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夜のチャイム  作者: 紫木
9/21

幕間 ある日の知的討論会 前編

学園生活も2週間を過ぎれば慣れるもんで、気の合う奴でグループを作ったり、部活仲間でつるんだりと仲間を形成する。

中には自分の世界に閉じ篭り、独り身を満喫する奴もいるけど、その人はその人できっと学園生活を満喫してるんだろうと思う。

しかしながら、だからこそ、声を大にして異議を唱えよう。

どうして僕だけがクラスで孤立することになった!

この狭い教室内で一体なぜこの空間だけが亜空間の様に切り離されたんだ。

目立たず、騒がず、慎ましく過ごしていた筈なのに、彼らは一体なぜ僕を見捨てたもうた!?


答え=風紀委員(災厄)に任命されたから


あぁ、なんという悲劇。

入学からたった二週間で虎徹の悪名が新入生にまで知れ渡っているだけでなく、

先日、校内掲示板に張り出された各委員会メンバー一覧表によって、僕も同一属性(災厄)として認識されてしまったらしい。

よって、クラスメイトの脳内では以下の式が成り立つ。


風紀委員=木乃宮虎徹=災厄=僕=”危険近づくな”


悪魔の方程式。せめてそこは百歩譲って≠じゃないだろうか。

僕、、、、泣いてもいいですか?


キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン


そうして今日も今日とて無情にも委員会活動の時間がやってくる。

例えその場所が地獄であろうが、行かない訳にはいかない。

僕は実直に真面目に生きると決めているからね。

決して前回サボタージュを決行した翌日に、罰として間接を3箇所も強引に外されたからではないとだけ言っておく。


槻島高校は1年が3階、2年が2階、3年が1階と年功序列で校門に近い構造になっている為、校舎の4階に位置する風紀委員室に向かうなら3分もあれば十分だ。

しかし間違ってはいけない。真っ直ぐに向かうなら3分だ。

いかにこの3分を延長し、且つ自然なタイムで到着するかがこのミッションの難しい所だ。

早ければ早いほど精神的苦痛時間は長くなるが、遅すぎれば恐怖の折檻が待っている。

今日はオーソドックスに1階の食堂経由で行くとするか。

飲み物片手に行けば物的証拠としても十分だろう。

そんな事を考えながら階段を下りようとしたその時


「さて、キミは一体何処に行くと言うんだろうね?実に興味深い」


上階行きの階段踊り場から、まるで似てない某数学者のモノマネで僕を引き止めたのは、我らが長、木乃宮虎徹で間違いない。


「ふっ、ゲームオーバーだ」

僕がニヒルに決めている最中に彼女は階段から飛び降り、ニーパッドを僕の顔面に叩き込む。


「ブハァァァ!!」

盛大に鼻血を出して後方に吹っ飛ぶ僕に、尚も彼女は追撃の手を緩めない。


「ハイ!ハイッ!セイッ!!」

謎めいた中国拳法で僕の胴体を的確に打ってくる。

「セイ!ハイッ!ハイッ!!」

体制を立て直し、見よう見真似でその攻撃を何とか捌く事に成功した僕は、ようやく彼女と正面から相対する。


「いきなり何しやがる、この暴力女!!!」

「キミこそいい度胸だ、またしても懲りずに大切な委員会をサボタージュするとはね」

「食堂で飲み物買ってくる時間ぐらい待てねぇのか」

「キミの話は信用ならん。無駄に口だけは達者だからな。それに今はサボタージュの件よりも昨日必死で覚えた拳法が、難なくキミに捌かれた事に対する怒りのほうが大きいよ。実に許しがたい」


通行の妨げとなる階段付近で、何とも理不尽で意味の無いやり取りを続ける僕達を見て、クラスメイトやその他の同級生がなにやらこそこそと言ってる声が聞こえる。


「なんでこんな所で喧嘩してんだよ、他の場所でやれよな」

「聞こえたらぶっ殺されるぞ。黙って『災厄』が通り過ぎるのを待つんだ」

「そんな事より、あいつ『災厄』とまともにやりあってやがる。やっぱりまともじゃねぇんだ」

「同級生にまでキリングマシーンがいるのかよ、マジ勘弁して欲しいんだけど」


なんてこった。またしても僕のイメージが悪いほうへ急降下していく。

精神に多大なダメージを負った為、これ以上の失態を犯さないよう、最善策として場所を移す事を提案するも


「逃がさないよ、まだまだキミの知らない技があるんだ。捌けるものなら捌いてみろ」

「何をワクワクしてやがるこの大馬鹿野郎!とっとと付いて来い!!」


子供みたいに目をキラキラさせてる先輩殿の首根っこを掴んで階段ダッシュ。

3分の距離を20秒で駆け抜け、なんとか戦線を離脱する事に成功し、風紀委員室に先輩殿を放り投げる。

室内には既に青葉先輩が居て、何事かと目を見張っている。


「二人とも、また喧嘩したんですか?虎徹も、遊び友達が出来て嬉しいのは分かるけど、そんなに頻繁に怪我させちゃダメじゃないですか。ほら、キミもこれで鼻血拭いて下さい」


そう言ってポケットから出したウェットティッシュを渡してくれる。

格好悪くも頂いたティッシュを鼻に詰め込みながら、青葉先輩の優しさに感激。

虎徹はというと、青葉先輩の進言に耳を貸す素振りもなく、委員長と書かれた自分の席の横に置いてあるホワイトボードにペンを走らせている。


【本日の風紀活動】・・・図書室で何やら怪しげな本が陳列されているらしい。至急現場に向かうべし!


「よしっ、では二人共着いて来い!」


「「待て待て待て待て」」


突貫!と言わんばかりの勢いで扉を開け放った虎徹を二人して引き止める。


「何だ?早く行かないと下手人を取り逃がすだろ」

「いやいやいや、そもそもその情報の出所は何処なんだとか、怪しげな本って何だよとかいろいろ聞きたい事があるんだが」

「ええそうですね、付け加えれば下手人という言葉も引っかかりますね。まるでその怪しげな本を誰かが意図的に置いたみたいに聞えますし」


虎徹がいかに急かしても、僕達も一歩も譲る気はない。

先輩殿の行動はその大半が危険極まりない結果を生む。

前回はこのノリで付合わされて、新入生の悪ガキ全員を血祭りに上げさせられたという苦い思い出がある。

それも僕がクラスで孤立している原因の一つだという事をみっちり叩き込んでやりたいくらいだ。

(ちなみに2,3年の悪ガキは既に処理済らしいのであしからず)

まぁともかく、先輩殿と行動するなら最低限のウラをとっておく事が大事だって事だ。


「またしても1対2のパターンか。どうしてキミはいつも青葉につく」

「先輩殿におかれましては、多分に奇天烈な行動をなされます故」

「和泉くん、よく言いました。虎徹、ちゃんと質問に答えて下さい」


虎徹も現状では分が悪いと感じたのか、渋々ながらに話し出す。


「情報の出所は教えてやれないが、とにかく怪しい本があるらしい。しかもそれは図書室に在中してあったものとは違い、生徒が持ち込んだ物らしい」


これまた全く要領が掴めんが、青葉先輩はそれで満足したのか、決定権を委ねるかのように僕に目線を送る。


はぁぁ~っ、青葉さんがOKなら仕方ないか。


「委細承知!本ミッションは可決された。今より奇襲作戦を開始する!遅れるな、二人とも!」


僕は一目散に図書室目指して駆け出す。

後方で怨嗟の声が聞えるが、今はただ、この流れに任せて突っ切ってみよう。

困ったことに、、、少し楽しいじゃないか。


図書室に到着するなり、僕は虎徹に裏拳をお見舞いされた訳だが、それは些細な事として置いておこう。

それと同時に先程までのテンションがダダ下がりになった事にも一応触れておく。


「それにしてもスゲー数の本だな」

「成るほど、ここにきてキミが駄洒落好きだとは思わぬ収穫が得られたようだ」

「確かにそうですね。本だな、本棚。使い古されてはいるけれど、今の状況なら的確じゃないでしょうか?」


「違ぇぇよ!別にそんな事考えてもねぇし、そもそも駄洒落だったとしても的確に分析してやるなよ!そこは優しく見逃してやれ!」


急に図書室で大声をだした僕に辺りから非難の目が浴びせられるが、僕の横の虎徹に気付くとすぐさま皆、目を背ける。

『どうか関わり合いになりませんように』

まるでみんなの心の声が聞えてくる様で悲しくなってくる。


「さて、では目的の本を探すとしようか」


虎徹は腕まくりまでしてやる気満々だが、僕には一つ疑問があった。


「で、どうやって探すんだその本?」


少なくとも僕と青葉先輩はその怪しい本とやらの特徴すら聞いていなかったので、これは当然の疑問だろう。


「木を隠すなら森の中と言うだろう。キミは多分に知識が乏しいな」


呆れたと言わんばかりの表情で虎徹が僕を見下す。

その表情にイラッとしたのは確かだが、今僕たちがいる場所を忘れてはいけない。

スーハー、スーハーと一度深呼吸して自分を落ち着かせよう。

冷静に要点だけを穏便に聞き出すことに挑戦しようと思う。

「この大量の本の中に探し物があるのはわかった。だだ、僕にはその怪しい本の定義がこれっぽっちもわからん。せめてタイトルか何かだけでもヒントをくれないだろうか」

僕の言葉を受けて、隣にいた青葉先輩も同意する意味で首を縦に振ってくれる。


「コロンブスがアメリカ大陸を発見した時に島の名前など知っていたと思うかい?もっと柔軟に生きるんだ。少年少女よ、恐れずに海原へ飛び出せ」


すいません、真面目に読書に勤しむ皆様。大事なお時間を騒がしくしてしまう事を深く謝罪させて頂くはめになりそうです。


「虎徹先輩、少し宜しいでしょうか」

「おっ、なんだ。やっと私のことを先輩と敬うようになったか。苦しゅうないぞ後輩よ、何でも聞き給え」

「コロンブス氏には夢が御座いましたが、小生にはそんなものは欠片も御座いません」

「安心しろ、キミの夢は必ず私が見つけてやる。その為の委員長だからな、全て任せたまえ」

「おっしゃてる事が全く理解できませんし、余計なお世話だこの野郎と言いたいところですが、それはともかく、誠に申し訳ないのですが今回の活動に関しては先輩殿ひとりで解決して頂けませんでしょうか」

「???、何故私が独りで探さないといけないんだ。私は委員長としてキミたちに捜索をお願いしたはずなのだが」


悲しいかな、やはりご理解頂けないらしい。

僕は悲しい目を青葉先輩に向ける。彼女も俺の意向を汲み取ってくれたようだ。

深く深く息を吸って言葉にしてやろう。そうすればきっと分かってくれるさ。


「探せるか!ボケッッ!!!」

「探さんか!アホッッ!!!」


これまた予想外のびっくり展開。

僕の渾身のツッコミにコンマ数秒単位で切り返してきやがった。

「ふっふっふっ、この2週間どれだけキミの挙動を観察していたと思ってるんだ。もはやキミの発言など小学生の算数よりも容易く解答できるぞ」

まさか、たったの2週間で僕の言動を予測出来るようになるなんて、確かに思い返せば毎日のように文句を垂れていた記憶はあるものの、、、正直キモいんですけど!!


「君たち、少し静かにするという努力をしてくれないだろうか」


虎徹の奇人っぷりに僕がドン引きしているその時、図書室で読書に勤しんでいた諸君の代表者がついに現れる。

四角いメガネに利発そうな顔立ちをした男子は文字通り僕たちを見下ろしていた。

見た感じ上級生だろうか?それにしてもこの人、デケーな。

僕の身長が低い事を考慮しても、一般の学生よりも頭二つは飛び抜けてると思う。

しかも、よく見たらとびっきりのイケメンだよこの人。


「見ていた限りではどうやらそこの君が元凶のようだが、風紀委員長として何か申し開きはあるかな?」

怖ぇよ、目の奥が全く笑ってないじゃん。

「僕としてはそこにいる彼と椎名さんには同情を禁じえない。まったく、どうして君のような奇人に侍っているのか理解できないな」

それにしてもこの人、ガツガツ攻めるなぁ。

虎徹に向かって、こんな面と向かって文句言える人、この学校で初めて見た。

「黙れ、生徒会の犬っころが。こっちは大事な委員会活動中なんだ。邪魔をするなら貴様も風紀対象とみなしてボコボコにするぞ」

こちら側の長は当然のように安定した我儘思想を口にする。

っていうかオイ!この流れじゃどう考えてもこっちが悪者じゃないか!

慌てた僕は虎徹に自重するように促そうと両者の前に出る。

「虎徹、この辺にしとけ。矢鱈めったらと暴れまわるのは賢くないだろう?(僕の悪評がストップ高になるだろうがコラ!!)」

先輩殿は僕の発言に眉をひそめ、大いに不満がありそうだがしぶしぶ退いてくれた。

対して眼鏡のノッポさんは僕の事をじっと見つめている。

見つめている。

見つめている。

見つめている。


「長くねぇ!?先輩めっちゃ僕の事見てますけど、何かありましたかねぇ!!」

いよいよ耐え切れなくなった僕はノッポさんにブッ込む。

するとノッポさんは自分の顎に手を当てながらハッキリとした声で話し出す。

「ふむ、、、なかなか利発な目をしている。言動にも何処か知性を感じるし、暴虐非道な相手にも恐れなく自分の意思を述べる事が出来る。、、、なるほど、生徒会長の読みはあながち間違いではなかったようだ」

正直、僕にはノッポさんが何を意図して話してるのか全然理解できなかったけど、唯一理解出来そうな事がある。

僕、もしかして褒められてる?

ゆるゆるになりそうな顔の筋肉を全力で引きしめながら虎徹を見ると、奴はコバエをはらうような仕草で続きを促す。

「で?お前は一体何が言いたいんだ?生徒副会長?」

え?生徒副会長?


「ここで会ったのも奇縁と言うべきだろう。そこの一年生、生徒会・・・に入る気はないだろうか?」


「「「はぁ!!!???」」」


虎徹、僕、青葉先輩の声が図書室に響き渡る。


僕が生徒会に?

一体全体この学校は僕に何をしろと言うんだろう。

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