PM20時10分
二月二十八日、時刻は二十時十分。
私立槻島高校の正門前に僕とココちゃんは並び立つ。
本日は晴天、雲一つない夜空を見上げ、ココちゃんが口を開く。
「戦争にはうってつけの夜ね」
もともとココちゃんが大人びた容姿をしている事も相まって、その横顔には一種の神秘性を感じる程の美しさがあり、彼女の纏う黒を基調としたセーラー服がより一層その姿を特異的なものに感じさせた。
ココちゃんの姿に見蕩れてしまった事に、若干の悔しさを覚えながら僕は口を開く。
「そうだね、全てを片付けるにはこれ以上無い夜だ」
僕達二人は訳あって卒業式を翌日に控えた学園に侵入しようとしている。
もう少し正確に言うと、学園内で多少派手に暴れまわるつもりでいる。
僕達にはそうしなければいけない理由がある。
「それじゃあ、いっちょやってやりますか!!」
気合を入れ直すために声を上げ、右の拳を左の掌に打ち付ける。
「いや、そういう暑苦しいのは要らないわ。恥ずかしい」
熱した空気が一瞬で凍る。
ココちゃんは妙に大人びた態度で言葉を続ける。
「あなたは自分がコミック漫画の主人公か何かとでも思っているのかしら?そうだとしたら現実は残酷ね。あなた如きに与えられる役割なんて精々コマの端で『ギーッ』って叫んでる黒子よ。いえ、セリフすら勿体無いわね。ペン入れの際に集中線で見切れてしまう程度の雑兵ね」
成程、一応確認しておこうと思う。我慢我慢。
「ココちゃんは結局何が言いたいのかな?」
「事実を事実として言葉にしただけよ。羽虫程度の能でも理解できるように噛み砕いたつもりでいたけれど、、、、残念ね」
「テメー上等だ!コラ!!!僕はココちゃんのセリフにノっただけだよ!なんで便乗してそこまで言われなきゃならないんだよ!惨すぎるだろう!僕に謝れよ!!ってなんでうるさそうな顔してんの?」
ココちゃんは僕の悪態に顔を歪めながらも口を開く。
「今何時でここが何処かわかってるのかしら?」
なんで人がここ一番の盛り上がりを見せた時に冷静になるのかね!!!
内なる葛藤にモヤモヤが爆発しそうだが、ここは冷静に対処しよう、先はまだ長い。
深呼吸し、腕時計を再度確認すると時刻は二十時半を回っていた。
早くも無駄なやり取りで二十分以上もロスしている。
「わかってるよ、ここからが本番だ」
「それなら結構。では始めましょうか・・」
「ああ終わりにしよう」
「「さらば青春!!!いまからテメーの命を貰い受ける」」
僕たちは目の前の正門を乗り越え、月明かりを頼りに本校に乗り込んだ。




