Extra Round
体の節々が痛い。
昨日はホント、ロクでもない日だったと思う。
青葉さんはあの後すぐに病院に強制送還。
やっぱりだいぶ無理をしていたみたいで、当分の間は通院生活が必要になるみたいだ。
彼氏としては彼女の暴走っぷりに些か頭が痛くなる。
虎徹についても困ったもんで、あの日以来何処にいたのかと聞けば姉の家に入り浸っていたらしい。
まさかあの『災厄』に妹だけじゃなく姉までいたなんて、、、
ココちゃん曰く、「関わりあいにならない方が身の為」だとか
想像するだけで頭が痛くなる話だ。
それでもまぁ、諸々抱えていた問題は解決できた様に思う。
青臭すぎて僕としては二度と思い出したくない事ばっかりだったけど、これでようやく最後の仕上げに掛かる事が出来るというものだ。
「さて、じゃあキッチリと決着を付けるとしましょうか」
僕は体育館入口に立てかけられた『槻島高等学校卒業式典』の看板を見ながら拳を鳴らす。
「お邪魔しまーす」
その言葉と同時に勢いよく体育館の入口を開け放つ。
館内は式典の真っ最中で壇上にはポカーンとした顔をした時崎先輩。
ひょっとして答辞の真っ最中だったんだろうか、これは悪い事をしちゃったな。
壇上に向かって堂々と歩く僕に、卒業生、在校生、父兄の皆様方の視線が嫌というほど突き刺さる。
「お前一体何のつもりだ!卒業式の真っ最中だぞ!!」
当然ながら鬼の様な顔をした教師陣が僕に向かって殺到してくる。
それでも僕は歩みを止めない。
「あの、先生方。ちょっとで良いんで時間もらえないですかね?」
取り敢えずは下手に出てみるものの、向こうにも立場ってものがある。
そう簡単には通させてくれない。
「ふざけるな!この問題児が!いい加減にしろ!!」
僕の襟元、袖、腕を押さえながら教師の中でも体格の良い連中が恫喝してくる。
ホント、鬱陶しい。
「邪魔すんなよ。父兄が見てる前で叩きのめされたいのか?」
自分でも卑怯な言葉だとは思うけれど、その言葉に教師陣が一瞬怯む。
残念ながら僕の悪評は教師陣にも浸透している。
『懐刀』に手を出せば、自分達が束になっても敵わない事くらいは理解してるんだろう。
それでも教師の意地か、面子ってやつなのか、一向に僕から手を離してくれない。
仕方が無い、どうせここまでやったんだ。停学が退学になるくらいだろう。
僕が覚悟を決め、群がる大人達を振り解こうとしたその時、
「下がりない」
その声は決して大きな声でも無いのに、体育館に響き渡った。
「今が式典中だという事を忘れましたか?総員、直ちに自分の席に戻りなさい」
その言葉に僕以上に教師連中が驚いてる。
「しかし校長、、、」
「黙りなさい。反論は許しません。その少年から直ちに手を引きなさい」
「、、承服できません!一介の学生如きに大事な式典を穢されてまで黙っている訳には、、」
「あなた達には分からないのですか?その少年の目にはそれ相応の覚悟がある。覚悟ある生徒の前に立ちはだかる教師など我が校には不要です」
圧倒的な圧力をかけられて、ぐっと押し黙る教師連中。
これは、相変わわず時崎先輩以上のカリスマ性だな。
邪魔な拘束が解けたというのに、僕ですら身動きが取れない・
「少年、何をしているのですか?己が成すべき事をなさい。その為にこの場所を選んだのでしょう?」
是非もない。
強ばった体を動かし、何とか壇上まで辿り着く。
「和泉くん、あなた一体何を、、」
声をかけてくる時崎先輩の顔は思いっきり腫れ上がって、化粧で何とか誤魔化しをかけている。
いくら決着をつける為とはいえ、女の人を思いっきりぶん殴ったのは反省しないといけないな。
とはいえ、謝罪は後にしようと思う。その前にやらなきゃいけない事がある。
僕は先輩を押しのけてマイクに向かって言葉を発する。
『三年生の皆さん、突然押しかけてしまい申し訳ございません。この場を借りて是非とも皆さんに聞いて頂きたい事があって、無理を通させて頂きました』
館内は突然始まった僕の演説にポカーンとした様子だ。
それはそうだろうと思う。
取黙って聞いてくれたらそれでいい。
『皆さんもご存知の通り、誠に遺憾ではありますが、僕は『懐刀』っていう悪評で呼ばれています。入学して一月にも満たない内から散々な噂が飛び交って、今では立派な問題児として認識されている事は理解しています。それというのも元凶は僕の在籍する風紀委員会の長のせいでありまして、彼女は何かにつけて暴力で解決するんです。その度に現場に駆り出されては片棒を担がされる。不条理だと思いませんか、全部彼女のせいなんですよ』
僕の言葉に館内がざわつき始める。
それでも、ここで止める訳にはいかない。
彼女と目が合う。
何をそんなに狼狽えてるんだろう、本番はここからだぞ。
『二年間が過ぎました。毎日が暴力の嵐で、まさに『災厄』に巻き込まれたって感じでした。ぶっ飛ばされる事も多かったし、ぶっ飛ばした事も多かった。ここに来る前は自分がそんな青春を送るなんて夢にも思わなかった』
・・・京太、私がお前の高校生活を面倒見てやるって言ったのは覚えてるか?
・・・私がお前の面倒を見てやれるのもあと数ヶ月だ。数ヵ月後に、私はここを卒業する
・・・やり残した事も、やりたかった事もいっぱい残ってるけど、やり直したいと思う事は一つも無い
『ずっと面倒を見てくれると言った奴がいました。でも振り返ってみたら、ソイツの面倒ばっかり見てた気がする。それなのに、ソイツは何も言わずに、何も託さずに、この場所を去ろうとしています。僕にはそれが、、どうしても許せない』
・・・私以外に誰がやる?キミがやると言うのか?
『だから勝手に襲名しようと思うんだ。次期風紀改善委員会会長として、何時まで経っても『懐刀』だなんて護身用じゃあ泊がつかないじゃないですか』
ガタッと音を鳴らし、彼女がその場で立ち上がる。
それでも構わず言葉を続ける。
『だから宣言する!!!『災厄』の二つ名はいまこの場で僕が貰い受ける!!!』
「京太ああああああーーーーーーー!!!」
『何を情けない顔してんだ虎徹。僕はお前から何も貰えなかったからな、これぐらいは貰っても良いと思うんだ』
「ああぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁl!!!!」
『マジでちょっと泣きすぎじゃね?』
「だって、そんな事言うなんて、、お前がそんな事いうなんてぇぇぇ!!」
『だぁぁ、もう、取り敢えずそういう事だから!』
「ぶあぁぶあええがぁっ」
『いよいよ何言ってるのかさっぱり分からないけど、まあいいや、これを和泉京太から木乃宮虎徹への送辞とさせて頂きます!!』
僕の青春は間違いなく彼女から始まった。
だからこそ、しっかりとお礼だけは言いたかったんだ。
寂しくなるとか、心に穴があいたとか、そんな感傷に浸るのは去る者のする事だ。
残る僕たちは、ただただ感謝する事に努めよう。
パチパチパチ、、、パチパチパチパチ・・・・
まばらに起こった拍手をきかっけに、館内が拍手の渦に巻き込まれる。
「楽しかったぞ『災厄』!オマエには苦労させられた!!」
「木乃宮さんの滅茶苦茶ぶりには笑わせて貰いました!」
「後輩達も残念だな、まさか『災厄』に後釜ができるなんて」
「バカ、後輩達にも俺達が味わった恐怖を叩き込んで貰わなきゃダメだろ」
「寂しかったぜ『災厄』、何日も学校休みやがって!」
「木乃宮さん、貴女は卒業式の日までこの様な混乱を招くのですか。椎名さんが居たら卒倒してたでしょうね」
「「ありがとう、波乱続きだった!!これが『災厄』と過ごしてきた現卒業生にはお似合いの卒業式だ!!!」」
卒業生の皆さんが箍を外したかの様に総立ちで喚き散らす。
でも、これはちょっとマズイだろ。
「あの、皆さん。僕が言うのも何ですけど、ちょっとはっちゃけ過ぎじゃないですかね?」
「「オマエが言うな!!」」
「いやいや、どんだけ息があってんだよ!!僕は僕の勝手でやっただけだよ!!あんたらは便乗しただけだろ!!」
「「アホか!!周りを巻き込んでなんぼの『災厄』だろうが!!こっちは三年間も付き合ってきたんだ、耐性ぐらい付くに決まってるだろ!!」」
「皆さん、随分とコイツに苦労したんですね。。」
「しみじみ言うな、京太!!まるで人を元凶みたいにぬかしおってからに!!」
「「「オマエが元凶だよ!!!」」
何だかんだで最後までこんな感じになるのか。
世話になった幕引きぐらいはしっかりしようと思ったんだけど。
ホント、どうしてこうなったんだろうな。
でも、お陰さまで世界で最高にロックな卒業式になったと思う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「随分と面白い生徒がいるじゃないか。貴女は彼の事を知っていたのかい?」
「ええ、ええ、よく存じていましたわよ。お気に入りのひとりですわ」
「珍しい事もあるものだな。貴女にそこまで言わせる人間がいるなんて」
「ご自分は勘定に入れておられませんのね。つくづく厄介なお人ですわ」
「買い被り過ぎですよ。ところで昨夜、学校内で随分と派手に暴れまわった生徒が居たようですが、それについては何か弁明が?」
「怖い顔をしないで下さいまし。私はただ、若き希望と絶望の果てを見てみたかっただけですわ」
「それならば重畳。結果は?」
「ご覧の通り、ハッピーエンドですわ」
「なお良し。彼等は私が望んだ通り、汗を流し血を流し涙を流す青春を駆け抜けた」
「ええ、その狂気ゆえに暴走した青春を見事に亡きものにしてみせましたわ」
「誇らしいな。我が校の生徒にその様な者が居るというのは」
「らしくありませんわね。それは勘違いですわ。特筆すべきものがなくとも、無表情に青春を謳歌した生徒など、この学校にはいやしません。その証拠が今のこの光景ですわよ」
「確かに、他では類を見ない光景だな。そう考えると喜ばしい限りだよ、顧問司書殿」
「あらあら照れてしまいますわよ、校長先生」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




