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48 中学二年二学期終業式・本条里希の氷上でメリークリスマス!

氷上でメリークリスマス! 


 

 今年は暖冬だって聞いていた。青潟のスケート場もなかなか氷が張らないとかでなかなか開園してくれなかった。やっと「青潟スケートリンク場開園のお知らせ」が学校側からプリントで配られたのは、なんと終業式の日だった。それなりの成績表とそれなりのお小言を駒方先生から頂戴した後、俺は二年A組の教室を飛び出した。

 ──遊ぶのはいいが、決して遊びすぎないように、節度を持つんだぞ、本条。

 この「節度」という言葉にどういう意味がこめられているか、うちのクラス連中は気付いていないだろう。たぶん俺しかわからないだろう。

 ──節度と本能くらいは俺も十分、押さえられるっての。

 口笛吹きながら俺は一年どもがあふれ出てくる一階廊下のロビーへ向かった。俺の時とは違うかもしれないが、大抵一年の終業式後のお説教ってのは、だらだらと長引くものなんだ。たぶん二年連中よりは、いやってほど説教されつづけていることだろう。特に担任と折り合いの悪い奴は。

 約一名、折り合いの悪すぎる奴を弟分に持っている俺としては、まずじっくりと話を聞いてやる義務がある。

 同時に、「矯正」する義務もある。

 それが、青大附中の評議委員として、弟分を持った上級生の定めでもある。


 思ったとおりだらだらと、足取りも軽く一年どもがあふれ出てきた。まずはロビーから一番近い教室のA組生徒が、次にB組、C組。水がホースの隙間から噴出すような感じで飛び出した。結構俺の知り合いも多い。

「本条先輩、お先に失礼しやす!」

 間違った日本語を使用して出て行く奴がひとり。一年A組の男子評議・天羽忠文だ。

「ああ、また明日な」

「まだD組ホームルーム終わってねえっすよ。ったく菱本先生熱いしなあ」

 ずいぶん髪の毛をパーマで膨らませている。昨日はくそまじめな髪型だったくせに、どうしたんだろうか。一瞬首をかしげたがすぐに理由へたどり着くことができた。そうだよ、昨日はどのクラスでもお楽しみ会が開かれていたはずだ。あいつ、関西芸人のギャグをこよなく愛する男だ。舞台用の変装だろう。

「お疲れさまです、本条先輩。明日、よろしくお願いします!」

 黒ぶち眼鏡に前髪だけやたらと長い奴は一年B組の男子評議・難波利武だった。珍しく黒の裾長なコートを羽織っている。一礼した後、妙に気取った格好で振り返り、

「あの、来年もやっぱり時代劇なんですか」

 付け加えた。言いたいことはだいたいわかるぞ。言ってやる。

「それは今の一年次第だぞ。やりたいんだろ、『シャーロック・ホームズ』を」

「もちろんです! ちゃんとホームズコートの借り先も決まってるっし」

 こくっとうなづきいきなり笑顔を見せるB組評議は、なんのことはない、ガキの頃からホームズを崇拝しきっている奴なのだ。多分来年は評議委員会のビデオ演劇で「緋色の研究」か「バスカビル家の犬」を扱いたくてなんないんだろう。台本つくり、がんばれよ、の一言だ。

「本条せんぱーい、よろしくー!」

 なぜか職員玄関の方向へL字に曲がって走っていくのはC組男子評議・更科基だった。こいつが走る目的は、保健室にあり。こんなに元気いっぱい走る奴が、保健室でぶっ倒れるわけがない。掃除当番だって関係ない。となると、走りたくなってしまう情熱は、愛しかないぞ。愛。

「気をつけろよ。一歩間違えると犯罪だぞ!」

「大丈夫でーす! すでに男子評議の中では公認でーす!」

 犬っころみたいにころころ走っていくC組評議に、俺はどうか「青大附中の養護教師と生徒との禁じられた愛」がスクープされないことを背中に祈った。まじでやばいぞ。未成年との恋愛がばれたらどうするんだ、保健室の先生よ。俺も人のこと言えた義理じゃないが。


 D組男子評議・立村上総が肩を落として歩いてきたのは、それから約五分後だった。

 一瞬のうちに廊下出入りピークは過ぎるもんだ。

「立村、おい、待て」

「あ、本条先輩」

 丁寧に一礼した。あいつの後ろには頬を真っ赤にしながら手袋をはめているコート姿の女子と黄色のエンブレムを左胸にくっつけたジャンバー姿の男子がいちゃいちゃしていた。目に毒だ。幸い俺には女子に対しての免疫がたっぷりついているので気にはならないが。「ちょっと来い、おお、お前らも一緒かあ」

 ふたりは俺を見るなり互いに視線を絡ませた後で、

「先輩、お疲れ様でした!」

 一緒に頭を下げた。まさに彼彼女の関係ってムードである。立村もさぞ、当てられていることだろう。

「清坂も羽飛も相変わらずだなあ」

「先輩違います! なんかまた変なこと言わないでください!」

 相手の男子‥‥羽飛も一緒に大きくうなづいた。

「俺の愛は別にささげられてるし、なあ美里」

「そうよね、鈴蘭優にしか向けられてないもんね!」

 ちっともやきもちの匂いがしないのは、やはりお付き合いの度が違うんだろう。D組女子評議の清坂と幼馴染の男子羽飛との会話を聞いているとどう考えても、「初恋まっしぐら」状態にしか感じられないのだが。まあ互いに否定しあっているのは、目の前に同級生がいるということと、俺がまがりなりにも二人の先輩だってこととが絡んでいるんだろう。心の真実について説明してやるほど、今の俺には時間がない。目的は一つにしぼれっていうんだ。

 すっかり戸惑った顔して、きょときょとと俺、清坂、羽飛を三角形こしらえるように眺めている立村の肩を、俺は抱いた。少々危ない趣味に思われるかもしれないが、俺の女好きを知っている奴は誰も誤解しないだろう。目の前のふたりもだ。

「悪いが、今から立村、借りてくぜ」

「え、あの、ビデオ演劇、稽古、明日からじゃ」

 清坂がにゃんこ目をくるくるさせて口を尖らせる。

「おい立村、俺たちの方が約束、先だったよな!」

 明らかにむかついているのは羽飛の方だ。これは意外。単純に清坂とデートを楽しもうとたくらんでいたんだったら、邪魔者の立村を引き取ってやる俺の行為にお礼を言ってくれたっていいじゃないか。へへん、とばかりに俺は顔をにんまりさせて見せた。

「いやいや、やっぱりな、上級生の言うことは絶対だろ? 特に、俺からの命令は、そうだろ、な? 立村?」

 おや、幼馴染二人が肩を寄せ合い、四つの眼でもって俺をにらむぞ。肝心の立村を頭抱えたまま見下ろすと、今度は俺と「清坂・羽飛連合軍」を交互に見ている。まあ約束はしていたんだろうな、きっと。小声で俺のあごに頭のてっぺんを押し付けるような格好で、

「あの、先輩、実は羽飛たちと一緒に、これから学生食堂で‥‥」

 思いっきり小突いてやった。

「おいおい、立村よ、お前も鈍いなあ。今日はなんの日か知ってるだろ?」

「だから終業式‥‥」

 頭のてっぺんを片方の手でぐりぐりしてやる。顔をしかめて首を振る立村だが、俺の片腕でしっかり抱きかかえられているから身動き取れない。明らかに俺の方が腕力上だ。俺の方が兄貴分だからなやっぱり。

「ばあか。お前みたいに彼女作ったことのない奴にはわからないだろうが、今宵はクリスマスイブなのだぞ」

「だったら先輩の方が!」

 ひそっとつぶやくのは清坂だ。いや、いくら三人仲良しトリオだというのはわからなくもないが、カップルからはずされた立村の悲しい立場をどうして考えてやらんのだ? あ、まだ一年か。そこまでわからんか。じゃあ先輩として教えて進ぜよう。立村が言いかけたのを、今度は手でふさいでやった。まるで誘拐犯人だぜ俺。

「ほら、お前もわかるだろ? こういう時は、先輩たる俺の言うことを聞いてだな、きちんと今後のために鍛えることが大切なんだ。立村、お前は俺の弟分なんだぞ、兄貴分の言うことは絶対だぞ、いいな」

 あきらめたように立村は、ゆっくりと清坂たちの「早く、手、振り払ってきなさいよ!」といわんばかりの顔に頭を下げた。

「ごめん、羽飛、清坂氏。俺、今は無理だけど、でも、終わったらすぐ合流するから」

「おい、あのなあ立村、先約は俺たちだろ?」

 意地を張ってるんだろう、羽飛がしつこく言うのは。肩をぶるんぶるんさせながら、口を尖らせる。

「やはり、あの、評議委員だし、やはり先輩の言うこともそうかなと思って」

「先輩だからって順番は守らないといけないんじゃないですか!」

 もちろんそれは当然といやあ当然だ。だがな、清坂よ。俺が横紙破りまでしてどうしてこんなにお前らを応援しているのか、早く気付いてくれよ。「青大附中開闢以来の女ったらし」本条里希としては、出来上がっているらぶらぶカップルを、余計な奴ひとりでぶっつぶしたくはないのだよ。青大附中入って初めてのクリスマスイブだったら行きたいとこだってたくさんあるだろうに。

「ほら、清坂、あんなしけた食堂なんかでまずいラーメン食うよりな、子辺町まで汽車に乗ってだ。羽飛とふたり、神聖な気持ちで修道院めぐりをするとか、雪を見つめながらいろいろするとか、あるだろ? お前たちがシングルの哀れな立村の面倒を見てやりたいと思うのはよくわかるがしかしだな。せっかく楽しめるって時に、邪魔者を入れたままってのはお前らも、あと立村も悲しいぞ」

「先輩なに誤解してるんですか! 私と貴史、そんなこと、考えてないってのに!」

 照れ隠し。やっぱりかわいいねえ。立村にも尋ねてくる。

「立村くん、違うってわかってるよね! 本条先輩とは明日からでもいいでしょ」

 すっかり俺と清坂たちとのサンドイッチ状態に陥った立村を、これ以上いじめるのも趣味がいいとはいえないだろう。俺は自分のめがねを片手ではずし、強引にかけてやった。度が強いのは承知の上だ。ぱっと離すと、立村の奴、歩こうとしてふらふらっとした後、ぺたんと尻もちをつきやがった。

「す、すみません。本条先輩、あの」

「だから、お前は俺の言うことを聞きなさいっての。じゃあな、清坂、羽飛、これからゆっくり、楽しめよ!」

「先輩ってば!」

「立村、おい、こんな不条理、許されていいってのかあっ!」

 いささか芝居がかった羽飛の叫びは、たぶん「しゃあねえな」の合図だろう。本気で立村を手放したくないんだったら俺につかみかかってきて、一発二発殴りかかってきても不思議はないのだから。

「じゃあな、さ、行くぞ立村」

 片腕を引っ張り上げ、俺は立村を立ち上がらせた。まだ度のあわないめがねに慣れず、酔っ払った風に歩く立村を一年用の靴箱前まで連れていった。すのこの上で、申し訳なさそうに両手を合わせるめがね顔の立村。口をあんぐり開けたまま見送る羽飛。思いっきり片足を踏み鳴らしなにやら文句たらたらの清坂。

 どうせ明日のクリスマスで十分謝ることができるんだ。気にするなよ、立村。

 


 青大附中評議委員会では毎年冬休みを利用して、「ビデオ演劇」と呼ばれる一本のテープをこしらえることになっていた。別名「演劇部」とも呼ばれる評議委員会なのだが、名前の由来はまさに「ビデオ演劇」の存在から来ている。それほど歴史が古いわけではなく、現在の評議委員長・結城穂積先輩の発案により昨年から行われているのだ。

 ビデオカメラを利用して青大附中の校舎や外部の建物などを背景に、台本どおりの台詞を唱え、一カットずつ撮っていく。もちろん演じるのは評議委員会のメンバーだし、生まれてから演劇なんてやったことないという奴がほとんどだ。クオリティーの高いものなんてできるわけがない。しかしながら、家庭環境の影響もあって芸術肌丸出しの結城先輩が、ほとんどの機材および映画作りのスキルなどを注ぎ込んでくれたおかげで、昨年は結構面白いものが出来上がった。テレビドラマの焼き直しで「スター誕生」。テレビ版は天才少女と意地悪娘との戦いがメインだったが、結城先輩の発案でキャストを全部男子に振り替えた。天才少年と意地悪男ってどんなもんかと最初は俺も半信半疑で見ていた。けどやはり、才能ってのはすごいもんだ。後日、他の生徒たちに観てもらったところ、大爆笑の嵐で迎えられた。笑っているのか嘲っているのかは紙一重だと思う。けど、反応があるのはやっぱり、うれしいじゃないか。味を占めた次期評議委員長たる俺は、半ば強引に第二回「ビデオ演劇」企画を立てたわけだった。

 もっとも「ビデオ演劇」の目的というのは、単純に下手な演技を見てもらって自己満足に浸るだけではない。

 結城先輩曰く、

「これから先、評議委員会では教師、生徒、そのたもろもろの人間を相手に『演技』をしなくてはいけない場面に突き当たるってわけだ。うまく立ち回らねばならないところとかいろいろな。そういう時にだ、ひとつの『演技』をマスターしておくことが、これから必要なんだよ、なあほんさと」

 ちなみに「ほんさと」とは、結城先輩が俺とふたりきりの時、呼んでくれる名だ。

 この人、単なる「アイドル狂い」‥‥特に「日本少女宮」への愛は深すぎるぞ。自室の壁、床、天井すべてポスターで埋め尽くされているあの部屋、俺だったら発狂するぞ‥‥ではないのだと気付いたのは、恥ずかしながらこの数ヶ月だった。

 現在の二年生が主体となって台本を決め、キャストを指名し、あとは無理やり台本を渡して一カットずつ撮っていく。去年の実績がなぜか教師たちにも受け入れられたらしくて、今年は衣装関連の費用を学校側から出してもらえるようになった。うちの学校、エリート色強いはずなんだが、こういうお遊び系のネタにも協力してくれるところがうれしい。せっかく大人が金出してくれるんだったら、年末のお約束としてやろうじゃないか、「忠臣蔵」! 

 というわけで、明日からビデオ演劇「忠臣蔵」の撮影クランクインとなる予定なのだった。

 キャストはすでに十一月の段階で指名済みだし、台本もあっという間に他の連中がこしらえてくれた。あとは衣装を手芸得意な女子たちおよび先生たちに協力していただきこしらえてもらうだけ。「忠臣蔵」は時代劇なんで、和服でなくちゃいけないのだが、なぜか大人には和服が受けるらしい。どんどん、無償で貸してくれた。しかも撮影中、着付けまでしてくれるというお申し出。なんというすばらしい学校だ、青大附中万歳!


 だがまあ、これは明日から考えればいいことなんだ。

 俺としてはその前にいろいろと片付けておかなくてはならないことがあるわけだ。

 まずは、今後ろにくっついて、うなだれて歩いている立村のこととか。


「立村、お前さ、スケートやったことあるか?」

 首を振った後、すぐに「いいえ、ないです」と言い直した。

 俺はことあるごとにこいつへ「言いたいことがあるんだったら、動作だけでなくて口ではっきり言え!」と命令している。首ぶるぶるだけだったら一発ぶん殴ってやるところなんだが、気付いただけよしとしよう。

「小学校の時に行かなかったのか? 雪山遠足とか」

「遠足、参加したことないです」

 小声で答える立村は、スニーカーで雪を踏みしめるようにして歩いている。アイスバーン状態の道路を歩いてすべってすってんころりんするのが怖いんだろうな。ちゃんとスパイクの爪、立ててあるいてるのか?

「そうか、じゃあスキーもねえな」

「スキーはうちで、連れていかれて」

 じゃあなんでスケート行かないんだ、と突っ込んでやりたいんだが、大体理由は聞かないでも見当がついたので言わないでおいた。スキーだったら親にどこぞのスキー場へつれてってもらうこともできるだろうが、スケートの場合大抵は友だち同士で固まって出かけるパターンが多いだろう。もともと立村は友だちと連れ立って遊んだ経験が少ない奴だし、ほとんどなかったんだろうなきっと。「じゃあ初体験ってことだな」

「はい」

 素直にうなづいているところみると、関心がないわけではないのだろう。

 いい機会だ。

「じゃあお前さ、今日、市のスケート場がオープンしたのは知ってるな」

「はい」

 おとなしい立村は、うなずくだけだった。俺の隣に来た。かばんをぶら下げて、真っ黒いマント式コートを羽織ったまま、俺にくっついてきた。

「これから先、いろいろなとこでスケートやる機会が出てくるだろうから、お前もここいらで練習しとけ。俺がしごいてやる」

 ふっと俺の方を見上げる立村を、今度は頭を軽くなでてやった。

「知ってるか? 世の中の女子はな、スポーツのできる奴にきゃあきゃあ言うもんだ」

「けど、俺本当に一度も、滑ったことがないんです。スケート靴も、何センチかわからないし、それに運動神経あまりいいほうじゃないし、だから」

「女々しいってんだ、黙れこの!」

 丸い目で泣きそうになるあいつに、噛んで含めるように、

「お前も俺や羽飛がうらやましいんだったら、ここいらで男らしさをマスターしろよ!」


 そうだ、「男らしさ」なのだ。

 俺なりに立村の性格を分析してみて、一番欠けている部分がそこなのだ。

 今の三年たちが卒業するまでに、俺はきちんとそのあたりを弁護できるようにしなくちゃならない。

 ──俺の跡継ぎは立村を指名します。文句ありますか。

 文句ありありの三年生を説得するために。


3 


 うつむき加減でスケート靴を履いて、最初よたよたすってんころりん、を繰り返していた立村だが、運動神経は悪くないらしくすぐに立って歩けるようになった。

「おい、早く来いよ!」

 俺は過保護主義じゃないので、まずリンクを一周した後、ど真ん中に立って怒鳴った。

 来れないなんて、まず言わないだろう。

「先輩、今行きます」

 氷の上に手を付き、ゆっくりと立ち上がり、俺の方に大きくうなづいた。意を決したって感じだった。歩いているのか、それとも滑っているのか区別がつかなかったが、二メートルくらいのところで要領をつかんだのだろう。二本足一緒にすべるような格好でたどり着いた。

「お前、覚えるの早いな」

「たまたまです」

 だから、こういう謙遜する癖、直せよお前。言いたくなる。

「じゃあ、俺の後ろについて来い!」

 次に俺は、心持ゆっくりと、片足ずつすべり、リンクの端まで誘導した。あいつも時々腰を低くしながらもなんとか付いて来た。途中ふらついて俺の背中につかまろうとしたがそうは問屋がおろさない。振り切るのも、兄の愛だ。

「一周するからな。ほら、へっぴり腰出さないで付いて来い」

「はい」

 小さい声が後ろに聞こえる。もう一度気合の入れなおしだ。

「返事はでかい声で!」

「はい!」 

 あまりでかくなかったが、聞こえたしまあいいか。


 雪が時折細かい粒のように降り注ぐのみ、空は気持ちいいくらい晴れ渡っていた。

 だから暖冬っていうんだろうな。俺はわざと口を開けたまま、舌の上に雪を受けて飲み込んだ。

 手袋も合皮の黒と白がストライブ模様に張り巡らされている派手目なものだ。立村も同じく合皮だったが、自転車を漕ぐために指先が少し切れているタイプをしている。スケート中すっころんで後ろから来た奴に指をすぱっと切られたらどうするんだ。余計なお世話だろうが文句言わずにはいられない。

「お前、もう少しウインタースポーツ楽しむ専用の格好しろよ」

「はい」

 こいつのよさは素直さ、だろうか。いや、それは欠点でもある。

 もし俺がこいつの立場で、結城先輩に言われたら即、

「いきなり引っ張り出されてそったら準備ができるわけねえでしょうが。じゃあ買ってくれって俺言いますぜ」

 と噛み付いてるだろう。俺も自分で小言ぶつくさ言いながらも矛盾に気付いていないわけではなかった。とにかく俺の言うことはなんでも聞くし、さっき清坂たちにぶうぶう言われた時だって、結局は俺に押し切られた格好になったわけだ。まあ俺の押しが強かったためといえばそれまでだが、もう少ししゃんとしたってよかろうに、しゃんと!

「じゃあ少し休むか」

「はい」

 疲れたわけではなくて、途中笛の音が聞こえて、係の人の「リンク整備のため、十分間休憩します」のスピーカー案内で断ち切られた、というのが本当のところだ。だいぶ俺のスパルタ教育の効果もあって、なんとか立村は手を付かずにすべることができるようになっていた。早い。こいつの得意なスポーツは卓球と自転車‥‥スポーツかどうかは別だが‥‥くらいしかないか、と思っていたんだが、それなりに男としての力はつけていたんだな。

 野外リンクということもあり、外のベンチに腰掛けても尻が冷たかった。白いジャンバーの俺よりも、コートをたっぷりした感じで羽織っている立村の方があったかいだろう。

「おい、俺が金出すから、コーヒー二本買って来い」

「はい」

 やっぱり素直だ。立村はすぐ立ち上がった。

 自動販売機は貸しスケート靴受け取り場のすぐ側だ。


 ──本条、どうしてお前、立村をそんなに推すわけだ? 

 ──悪い奴じゃないのはわかっているんだ。でもなあ。

 ──そうだよ本条くん。立村くんがすっごくなついているからひいきしたい気持ち、わからないわけじゃないけど。やはり器の問題ってあると思うのよ。

 ──順当に行けばやはり、天羽が妥当なんじゃないか? あいつだったら人あたりもいいし上級生受けも悪くない。頭も働くし、なんてったってリーダー向けだ。笑いを取って軽くみせて、そのくせ裏ではしっかりと押さえをきかせている。女子から人気も高いだろ。それに比べて立村は、まあその、いろいろ問題あるだろ?


 ああ、まったくむかつくったらねえ!

 あいつがもう少ししゃんとしてればな! しゃんと!

 俺だって三年の先輩たちが立村を評価できない理由がわからないわけじゃない。言われることはごもっともだ。

 結城先輩にもしょっちゅう呼び出しを食らっている俺としては、このまま素直に言うこと聞いておいたほうが丸く収まるってこともわかっているわけだ。あの事なかれ主義を通しているように見えて自分のやりたいことを押し通す結城先輩が、口すっぱく言いつづける理由に、どうして逆らうのか、俺? 

 ──ほんさと、お前、立村を弟分にしているからなおさら、過剰評価しているところがあるんでないか? 

 例の「日本少女宮」ポスターでけばい部屋で、俺は何度も説得された経験を持つ。ちょうど水着グラビアがどっさりはられていた時期で、ホルスタイン並の胸が目の前にちらついて俺はもう、全身発情状態・からエアだった。それでいて、説教されることったら、立村がらみのことばかりだ。うちに帰って性欲解消を図りたくなるのも無理ないだろ?

 ──別に俺は、天羽を評価していないわけではねえし、むしろあのキャラクターは貴重だから守ってやりたいとこですよ。それは俺なりの考えとして、ちゃーんともってます。けど、天羽はお家の都合かなんかわからねえけど、あまり出てこないじゃあないですか。でかい行事にはきちんと参加するけど、ちょこまかしたものにはあまり。それはちょっとまずいんじゃ。

 ──お前だって理由知っているだろ。天羽のうちは宗教がらみでいろいろ面倒な制約があるんだ。

 わからないわけじゃない。どうしても天羽を俺の次にあてがいたくないというそれだけの理由だ。

 ──立村をひいきしたいというのは、そりゃあわかるぞ。気に入っている後輩をひっぱっていきたいってのもな。そうだよなあ、ほんさと、お前立村をとことんめんこがってるからな。巷では「本条・立村ホモ説」まで流れてるぞ。

 まだ童貞卒業していない結城先輩にそんなこと言われたくなねえな。

 結城先輩は戦略を変えたのか、立村の性質について丁寧に注釈を述べてくださった。ありがたいことで。

 ──まあ立村は、誰とでもうまくやってるしな。うまく言えねえけど、「男子殺し」の目つきしてるよな。

 俺はそういう趣味じゃないっての。里理じゃああるまいし。

 ──いやホモとかどうとかいうんじゃなくて、なんとかこいつを応援したいって思わせるムードが漂ってるよな。一生懸命さが受けますってタイプ。それはいいよな。男子連中に嫉妬させないで、応援させるってんだったらいい。けど評議委員長ってのはどういう素質が必要かわかるだろ? ほんさと?

 わかってるさ。俺だって立村に何が欠けてるか。

 ──とにかく自分で物事を決めて、周りを巻き込んでいく、引っ張っていくって言うのか?それが絶対に必要なんだ。ほんさと、お前そうとう一年の頃ぶつかりまくってきただろ? 俺たちの代を始め、もう一年上の先輩たちとも、あと同期ともな。このまんまじゃああいつ、つぶされるぞって思われてたことくらい、気付かなかったわけねえだろ。

 ああ、ほんと俺も、まさか評議委員会にこんなにのめりこむとは思わなかったっすよ。のめりこむのは女子の穴の中かと。

 ──それがだ。いつのまにかお前は押しも押されぬリーダーになったってわけだ。お前には他人なんかにつぶされたくないポリシーってものがあったぞ。納得いかないことは納得いかないし、やりたいことを通すためにはどうすればいいかを考えるだけの力を持っていた。なによりも、周りを巻き込んでいくだけのパワーがある。俺の経験から言って、一番大切なのはそれだと断言できる。ほんさと、よっく考えろ。立村にそれだけの資質、あるか?


 無言で俺の隣に座り、持ってきた缶コーヒーを差し出す立村の顔をまじまじと見た。

 ない。そんなもの。

 立村に、結城先輩の求めるだけの「資質」なんて、ありはしない。

「先輩、これでいいですか。もし間違ってたら、俺、買いなおしてきます」

「いいからお前も飲め。今日はおごりだ」

 コーヒーで口を湿らせ、俺は立村の頭をがしがしと撫でた。



 休憩後スケートリンクを二周する頃には、すっかり立村もすべりに自信がついてきたようだった。スピードスケートの選手のフォームみたいに、後ろ手回して腰を落としてすべるのもずいぶん形が整ってきたように見える。時々振り返って見ると、かすかに笑顔が覗いていることに気付く。あまり機会がなかったのだろう。また冬休み中にでも誘ってやるか、と思う。

「しっかし、スケートしなかったこの十二年間、人生無駄にしたと思わないか?」

「え、いえ、あの」

 口篭もる立村に、俺は思いっきり耳をぐりぐりしてやった。

「いいかげんお前も、あいまいな言い方するのやめろ。ったくなあ、こうやっておどおどしてるとろくなことねえってのは、最近のことからしてもよっくわかってるだろ? な?」

 立村はうなだれると同時に、何か口に出そうとしていた。返事しないと俺に怒鳴られるとでも思っているのだろう。

「あの、すみません」

「謝れって言ってねえだろ。まあよく聞け」

 滑っている奴らの邪魔にならないよう、出入り口の側に固まって並んだ。ついでに聞かれないように、俺なりの小さい声でもってささやいた。

「お前、納得いかないことには納得いかない、気に入らないなら気に入らない、はっきり言えよ。相手が俺でもだ」

「いえ、別に」

 また小声で返事する奴を、遠慮なく小突いてやる。

「気に入らないことを言われたら俺もこういう風にどつくだろうが、安心しろ、殺しはしないぞ」

 言葉に反応して震え上がるのはやめてほしい。言い過ぎたか? こいつの性格を一年近く見てきて思うのだが、ふつうの男子ならこんなこと気にしねえだろ、ってところに過敏反応するところがあるのだ。

「最近、なんかむかついたことでもあるのかよ?」

 直球で尋ねるべきか、それとも裏手回しで聞くべきか、とっさに判断できず俺は、後者の言い方で聞いてみることにした。言われた意味がよくわからないのか、立村はゆっくりと首を振り、

「あ、あの、よくわからなくて」

 また小声で言いかけた言葉を飲み込んだ。

「だから言ってるだろ! 男なら男らしく、言いたいことははっきり言えって!」 

 堂々巡りだとわかっていても、繰り返すしかなかった。


 ──立村が難しいな、と思う理由は、ほんさと。お前も重々承知なんじゃないのか。

 結城先輩に尋ね返された時、俺は返事ができなかった。

 ──もちろん、最近流れている噂は根も葉もない大嘘だってことは、三年の俺たちもわかっているつもりなんだ。アイドルの休養とか恋愛の噂とかは、大抵の場合番組宣伝の流れとか、プロダクションからの意図的な情報とかいろいろあるけれどもな。

 それだけよくわかっていれば、いいじゃないかと俺は言いたかった。

 ──まさかな、あの立村がだ。嫌がる女子を追いかけてさんざん付き合いを要求するなんてな、想像するだけでも笑えるだろ。あれはガセだ。ただ、俺が言いたいのはその噂が正しいか正しくないか、そういうことじゃない。

 結城先輩は「日本少女宮」のロング抱き枕にまたがりながら、まじめな顔して言ったっけ。

 ──その噂に対して、立村がどう対応したか、それを言ってるんだ。


 すでに十二月の半ばから一年生女子の間でささやかれていた噂だった。

 ──一年D組の立村が、同じクラスの女子にしつこく迫って嫌がられている。はっきり振られたら逆恨みして、またその子の後をつけたり、手紙をよこしたりしているらしい。

 てっきり清坂に横恋慕しているんだろうか、と最初は考えた。同じ評議委員同士の清坂はしっかりもんで、ぼんやり立村のことを一生懸命サポートしてくれていた。いわば「姉さん女房」みたいな感覚だろうか。姉が弟を面倒みる、といった方が近いだろう。俺が見る限り、清坂は羽飛としゃべっている時の方がずっと生き生きしているし、楽しそうだ。恋愛ってのは楽しくなくちゃあ嘘だと思う。立村相手の場合だと楽しさよりも、「かまってあげなくちゃ!」みたいなところが強くでて、正直女子としてはしんどいのではと思っていた。けど立村はそういう女子のやさしさに慣れていないし、そこでふらふらっと恋に落ちたとしてもそうそう不思議だとは思えない。いくら親友の羽飛の恋人とはいえ、簡単にはあきらめられまい。

 しかし、もっと詳しく事情を調べたところ、相手がまったくのノーマーク女子だったことに驚いた。

 また、立村自身もその噂に対しまったくのノーコメントを通している。

 まったく根も葉もない噂だったら、もっとぶち切れたっていいだろう。

 やはり思い当たる節があるのだろうか。

 俺にはまだ、そのことであいつを問い詰めることはできそうになかった。噂だけで相手を攻め立てると大抵の場合、しっぺ返しがくるだろう。それに‥‥信じてもらえないかもしれないが、立村の様子からしてどうしても、そういうねちっこい恋をひっぱるようには思えなかったのだ。俺の直感としか言いようがないのだが。ぴくぴく、おどおどして俺の背中にひっついている情けない弟分だが、いざとなったらとことんぶっちぎっていく、そういうタイプに思えてならなかった。

 初めて立村と親しく話をしたのは、四月の「非公認・一年男子評議委員・固めの盃」儀式だった。

 もともと立村は、三年の先輩たちが言う通りおとなしくて引っ込み思案だったが、なぜか俺の側に座りたがった。何かかしら、俺の顔ばかり見ていた。数滴のビールでぶっつぶれ俺に介抱される羽目となり、それ以来俺には頭が上がらなくなったらしい。脅したわけでもない。あいつの小学校時代が相当悲惨だったこと、いじめの後遺症からまだ抜け出していないこと、また小学時代のいじめっ子から逆襲されるんじゃないかとおびえていること、結局のところ立村が引きずっているのは小学時代の過去なのだろう。

 俺があいつに、一番最初に命令したのは、「小学時代のいじめっ子の前を、自転車で走り抜けろ!」だった。

 通学路で小学時代の連中と顔を合わせたくない一心で、とんでもなく早い時刻に家を出ていることを知った時、こりゃあまずいんでないかい?と思ったのがきっかけだった。ふつうの男だったら、そんなこと気にしないだろうし、けんか吹っかけられたら受けて立つだろう。俺だったらそうする。でも、立村にそれはめちゃくちゃ高いハードルだったらしい。ぐじぐじ嫌がったけれども、ケツを叩いてやったら無我夢中でつっぱしっちまったことを覚えている。

 つまり、やればできる奴なのだ。あいつは。

 その後も俺は、立村に対して運動会やら学校祭やら、今回の「ビデオ演劇」やらを通じて、超えるべきハードルを用意するよう心がけていた。もちろん先輩たちには言わない。当然あいつにも。ただ、あいつが俺のことを兄貴分として慕ってくれる以上、男にしてやりたい、そういう気持ちが湧いてくるのはむしろ自然なものではないだろうかと思う。

 人は知らん。俺だったらあいつを、ちゃんと誰からも文句を言わせない「さすが本条里希の弟分だ」とうなずかせてしまうような男に育て上げたいと思う。そりゃ最初はびくついていたかもしれない。いじめられて泣いてばかりいたのかもしれない。ありもしねえ噂に反撃できないようなよわっちい奴かもしれない。けど、俺は知っているんだ。

 立村は、本気を出したら、めちゃくちゃ強いんだってことが。

 本人もまだ気付いていないんだろうな、きっと。



 リンクには途中から青大附中の女子たちも顔を出し始めた。俺の知り合いも数人いて、挨拶を交わしたりからかわれたりといろいろした。女子からみの問題をいろいろと背負っている俺としては、あまりその場では遠慮したいネタもあったりした。俺は立村を促し、帰り準備をした。スケート靴をレンタル返却所に返して、ぶらぶらと歩道を歩いていった。

 立村だけが少し遅れて出てきた。待っているほど過保護でもない俺は、五メートルくらい先を歩いていた。

「先輩、すみません」

「ありがとうだろ」

 ぴしゃっとまずは先手。時計の針はまだまだ三時過ぎだった。

「お前さ、どうして今までスケートやらなかった?」

 やっぱり俺は堂々と質問するほうが向いている。立村ははっとした顔で俺を見た後、口を一文字にし、息を吸い込んだ。

「行く機会がありませんでした」

 きっぱりした声だった。リンクでぼそぼそびびったれていたのとは大違いだった。覚悟が感じられる。それなら俺も答えてやらねば、そう思った。

「小学校の連中と行く機会が、なかったんだな」

「そうです」

 よくぞ認めた。ほくそえみたい。顔を引き締めさらに続けて問うた。

「立村、お前今まで、小学校の連中がやっててお前がやる機会なかったものいくつくらいあるか、数えられるか?」

「あの、それは」

 指を折ろうとする立村。こいつが数学的感性ゼロなのも俺は知っているからやめさせた。どつぼにはまる。

「まず自転車で小学校の連中の前通れなかったことだろ。女子と対等にしゃべれなかったことだろ。男子とスケベ話できなかったことだろ。担任とけんかできなかったことだろ。学芸会で劇に出られなかったことだろ。清坂や羽飛みたいなマブだちがいなかったことだろ。まだまだあるよな」

 あえて、「嘘ばっかり言われて傷つけられても何も言い返せないこと」とは言わなかった。 

 立村の頬が妙に赤い。外で冷えただけではこんなに赤くなりはしない。

「どれだけそれ、今年一年でやることできたか? 数えるなよ。思い出してみろ」

 やめろって言ってるのにしっかり指折っている。こいつなんだ。

「‥‥わかりません」

 俺はわざとでかいため息をついてやった。あいつがあせって俺を見るのがよくわかる。

「ばあか。気付いてねえだけじゃねえのか。まだあるぞお前、かわいい彼女と付き合うチャンスもまだねえだろ。それに、委員長経験も今までほとんどないだろ。確かお前、小学校時代万年保健委員だって聞いたが」

「そうです、俺はあまり、上に立つことないから」

 そういう奴を俺は、後継ぎに指名したいって思っているわけなんだ。

 もうひとつため息をついたのは、俺に対してだった。


 ──結城先輩、お言葉を返すようで申し訳ねえんですが。それとそのクッション、すげえ卑猥に見えるんでやめてくれないですか。俺、夜、あそこ立ちっぱなしで寝れなくなったらどうするっすか。

 まずは俺の睡眠に影響しないよう協力を要請した。その点結城先輩はわかってくれている。素直に背中へ抱き枕を隠してくれた。

 ──確かに立村は、結城先輩たちの言う通り俺みたいなタイプの委員長にはなれないじゃねえかって思いますよ。

 ──ほうほう、よくわかってるじゃないか。

 ──強引にこっち向かせて歩かせるとか、女子たちをきゃあきゃあ言わせるとか。他の男子連中をぶん殴って、力技で従わせるとか。あいつがそんなことやってるのって、想像つかねえし。

 すいません、全部俺がやってきたことだ。

 ──だから、たぶん天羽だったらそれは簡単にできると思うんです。それは俺も賛成してます。

 ──じゃあなんで、天羽じゃあだめなんだ? そこまで立村にこだわるのはなぜなんだ?

 問われた時、自然と口からこぼれていた。

 ──俺のコピーを見るのってつまんなくねえですか? 結城先輩? それよか、違うバージョンでもって、これから評議委員会がどうなるのか、見たいって言ったら変ですか?


 俺はぼおっとした頭の中で、結城先輩との会話を思い出していた。結局その時は結城先輩を説得することができなかったし、いまだに問題は尾を引いていた。今の三年評議は全員青大附高に進むことになっている。これから先俺が、どういう形で立村を教育していくかを興味津津で見つめるだろう。すげえプレッシャーだ。

 確かに、順当にいけば「関西ギャグマニア」の一年A組評議・天羽を指名するのが正しいだろう。

 俺も天羽のことは嫌いじゃないし、同等の立場としてみたらいい仲間になれただろうと思う。

 ただし、あくまでも同期、としてならだ。

 この一年、結城先輩から青大附中評議委員会に関するレクチャーを毎日受けてきて、俺なりに来年の評議委員会をどのように持っていくかのイメージはだいぶ沸いてきている。あえて副委員長を用意しなかったのも俺の考えだ。余計なことを同期に言われていらいらしてぶっ壊してしまいかねない、それが俺の性格だ。むしろ、下で支えてもらう方が俺の気性に合っている。すげえワンマンだと人は言うが、正直そのやり方しか、俺にはできない。だから結城先輩に俺のやり方を伝え、その意思でもって、受け入れてもらった。悔いはない。 ただ。

 迷っていたのかもしれない。

 ブレーキがほしかったのかもしれない。

 甘い顔したブレーキが。



「なあ立村、お前さあ」 

 話が湿っぽくなるのもなんなので、クリスマスイブにふさわしいいちゃいちゃネタを振ることにした。この一年、立村には思春期の男として当然の衝動や、当然の行動、および当然知りたいことを細かく教えてやっていた。どうも話をしてみた印象では、こいつ、まだひとりでの‥‥経験がないらしい。当然エロ本やアダルトビデオ、その他もまったく免疫がないと観た。もちろん自然の衝動なんだし目覚めたら後は早いだろうが、いきなり女子のまん前で身体の方が反応したらもうどうしようもあるまい。ってことで、家でこっそり助平書物の一式をマスターさせた。最初は露骨に顔をしかめていたが、最近は無理やりポーカーフェイスを作るようになった。そろそろ目覚める時も近いのではと俺は思っている。せめて、一人で抜くことくらい覚えろよ、と思うのだが手取り足取り教えてやることじゃないからなあ。その辺についてはまったくのガキんちょだと思う。

「お前、羽飛たちがうらやましいと思うことねえのか?」

「ありません。というか、あるけど、先輩とは違う意味かもしれません」

 ずいぶん優等生的なお答えだ。あまり気取ってたら後が怖いぞ。やさしい先輩本条里希はその辺、じっくり教育してやらねばなるまい。「三人で一緒にお食事ができなくてさびしいか?」

 もし、立村がひそかに清坂への想いを隠していたとしたらだ。その辺はあるだろう。

 でも、すでにらぶらぶなカップルが出来上がってるのに邪魔するのはどうかと思うぞ。

 あきらめる時はあきらめろ。無理やり追っかけると返って嫌われるぞ。

「いえ、俺も本当は、あの二人だけのほうがいいと思ってました」

 言葉を選びつつ、立村は静かに答えた。

「ほう、それはどうしてだ?」

 本日何度目かの頭ぐりぐりをしてやった。髪の毛が中途半端に伸びていて、つかみ心地がいい。されるままになっている立村は、やっぱり素直だった。たまに髪が引っ張られて痛そうな顔をしていた。

「じゃまするのはやっぱりよくないと思っていたし」

「そうだよな、そうだよな」

「けど、俺のことを変な目で見ないのは、あの二人だけだったし」

 かちりと、頭の部品がぴたっと納まったような気がした。


 俺もいくらあいつが弟分だからといって、あいつの友だちづきあいをすべてチェックしているわけではない。うまくつながりをこしらえているようだし、評議委員仲間とも男子たちとは問題なく付き合っているように見える。しょっちゅう話に出てくる天羽も、立村のことを同期の弟分みたいに面倒みてやっているようだし、シャーロキアン難波も立村が論理的部分で口篭もってしまった時すぐに助け舟を出してやったりしている。あわや未成年淫行につっこみそうな更科も、立村がいろいろとへましでかすたびに場を和ませるような笑顔でもって、女子たちをなだめている。

 あいつらは立村をカバーするという一点でもって、意志統一がなされているように見える。

 俺たちの学年でそれはまったくありえないものだった。かなりワンマンを通した俺は一年前期の段階でかなりの委員入れ替えを行った。自主的にやめた奴も多かった。今、一緒に評議をやってくれている連中はその中でも俺の意思にとことんついていくと覚悟を決めてくれた奴ばっかりだ。けど、もしかしたら、俺がもう少し別の接し方をしていたら、まったくもって生え抜きメンバーで今日までこれたんじゃあないだろうか?

 立村に足りないものは、周りの奴らを信頼していないという、それだけだ。断言する。

 自分自身をまだ信頼してないっていう感じだろうか。

 自分にはまだそれだけの器がない、そう決め込んでいる。

 スケート滑ったこともないくせに、本当はいじめっ子連中の前を自転車で走りぬけることだってできるのにしなかったくせに、自分に着せられた濡れ衣を言い返せば少しは噂も収まるのに、三年生たちから上げられた不安材料をあいつならいくらでも打ち消すことができるはずなのに。

 俺とは違う形でもって、評議委員長をつとめあげることだって、できないことじゃない。

 

「あのな立村。清坂はめんこいし羽飛もいい奴だ。あいつらしか信頼してねえってことなのか」

 俺は空を見上げ、もう一度息を吸い込んだ。

「信頼?」

「お前言ったよな。お前のことを変な目で見ないのは、あの二人だけだって。そんなことはないんじゃねえか?」

「けど」

 言いかけた立村に、

「俺はどうなんだよ、俺は」

 立ち止まった。人差し指を俺の方に向けて、つんつんとさしてやった。

「お前の言い方だとな、俺はどうなんだって思うぞ」

「本条先輩、そんなことないです。だって本条先輩は」

 激しくかぶりを振る立村を見ていると、俺の疑念なんてあっさり消え去るもんだった。そうさ、一度だって疑ったことないもんな。立村が一番信頼しているのは、俺だって嫌ってほど伝わってくるんだ。ただ、なんとなくいじめたくなるんだ。しょうがない。

「いいか、明日からの『ビデオ演劇』だが、お前とことん俺の後ろにくっついて来い。三年の先輩たちがお前にいろいろ言うだろうが、とにかく俺の側から離れるな。ホモと言われようが変態と言われようがな」

「変態だなんて思ってない‥‥」

 慌てて打ち消そうとしている。そんなこと言われたら俺だって怒るぞ。

「ばあか。無理して言うんじゃねえよ、変態なわけないじゃねえか」

 混乱しているのかまたきょときょとと俺を見るのが面白い。

「お前浅野の殿様だろ、出番は二カットだし撮影はさっさと終わる。あとは御大将・大石の出番ばっかりだ。とことん俺の付き人としてくっついてろ。これは命令だからな」

 こくっとうなずくとまたすぐに、小さな声で「はい」と返事した。


 俺だってクリスマス・イブはそれなりに用事がある。いわゆる彼女もちの定めってところだ。

 けど、やっぱり放って置けないじゃないか。

 たぶん羽飛や清坂が、せっかくのデートタイムにもかかわらず立村を仲間に入れようとしたのも、きっとそこにあるんだろう。一人ぼっちで無視していたらきっと、何も言わず飲み込んだままで突っ立っているかもしれない。見られている方がもっと切ないぞそれは。あいつらだけじゃない、天羽も、難波も、更科も。

「ひとつ聞きたいんだがな、立村」

「はい」

「どうしてお前、他の評議男子連中と俺みたいにしゃべらねえんだ?」

「しゃべらないわけじゃないです」

 また口篭もろうとするので、後ろに回って全体重ずしっと両手から肩にかけてやった。重たそうに振り払おうとするんで、適当なところで退いてやった。やっぱり文句は言わない。

「まあいいや、明日からすりゃあいいか。それよか今晩だな、ひとりだよな、さびしいよな」

「さびしいって、別に」

 またまた。心にもないようなことを言っちゃあいけない。好きでもなんでもない女子のことを追いかけているなんて思われて、これから七十五日以上の噂になるのが見え見えなあいつに、ストレス解消方法を教えてやらねばならない。これが俺なりの、クリスマス・プレゼントでもあるわけだ。

「こういう時はだ。クラスの集合写真とかあるだろ? そういうのを開いてだ。自分の好きな子かもしくは気になる子をひとり選んで、いろいろ想像するのが一番なんだ」

「想像、ですか?」

 具体的に説明しないとやっぱりわからないか。一からな。

「そう、ちゃんと出すところ出して、しごくところしごいて、すっきりしろよ。いいもんだぞ」

 だいたい見当はついたのだろう。言葉を出さずに立村の顔は真っ赤になっていく。こいつもともと生っ白い顔をしているんだが、ぽおっと頬が赤らむのが目立つのは弊害なんだかなんなんだか。



 ──とにかくだ。来年の三月までに、お前の弟分をどこまで納得させられるかが問題なんだぞ。はっきり言ってこれはしんどいと思うんだがいかに、ほんさとよ。

 俺は結城先輩の前で、言い訳とも言い逃れとも言えないようなことばかり口走っていた。三年たちの「立村よりも天羽を俺の後釜に」という意見を覆すのは、現段階では難しいだろう。もともと結城先輩はプライベートでも立村より、天羽や難波をめんこがっていた。いや、難波に関しては「日本少女宮」の熱狂的ファンだったってのも共感理由だったのかもしれないがそれはいいや。俺にしかなつかない、俺にしかくっついてこない。そういう存在はなつかれる当人にとってこそくすぐったくも気持ちいいもんなんだが。けど、無視されているように感じる他の先輩どもはやっぱり面白くないんだろうな。立村の性格を考えてみても、その一線というのは非常にリアルに感じられるわけだ。

 ──要は、あれっしょ。俺がもっとびしっとしつけりゃあいいんでしょうが。

 ──俺がお前を面倒みたのとは違うやり方だがなあ。

 面倒見たとは片腹痛い。俺からしたら、のほほんお坊ちゃま委員長を支えた敏腕の後輩と言ってほしいもんだ。

 ──まあいいや。ほんさとがそこまで言うんだったらじじいはこれ以上何も言わん。

 ──ありがとうごぜえやす。

 

 ふつう委員長とは、民主主義の原則の元、選挙で選ばれるのが筋だろう。しかし結城委員長の代から方式が変更となり、現委員長が後輩を一人選んで一子相伝で教育することになっている。顰蹙買いの俺がなぜ来年以降の評議委員長に選ばれたのか、そういう裏事情を知らない限り、理解してもらうことは難しいだろう。

 俺もできれば、次の代も同じ形で選びたいと思う。

 ただぽんと選ばれるよりも、逐一俺のたどってきた道を追っかけてもらって、その後であいつがどういうやり方を選ぶかを、観客として見せてもらいたい。

 もちろん俺と同じやり方を選べというのだったら、天羽なり他の奴を指名してそのまますうっと通してもらえばいいだろうが、なんかそういうのはしたくない気分だった。結城先輩だってそうだ。結城先輩の路線をそのまま歩いてもらいたいんだったら俺以外の奴を選んだほうが楽だったはずだ。いわゆる「傀儡政権」って方法だってあるはずだしな。

 先が読めないやり方をあえて選ぶ、それが俺の生きる道だ。


「本条先輩、聞いていいですか」 かすれた声で立村が俺に問う

。「ああ、何でも聞けよ」

「いえ、いいです」 

 小声で首を振りながら答える。

「なんだよ、言いかけたことがあるんだったら、はっきり言え」

「あの、だから」

 ぎゅっと結んだ唇を震わせている。なんか相談したいのかな? まあいいか。

「本条先輩、明日からずっと一緒にくっついてろって‥‥けど、きっと他の先輩たちがあまりいい顔しないんじゃないかって思うんです。俺は、頭よくないし、要領も悪いし、それに」

 言葉を飲み込んでいる。ははん、それは計算ずみだ。ぼこっと後ろ手でぶん殴ってやった。

「あのな、さっきのは命令なの。わかったか。兄貴の命令は弟分がきちんと聞くもんだ。余計なこと考えるんじゃねえ」

「けど本条先輩に、迷惑かけるのはいやだし」

「迷惑かからねえよって言ってるだろうが」

「けど、俺は」

 震えている様子だった。なんかこいつ、こういうところばかり見せるから「女々しい」って言われるんだろうな。あんまりなよなよぶるぶるしているようだったら、誰もいないところへひっぱっていって、両頬ひっぱたき気合を入れてやろうか。そんなことを思いながら、俺は黙って見下ろした。言いたいこと、聞いてやろう。

「先輩は俺が、小学校の時とか、あと最近とか、してきたこと知ってるかどうかわからないけど、もしすべて知ったらきっと軽蔑すると思います、だから」

「だから?」

 まだ言いたいことあるんだろ? 余計なこと言わんでおこう。

「だから、他の人たちが言うことの方が正しいんだって、思われていいんです。それが、ふつうのことだから」

「ほお、どういうことだ? 他の奴がお前のことを女たらし扱いしたとして、お前はそれをその通りだって認めてもいいってことか」

「‥‥その通りです。だから」

 俺は最後まで言わせずあいつの頭を思いっきりぶった。

「お前それって俺を侮辱しているって認識してねえだろ! いいか、俺にくっついてくる以上、俺の思っているような人間だと証明してみろよ。他の連中がどういおうが、俺はお前を弟分に選んだんだ。それだけの価値があると勝手に思い込め!」

 しばらく痛そうに後頭部を押さえていた立村は、じっと俺の顔を見つめた。感情のない、しんとした目つきだった。

 とびかかってきそうな気もしたんだが、様子を見ることにした。

「はい」

 こくんと、喉のところが動いたのが見えた。目はそらさずに、あごを引いた格好で、

「本条先輩に、迷惑かけません」

 なんとなくまぶたのところがふわっと赤く染まっているような気がした。あいつも男だ、俺は気付かないふりをしてやった。



 天羽も、難波も、更科も、どれもまれに見る逸材だ。

 立村以外ならば誰でも評議委員長候補としてOKが出るだろう、それは俺も否定しない。

 今までの青大附中評議委員会を守りたいんだったら、俺も三年の先輩たちが訴える方向で考えただろう。いくらめんこがっているとはいえ、立村を無理に推したいとか言い出して、周りを白目にしてしまうようなことはしないだろう。

 けど、俺がやりたいのは、守りじゃない、攻めだ。

 「ビデオ演劇」やったり生徒会を食ったり、これからすべきことはどっさり用意されている。ひとつひとつ升目をつぶしていくように突っ走っていくのが俺のやり方だ。多少の傷は気にしない。やってられない。

 あえて副委員長を置かないという選択肢を選んだのは、同期連中がみな似たり寄ったりの発想の持ち主だったから。決して信頼してないわけじゃあないんだが、クローンがほしいわけじゃあないんだ。むしろ、まったく違う感じ方をして、俺よりもずっと傷つきやすくて、どうしようもなく不器用で、それでいて俺のことを慕ってくれる奴にいてほしかった。もし俺を信頼してくれないんだったら、考え方違うだけでむかついておっぽり出したくなるだけだ。とことんずれてていいから、俺の背中にくっついて離れない、そういう奴がほしかった。


「立村、これからどうする?」

「羽飛たちに電話入れて、今日のこと謝ります。やはり先約優先が当然だと思うから」

「まあそうだな、それも一つの手だ」

 俺なら決してしないだろうが、立村にとってはごくごく普通のことなんだろう。まだ三時半前後だ。もしかしたらクリスマスデート真っ最中かもしれないぞ。連絡、つけてほしくねえよな普通は。電話ボックスにかけていった立村は、すぐに戻ってきた。たぶん連絡つかなかったんだろうな。その辺はどうでもいいんで聞かないでおく。


「あの、先輩」

 コートのポケットに片手を突っ込み、肩を上げて寒そうに身をかがめていた立村は、

「今日はあと、ひまなので、なんでも言われたことやります。何すればいいですか」

 じっと俺を見据えた。いかにも、パシリになるって覚悟の顔だった。別に俺は、下級生をこき使いたくてあいつを弟分にしているわけではない。けど今こいつが自分から、俺にくっついていたいって言い出したんなら、使わない手はない。鉄は熱いうちに打てっていうんだ。

「そうだな、お言葉に甘えてだ」

 とりあえずはそっぽ向いたままで、俺は考えるふりをした。

「俺の家でまずは、超ハードコアのエロ本でも見るか」

 通行人の耳に入ると大迷惑なんで、さすがの俺もこの辺は声を低くした。立村の顔がひきつった。

「見た後で、お前の素直な感想を聞かせろよ」

「先輩、そんな、あの、できませ」

「男に二言はないだろ! 『なんでも言われたことやります』って言ったのは、お前のほうだぞ立村」

 黒いマントの襟に顔をうずめるようにして、立村は「はい、わかりました」とささやき声で答えた。

 ──さーてと、楽しみだ楽しみだ!

 演技をする以上、演じている人の感情を読み取ったりするのも勉強なんだしな。

「先輩、あの、今日、先輩の……」

「あ、お前もスケベなこと考えてただろ。デートってのは真夜中、五分もあれば完了だ」

「そんなこと、考えてないです、けど」

「口より身体の方が正直なんだって、わかってるだろが。ま、家についてからゆっくり観察してやるからな」

 一瞬立ち止まり、コートを直そうとする立村。まったく、俺だったら絶対にしないよな。

 

 自分の発した言葉を後悔しているんだろう。隣でもうりんご状態と化したあいつのほっぺたを時折つついてやりながら、俺は上機嫌で家に向かった。

 素直に本能を発揮して鼻血噴いてもOK、照れのあまり俺に八つ当たりしてもOKさ。あいつに感じたまんまの言葉をどっさりしゃべらせれば、大成功なんだ。めでたいぜ、メリークリスマス!


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