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夜のチャイム  作者: 紫木
12/21

幕間 ある日の生徒会長

虎轍と生徒会長が宣戦布告してから、早くも8ヶ月の時が過ぎた。

僕としては思い出したくもない珍場面や事件がたくさんあったが、それに触れるのは別の機会にしておこうと思う。

少なくとも春先に起きたあの図書室での一件以来、風紀委員と生徒会は事あるごとに揉め事を起こし、対立する羽目になったのは事実だ。

青葉さんがよく口にする「頭痛い」って言葉も今では聞き慣れてしまった。


そして、木枯らしが吹き荒れ、冬の厳しさを肌で感じる今日この頃。

僕がいったい何をしているのかというと、


「そこの中列後方の椅子の位置がおかしい。手直ししてきてくれないか?」

「了解、ってか僕には全然ゆがんでる様に見えないんですけど」


柴先輩の指示を受けて、体育館に所狭しと並べられたパイプ椅子を矯正しに行く。


そう、僕は現在、卒業式の予行演習の為の準備に駆り出されている。

体育館の整備、椅子の配置、壇上の音響の全てを、各委員会活動に参加しているメンバーで実施しなくちゃいけないもんだから非常に忙しい。

そして厄介な事に、この作業の一連を取り纏めているのがあの生徒会ときているのだから、それはそれで勘弁してほしい。

各作業における人員の割り振りも生徒会の一存で決められたものなので、僕はこの通り柴先輩の補佐として体育館内にパイプ椅子を並べる作業に任命され、青葉先輩は卒業される3年生の方々と一緒に答辞や送辞についての文面をまとめる係。さすがは青葉先輩と言うべきか、その卓越した人当たりの良さと真面目さが、風紀委員と対立する生徒会長にすら評価されているという事に驚愕を隠せない。


そして残る我等が長、木乃宮虎轍はと言うと、


「「あーあー、マイクテスト!!マ イ ク テ ス ト!!!」」


キーンっていうハウリングが体育館内に響き渡る。


「「オイッ!!マイクの音量が大きすぎる!!もっとエグリ込む様に絞れ!!」


オマエの声がデカ過ぎるんだよ、この馬鹿野郎。


「まったく、相も変わらず騒々しい人だ。あの人の蛮行でこちらがどれだけの労力を消費したのかを教えてやりたくなる」


またしても、僕の近くに寄ってきた柴先輩がぶつぶつとぼやいているが、


「アンタもアンタで僕に近付き過ぎだ!!オイッ変なとこ触んな、この変態野郎!!!」


すりすりとにじり寄って来る先輩を肘で遠ざける。


「この1年間、君も随分変わったね。あの頃のように、もっと純粋な気持ちで接してくれていいんだよ」


女子ならば一発でKOされてしまいそうな程の魅力的な笑みを浮かべて、甘く耳元で囁いてくる。

もうヤダ、この変態。

我慢の限界に達してしまった僕が、少々強烈な一撃をお見舞いしてあげようと腹を決めた時、壇上からまたしても厄介な声が聞こえてきた。


「木乃宮さん、これは一体どういう了見なのでしょうか?私は貴女にマイク調整を頼んだ覚えはないのですが」


いよいよ女王様、時崎生徒会長のお出ましだ。

それまでわいわいと騒ぎながら仕事をしてた生徒達までが一瞬で静かになる。

相変わらず恐ろしい程のカリスマ性だな。


時崎生徒会長は体育館中の視線を一心に集めた事なんて意に介さず、尚も虎徹に詰め寄る。


「説明して下さい。どうして貴方がここに居るんですか?貴女の本来の持ち場は教員席と来賓席の確認作業だったはずですけれど」


しかし悲しいかな、虎徹には生徒会長のカリスマが一切通用しない。

これはこの一年を通じて誰もが分かっている事なので、周りの皆も取り立てて驚く事もない。


「アホか貴様は、なんで私がそんな地味な作業をしないとけないんだ。そんな雑用、その辺にいる奴で十分だろ。それに、私にはもっと主役クラスの仕事を与えろ。貴様が言うような雑用係ではウチの仲間に示しがつかんだろうが」


その言葉は確かに僕の耳に入ったが、アイツは根本から勘違いしている。

そもそもオマエに威厳なんてものは無い。


ふと、同じ境遇でいるはずの青葉先輩の方を見ると、彼女はお決まりとなった『頭痛い』のポーズをとっていた。


「貴女、私が決定した人選に異論があると言うのですか?」

「勘違いするな、私はお前の存在に異論があるんだ」


人を挑発する事に関しては超一流の我らが長、こうなるともう生徒会長も黙ってはいられない。

この後はきっと口撃の嵐になるだろう。

そして収拾の付かなくなるほどヒートアップした二人を、僕や柴先輩が体を張って止めるハメになる。

悲しい事に、これもこの一年間で何回も経験してきた事だ。


「ふぅ、会長も困った人だ。木乃宮さんが絡むといつも冷静さを失ってしまう」

「それはコッチも同じですよ。まぁウチの長が絡むのは生徒会長だけじゃ無いし、冷静な所なんて数える程しか見た事ありませんけどね」


僕と柴先輩は顔を見合わせてため息ひとつ、足早に壇上に向かう。


「オイオイ、また喧嘩してるぜあの二人」

「もう飽きたよな、それにいっつも突っかかるのは『災厄』の方じゃん」

「まあ、そうなんだんだけどよ。生徒会長もいつもおかしな方向にいっちゃうんだよな」

「あっそれ分かる。いつも凛として近寄り難いイメージがあるけど、木乃宮さんとバトってるは、、、、もっと近寄り難くなるもんね」

「そんな事よりも聞いたかよ。来年もあの二人は続投らしいぞ」

「マジかよ!!あと一年、俺達はあの二人に振り回されるのか」

「「「ハァァ~↓」」」


皆の言ってる事も大変良くわかる。

本来なら各委員会の委員長の座には任期があり、二年から三年に上がる時に後輩にそれを託す。

そして学園の要の役割である生徒会会長に至っては、生徒による信任投票で新たに任命される事になる。

その為、三年生になっても委員長を続投する事なんて、通例ではあり得なかったらしいが、、、あの二人はソレをねじ込んでしまった。


虎徹は「私以外に誰がやる?キミがやると言うのか?」なんて事を言うもんだから、丁重にお断りした結果、遺留が確定した。

そもそも僕以外の二人が先輩(同級生)なんだから、僕が引き受けない限りはこうなるしかなかったと言える。


そして時崎先輩はというと、普通に信任投票によって選ばれてしまった。

時期三年生である彼女は信任投票にノミネートすらされていなかったのに、何故だかぶっちぎりの一位で勝ち抜けてしまった。

彼女のカリスマは伊達じゃない。

「選ばれたのなら、選ばれたなりの行動が必要となります。そして私は、皆様に望んで頂いたその気持ちを無下には出来ません」

これが彼女が信任投票の結果を聞いた時の第一声だ。


つまり要約すると、僕の受難は少なくともあと一年は続くという事だ。


考えすぎると、どんどん深みに嵌っていってしまうのでこの思考はキャンセル。

今は壇上で揉めている二人を止める事に注力しよう。


「オイっ虎徹、アンタはなんでいっつも揉め事を起こすんだ。少しは僕のために自重してくれ」

「よし!京太、いい所に来てくれた。これで戦況は二対一だ、私と京太のタッグに勝てると思うか?横暴生徒会長」

「オマエは一体、僕の話のどこをどう聞いてそんな結論に至ったんだ?僕は自重しろと言ったんだ、自重しろと」

「うるさい黙れ!キミと一緒に闘う機会なんて滅多に無いんだ。是が非でもここで生徒会長を叩き壊す!!」

「黙れとは何だこの野郎!!そもそも僕は一回もオマエと共闘なんてした事ねぇよ!!記憶を捏造すんな!!」

「細かい事をぐちぐちと、だったらこれが初めての共闘でいいじゃないか、私と京太の初めての共同作業だ!」

「そんな言い方したら、悪意ある第三者に勘違いされるだろうが!!」

「それで?私はいつまで貴方たちの夫婦漫才を見ていれば良いんでしょうか?」

「ほら見ろ!早くも勘違いされてるじゃねえか!!、、そもそも生徒会長がもっと的確に人材配置してれば、こんな事にはならなかったんじゃないですか?」

「結局何だかんだ言いつつも、和泉くんは木乃宮さんの側にまわるのね。流石は『災厄』の『懐刀』といったところでしょうか?」

「会長、生徒会執行委員、副会長の柴研二シバ ケンジをお忘れなく」

「あら、柴くん。もうパイプ椅子の展開を終わらせたのですか、これほどの短時間で終わらすなんて流石ですね」

「いえ、今はそれよりもこちらの状況を優先させるべきかと思い、馳せ参じました」

「・・・柴くん、私がお願いした仕事を終わらせずに自己判断を優先したという事ですか?」

「いえっ、いやっ、そんなつもりは全く、、、」

「貴方には毎度の事ながらガッカリさせられます。どうして私の言う事が聞けなくなってしまったのでしょうか?まぁそこはかとなく原因に心当たりがありますが」

「ちょっと、生徒会長、どうして僕の方を見るんですか!そんな変態に心当たりはありませんよ!!」

「和泉きゅん、それはいけない。僕はこんなにも君に焦がれてるというのに。風紀委員と諍いになってしまってから、君は僕に随分冷たい態度をとるね。寂しさに挫けそうだよ」

「変な愛称で呼ぶな!!それに僕のアンタに対する態度は終始一貫してるよ!!」

「キサマ、私から仲間を奪おうと言うのか?いい度胸だ、引導を渡してやる。そこを動くなよ」

「テメーも訳のわからん事でマジギレしてんじゃねぇよ!!」


「やっぱり、、、収集がつきませんね」


ため息混じりにそう呟いた生徒会長の言葉が全てを表している。

この8ヶ月、生徒会と風紀委員の諍いはいつもこんな感じで混沌化する。

誰ひとりとして場を制す事もなく、場を解散させる事も出来ない。

だからこんな時はいつだって、


「皆さん、いい加減にして下さい。どうしていつも同じような事でそこまで燃え上がってしまうんですか?ほんと、頭痛い」


我らが風紀委員の良心、青葉先輩に仲介してもらうしかない。


「虎徹、与えられた仕事はきちんとこなして下さい。反論は認めません。それに時崎さんも、まだ打ち合わせの最中ですよ。先輩方を待たしている事をご理解下さい」


いきなりの雷に虎徹と生徒会長はバツの悪そうな顔をする。

それでも流石は生徒会長、自分の立ち位置を理解するのにそう時間は掛からなかった。


「申し訳ございません。お世話になった上級生の皆様の門出の舞台、少し心構えが足りていませんでした。皆さん、お見苦しい所をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。

作業は残り僅かです。くれぐれも怪我のない様に作業を再開致しましょう」


そう言った生徒会長の顔は、いつも通り凛としており、その威厳を余すところなく輝かせていた。

体育館内にいる全員がこれで大丈夫だとほっとした時、それは突然起こった。


「ガッシャーン!!!」


突如として体育館二階に設置されている窓ガラスが一斉に割れ出した。

ガラスの破片があたり一面に飛び散り、館内は一瞬でパニック状態に陥ってしまう。

僕は咄嗟に近くにいた青葉先輩に被さり、ガラスの破片が落ちきるのを待つ。

その惨状の中でいち早く動いたのは、我らが長である木乃宮虎徹。


虎徹は一目散に入口に向けて駆け、あっと言う間に館内から姿を消してしまう。


僕はそれを確認した後、青葉先輩から体を離し状況を確認する。


並べてあったパイプ椅子の列の中、うずくまる生徒たちが見える。

どうやら皆、さっきのガラスの雨で大なり小なり怪我をしているようだ。

でも、どうやら命に関わる程の重傷を負っている生徒は見当たらない。

それだけは救い(・・)だ。


「何なんですか!今のは!皆さん、落ち着いて下さい!傷の浅い人は怪我人の手当を!柴くん、保険医を呼んできて下さい!」


生徒会長が現状を把握した上で的確な指示を出し、皆もそれにならうように動き出す。


「和泉くん、怪我はありませんか?まさか私を庇ってくれるなんて」


良かった、見た感じ青葉先輩に怪我は無さそうだ。

青葉先輩が慌てた様子で心配そうに僕の方を見てくれているけれど、、、


すいません、今はそれどころじゃないんですよ。


僕は入口に目をやり、一目散に外を目指す。


これは許されていい事じゃない。


・・・・・


《cotetsu & kyouta side》



「貴様ら、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」


僕が体育館から飛び出して目にした光景は、虎徹がいかにもヤンチャそうな格好をした5人組を相手取っているところだった。

見た感じ、彼らの制服は槻島高校の制服じゃない。

他校からのカチコミ?それにしても、体育館の窓を全て割るなんて行為が理解出来ない。

彼らの目的は何だっていうんだろう?


「ナンダテメー?アニメの見過ぎか?女はとっとと消えたほうがいいぜぇ。これから俺達はパーティーを開くんだから、ブゥワァ!!!」


言葉の途中で彼は宙を舞う事になった。

虎徹は彼の顎を砕いた姿勢のままで、同じ言葉を繰り返す。


「貴様ら、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」


残念ながら僕の出番は無さそうだ。

そんな自虐にも似た感情を持て余しながら、虎徹と彼等を観察する。


だから気付く事が出来なかった。


僕が今しがた飛び出してきた体育館のドアが、いつの間にか閉まっていた事に。。。。


・・・・・


《rin & aoba side》


これは、、、大変な事になりましたね。

京太くんが庇ってくれていなかったら、私も少なからず怪我を負ってしまったと思います。

今は時崎さんが必死になって激励したおかげで何とか皆、落ち着き始めているようで何よりです。

でも、私としては飛び出していったあの二人の方がよっぽど心配な訳でありまして。


「きっと、やり過ぎてしまうんでしょうね」


虎徹と京太くんはいつもいがみ合っている割に、その実とてもよく似ている。

その中でもとりわけ如実なのが、頑張っている人や努力している人を全力で応援するという事。

だからこそあの二人は、真面目に前を向く人が虐げられるのを極端に嫌う。

それがどういう感情からくるものなのかは分かりませんが、あの二人を一番身近で見てきた私の考えが間違っているとは思えません。

その証拠に、二人とも一目散にこの惨劇の犯人を懲らしめに行ってしまったでしょう?


「後始末出来る範囲だといいんですけど」


虎徹と京太くんが犯人を懲らしめ過ぎないように祈りながら、私も怪我人の手当に参戦する。

すると、体育館の脇にある非常口から、ぞろぞろと人が入ってくる光景を目撃してしまう。


誰も彼もがヤンチャな雰囲気を醸し出している彼等を見て、館内の生徒たちがまたしてもざわつき始めました。

それはそうだろう、彼等の手には鉄パイプやバットといった『人を殴る事』に特化した得物が握られているんですから。

これ以上の厄介事は勘弁してほしんですけど、なんてまるで京太くんの様な恨み辛みが頭によぎってしまい、不謹慎にも少し高揚してしまいます。


「見たところ本校の生徒では無いようですが、一体どの様なご用件でしょうか?」


流石は生徒会長、まわりにいる人間の言葉を代弁してくれる。

こういう時は頼りになるんですけど、虎徹が絡むとどうしてああなってしまうんでしょうか。


「おうおう、結構威勢の良いのがいるじゃねぇか。少しは楽しませてくれるんだろうな」


他校の生徒はそう言いながら、下卑た目で生徒会長を見据える。

見た感じ、どうやら妙なクスリでもヤっているようですね。

瞳孔の開き方と血走った目がそれを嫌がおうにも分からせてくれます。


「もう一度問います。ご用件は何なんでしょうか?見ての通り、こちらは少々立て込んでおりまして」


それでも時崎さんは冷静に対処する・


「ガタガタうるせぇ奴だな。俺たちはそこにいる僕ちゃんに用があってね。いやいや、この前は随分世話になったねぇ」


その言った生徒の目線の先には、真っ青な顔した男子生徒がいました。

彼は卒業式で答辞を務める予定の三年生。

はて、品行方正な彼が一体何をしたと言うんでしょうか。


「おいおい、覚えてないとは言わせねえぞ。俺の仲間を寄って集ってボコボコにしてれた礼はキッチリ返させてもらうぜ」


その言葉に時崎さんは、一端自分の後方にいる渦中の人間に目線を移して問いかける。


「どういう事でしょうか、本校の生徒が学外で揉め事を起こしたという事ですか?」


ひどく冷たいその声に、彼は顔を真っ青にして叫ぶように喚き散らす。


「そいつらが悪いんだ!いっつも人から金をせびりやがって!だから復讐してやったんだよ、僕と同じような境遇の奴を集めてボコボコにしてやった!爽快だったぜ、泣きながらごめんなさいって何度も懇願するもんだからさ、ついつい力が入ってしまったんだよ!」


ふぅ、どうやらどちらが悪いとも言えないようですね。

因果応報と言うべきでしょうか、確かに彼には復讐する権利があったみたいです。

でも、彼はそれがこんな形で繰り返されてしまうなんて考えもしなかったんでしょう。

今更ながらに虎徹が言っていた『殺るんならトコトン殺れ!二度と逆らえなくなるまで叩きのめせ!』なんて物騒な言葉の意味が少し分かってしまいました。

何事も経験とは言うけれど、こんな経験は別にいりませんね。


「成程、大体の内容は理解できました。では、あなた達の要望は彼を引き渡せという事で宜しいのでしょうか?」


生徒会長の辛辣な言葉に、彼の顔が絶望に染まっています。

まぁ仕方がない事なんでしょうね。


「ギャハハハッ!そんな訳ねえだろ!俺達は此処にいる全員を滅茶苦茶にしてやりたくて仕方がないんだ!恨むんならソイツを恨めよぉ、俺達だって仲間をヤられたんだ。お前達にも同んなじ目にあってもらうぜ!」


やっぱり、そんなんに簡単に済むものじゃ無さそうですね。

私が『ここまでか』と腹を括った時、またしても時崎さんが口を開く。


「黙りなさい」


その声に一瞬、館内に静寂が満ちる。


「あなた方の要望は理解しました。だからと言って、誰がそれを許容すると言ったのでしょうか。彼は腐っても本校の生徒です、それを黙って差し出すとでもお思いでしょうか?ましてや此処にいる全ての生徒を犠牲にするだなんて言葉を聞いて、生徒会長わたしが納得するとでも思ったのでしょうか?」


その威厳ある言葉に触発されたのか、それともクスリの影響か。

他校の生徒達は手に持った得物で一斉に時崎さんに襲いかかる。


持ち前の運動神経で見事な体捌きを披露し、それを尽く躱す時崎さん。

でも多勢に無勢は否めない、一方的に振るわれる暴力になすすべもない状態。

彼女の異能である『催眠術』は、相手の目を捉えて発揮する性質上、多数の人間相手では使用する事が出来ない。

案の定、鉄パイプの一撃が彼女の頭を捉え、時崎さんはその場に膝をついてしまう。


でも、、、、


頭から血を流しながら、武器を手にした男子達に囲まれながら、それでも生徒会長は吠える。


「その程度ですか?貴方たちの痛みはこの程度のものなのでしょうか!!大切な仲間をヤられたのでしょう!?その程度で終わりですか!!!これが限界だというなら恥を知りなさい!!生徒会長わたしひとりも倒せないようで、何が仇討ちでしょうか!!命懸けで来なさい!!貴方たちにはその権利があります!生徒会の御旗の下に、生徒会長わたしひとりでその責を引き受けてみせましょう!!」


その姿に言葉を失ってしまいました。

彼女は、自分ひとりで負の連鎖を断ち切ろうとしている。

彼等の要望通り暴力を受け入れ、こちらの希望通り本校の生徒を守りきる。

彼女以外の誰も損をしない結果を、彼女は望んだ。


そんな姿を見せつけられたら、流石に黙って見ている訳にはいかないじゃないですか。


一人、また一人と槻島高校の生徒達が彼女の周りに集まり出す。

そして生徒会長を庇うように、私達は彼等と対峙する。


その光景に圧倒されたのか、彼等は私達と距離を取るように後退する。

まるで気味の悪いものでも見るかのような目をするのは止めて欲しい。


これが私たちの生徒会長の力なんだから。

『催眠術』なんて異能を使わずとも、彼女が生徒会長たる所以は此処にある。


とはいえ冷静に考えると、私達の側の生徒はまともに戦えそうもない人材ばかりだ。

これからどうするべきか、打開案を模索する私に光明の声が聞こえたのはその時だ。


「なんで閉まってるんだ?」

「わからん、何だよキッチリと鍵まで掛けてあるじゃん」

「キミは偶にに驚くほどのんびりとしているな?」

「うるせぇよ!!テメーには言われたくねぇ言葉だ!」

「またしても先輩を先輩と思わん言動。少しは青葉のように私の事も敬え!!」

「普段の行動に問題があるという事をそろそろ自覚しろ!」

「本当に、ああ言えばこう言う奴だ」

「それはお互い様ですよ。とにかく、とっとと中に入りましょう」

「ああ、そうだな。上手く合わせろよ、京太?」


扉の向こうで馬鹿みたいに罵り合っている声を聞いて、私は確信した。「勝った」と。


「「全壊!!」」


・・その言葉は、虎徹があんまりにも無造作に自分のタガを外してしまうので、私が考案したトリガー。

・・その言葉を発した時だけ、自分の力を振るう事を許した枷のようなもの。


まるで爆発したかのように体育館の扉が破壊される。

あの二人は扉の傍に誰も居ない事が分かっていてそんな事をしたんでしょうか?ほんと、頭痛い。


「痛ったぁぁぁ!!」

「力の加減を間違えるからそんな事になるんだよ」

「京太!お前には私を心配するという気持ちが無いのか!!」

「ああもう、うるさい。取り敢えずはアレを何とかしてから文句は聞いてやるよ」


そう言いながら二人はこっちに近付いてくる。

当然、私達の前にいる彼等は何が起こったのか理解出来ていないようだった。

それは当然でしょうね、人間が鉄製の扉をぶち破るだなんて、槻島高校の生徒以外は理解できる筈がありません。


「あなた達、手助けは必要ありません。これは彼等と私の問題です!それに扉を蹴破るとは何事ですか!!」

「うるさいっ!なんで私が貴様の言う事を聞かなきゃいけないんだ?、、、、何だ、怪我してんのか?」

「放っておいて下さい!あなた達の力を借りずとも、この程度の輩は私一人で、、、」

「ふぅ~ん。京太、加減ナシでいいぞ。私が許す」

「ああ、僕もどうやら加減出来そうにないよ」


そう言いながら、二人は彼らの前にゆっくりと歩みを進める。

あ~、残念ながらもう止める事は出来そうに無いですね。


「何だテメーらは!?しゃしゃり出て来やがって、ブッ殺すぞ!!」

「その言葉、吐き出すなよ?」


それが一方的な暴力の始まり、彼等は嵐に巻き込まれたかの様に次々と殴られ、蹴り飛ばされていく。

まさにそれは嵐のような『災厄』。

見ているこっちの生徒まで怯えているじゃないですか。


全てが終わった後、時崎さんは苦虫を噛み潰したかの様な顔で二人を睨みつけながら口を開く。


「ここまでする必要はあったんでしょうか?彼等には彼等の矜持がありました。それを一方的に力任せに捩じ伏せるだなんて!」


「いちいちそんな事まで考えてられるか!私は私のやりたい様にやっただけだ」


「やはり貴方とは一度きっちりと決着を付けなければいけないようですね」


「おお、上等だ。いつでも掛かって来い!私と私の仲間は逃げも隠れもしない、全力で迎え撃ってやるぞ!」


そう言ってまたしても睨み合う二人。

これは流石に止めた方が良さそうですね。


「ほらほらっ、時崎さんは怪我をしているんですから、早く保健室に行きましょう?私が付き添いますので」


そう言って半ば強引に彼女の体を支える。

彼女も人の好意を無下には出来ないのか、何やら言いたげな顔をしながらも黙って私に寄り添う。


私が時崎さんを連れて体育館から出た時、一人の男子生徒から声を掛けられた。


「生徒会長、すいませんでした。僕があんな事をしたばっかりに、こんな事になってしまうなんて」


そう言いながら、事の原因となった彼は地面に頭を着けんばかりの勢いで謝罪している。

時崎さんはその姿を黙って見つめ、ゆっくりと口を開く。


「貴方と彼等の間にあった諍いには何の興味もありません。でも、ウチの生徒が原因で起こった喧嘩を黙って見過ごすほど、私は寛容ではありません」


そう言いながら彼に近づき、彼の頭を持ち上げる。


「私は私がしたい様にしただけです。だから貴方もそう生きれるように強く在りなさい。どこぞの馬鹿ではありませんが、自分の矜持を貫きたければそれなりの強さを身に付けなさい。頭を下げる事なく、胸を張って生きれるように在りなさい。これが私から貴方に送らせて頂く送辞です」


それだけを口にすると、彼女は私の存在も無視して一人で歩き去ってしまう。

するとその途中、彼女は思い出したかのように振り返って、照れくさそうに悔しそうにこう言いました。


「青葉さん、あなた達の馬鹿にお伝え下さい。『今回に限り、感謝させて頂きます』と」


そう言って、今度こそ振り返ること無くこの場を去ってしまう。


ええ、本当に。最後の最後までカッコイイ人です。

流石は槻島高校、生徒会執行委員会長 時崎凛といったところでしょうか。

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