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序章

R15は保険です


「おや、きみが僕のフラウか」

 どんよりとした曇り空の日だった。

「………」

 わたしはその時住み家を抜け出し、一人裏山の大木の下で膝を抱えて小さくなっていた。

 小さく、小さく自分が誰からも見つからないように隠れて。

「こんにちは。名乗るのは初めてだよね?僕はレジナルドといいます。レジーって呼んで」

 裏山はひんやりと冷え、昨日降った雨はしっとりと地面に残っていて、比較的草の生い茂った所に座り込んでいたわたしを濡らしていた。

 とても寒くて、暖かい暖炉の前に行きたい気持ちはかなり強かったが、その時は住み家に戻りたくないという想いの方が勝っていたのだ。

 体はかたかたと震え、唇の震えも抑えようとしても無駄であり、一言でも声を出せばその声は無様に震えるだろう。だからわたしはわたしの目の前に膝をついた人物を睨みつけた。

「…っ」

「あれ、蜂蜜みたいな目の色をしてるんだね」

 驚いた。

 予想していたよりも至近距離まで近づいてきていたその人物に、一瞬ピントが合わない。しかしすぐにその人物の顔を捉えることが出来ると、わたしは息をのんだのだ。

「頬が赤い。痛む?」

 その人物はまだ少年だった。わたしと十歳は離れていないだろう。

 声が低かったので混乱したのだ。

 しかもその少年は、まだ幼かったわたしが一目見ただけで分かるような、上等な服を着ていた。薄っぺたい服を重ねられるだけ重ねて着ているわたしとは全く身分が違うのだろう。

 わたしは何故こんな人物に声を掛けられ、しかもどうやらわたしを探しにここにいるのだということに言い様もない違和感を感じ、座ったままじりじりと後ずさる。

「うーん、と。…もしかして僕のこと覚えてない?」

 気分を害した様子も見せず、少年は睨みつけたまま後ずさるわたしに笑いかけた。

 わたしはゆっくりと頷き、大木の後ろに隠れる。

「そっか、残念。じゃあ今日から覚えてくれると嬉しいな」

「…なん、で」

 あまりに邪気なく笑うから、わたしは寒さにかすれた声をあげた。

 少年は笑みを深めて、紺色の上衣を脱ぎ、わたしに差し出す。

「さ、これを着て。風邪ひいちゃうから」

「し、らない人からもらわない」

「大丈夫。今日から知らない人、ではなくなるから」

「?」

 少年はわたしをこれ以上追い詰めないように、その場から動かずにこう言ったのだ。

「今日から僕たちは“家族”になるんだ」



 それがわたしが彼を彼として認識した出会いである。

 まあその後、彼の上衣を受け取る受け取らないで一悶着あったり、風邪を引くから戻ろうと言われて噛み付いたり(物理的に)、大暴れたりした場面もあったのだが、割愛させていただく。

 とにかく、わたしはその日、マモル・フラウエンからマモル・フラウ・セビリアへと名前が変わった。

 ルクメニスタ王国に三家しかいない侯爵家である大貴族、セビリア家の次男、レジナルド・セビリアの養女になったのだ。

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