プロローグ・目覚めの海陽
夜明けの時間、海底の底深くにある3つの光球が
それぞれ赤・青・緑の強い光を放ち、海中を明るく照らしていく
その光が絡み合い、白い光になって海面に到達すると
海上は徐々に明るくなっていき、半刻もしないうちに
黒い夜空は青く染まり、暖かな光が世界を包み始めた
領域のほとんどが輝海という不思議な水に包まれている海洋世界ネプトリア
この世界に住む者達は輝海という神秘の力を持つ海により
海中での自由な活動に加え、様々な恩恵を受けて暮らしている
その神秘の力が強く集まる環礁の中では、無数の船が集まっており
多くの人々が集まって暮らしている
ここ、セレストオーシャンの環礁のひとつ、シャインラグーン
そこに暮らす、ある男の目覚めから物語は始まる……
海の底から上って来た光が周囲を明るく照らし、カーテンのスキマから顔を照らす
眩しさから目を覚まし、身体を起こしてあくびを一つすると……
窓に備え付けてあるバケツを海面に放り込み、水をすくって
眠気覚ましと水分補給の為、その中身を一気に飲み干した
少し前に呼んだ、出所不明の書物の中には
海水は塩分が高すぎて、人が飲むには適しておらず
塩辛さで却って喉が渇くような事が書いてあった
だが、ネプトリアの人間にそれを信じるようなヤツは居ない
海水に含まれる塩分は極めて薄く、塩分量は人体に含まれるそれに等しい
飲料水として使うなら、真水よりもよほど飲むのに適している
「ふぅ~……うまいっ!」
目覚めの一杯を飲み干し、一息つくと
漁から帰って来た漁師のケビンが声をかけてきた
「いよう、カイル! ようやくお目覚めかい?」
ケビンの漁は、暗い内に活動する獲物がターゲットのため
夜が明けぬうちに船出をし、朝日と共に帰ってくるスタイルだ
流石に、こいつと一緒にされるのは納得がいかない
「猟師と一緒にすんな、俺はこれでも早い位だよ」
不満げに答えると、ケビンは冗談だと言わんばかりに笑い返してきた
「ところでカイルよ、今日はガキ共を
神殿まで案内していってくれるんだよな」
ケビンの言う神殿とは、村を少し離れた場所にあるセレスト神殿の事だ
この時期になると近くの集落から子供達が
海で生きる資格を得る為の儀式として、神殿に参拝することになっている
参拝者を出す村の数がかなりある為、特殊な事情がない限り
基本的に1つの村からは3年に一度
今年の今日は、この村が参拝する日というわけだ
ただ、最近どういうわけか集落内が忙しくなっており
ちょうど、神殿に用事があった自分が子供達の引率を引き受けたのが少し前の事
「本当はラグーンの大人達が連れていければいいんだが、最近忙しくなってきてなぁ
いや、カイルが来てくれてほんと助かってるよ」
礼を言うようなケビンの言葉に返事をする
「なに、ちょうど神殿に用があった所だし、物のついでと言う奴だ
子供達の引率は、いつもやってる事だからな」
「ちがいない!
それじゃあカイル、今日は子供達の事を頼んだぜ」
そう言って、ケビンは船をラグーン内へと進めて行った
このラグーンに来てから3カ月、ようやく神殿への立ち入り許可が貰えた
子供達の引率と言うのが少し気になるが……まぁ、大事は無いだろう
そう思いなおすと、船の縁に腰かけ……
完全に目を覚ます為に、海の中へと飛び込んだ