プロローグ
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呪いにかけられた王子様や、妖精の女王、ドラゴンが出てくる王道ファンタジーです。ラブコメ要素も多めです。少しでも読んでいただけましたら、感想&評価お願い致します。
風ひとつない月夜のこと。鏡面のような太古の湖を前に、その人はもう一度深呼吸しました。
ジャブン。
鈍い光沢のあるバケツは滑るように泳いで、黒石榴の薄玻璃に美しい波紋が広がります。
男は思わず見とれました。しかしふと我に帰って、慌ててバケツを引き上げました。忘れていた手の感覚が、急にずしりと感じられたのです。
まるでぬらぬらした生き物のような水面に両手を浸すと、男は思わず声を漏らしました。汗が頬をつたうものの、水は刺すように冷たかったのです。
慌てて腕を引き出すと、男は感覚のなくなった手を見つめました。
両手を重ね合わせたお椀に、ひとすくいの水が入っています。漆黒の夜空を映すそれは、まるで天を丸く切り取ったかのよう。水面が揺れるたびに星々がきらきら光ります。
しかし次の瞬間、男が覆い被さるように覗き込んだので、小さな水鏡は一瞬真っ暗になりました。しかしその瞬間にこそ姿を現したものがありました。
鈍く光る玉のようなもの。それはたしかに、オレンジ色のか弱い光を発していました。