まれた。
少女を殺せ
そのたった一言と共に、少女に関する資料が数枚。
「セレーネ。 ……セレーネ・サマラス」