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片道15分の恋人  作者: 桜庭かなめ
特別編 in 2017

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2月14日(火)-後編-

 バレンタインデーのプレゼントというのが気になって仕方がない。チョコ系の何かだとは思うけれど。

 ――コンコン。

 栞かな?


『ごめん、悠介君。開けてくれるかな』

「うん、分かった」


 栞の言うとおり部屋の扉を開けると、そこにはチョコレートケーキやコーヒーなどを乗せたお盆を持つ栞が立っていた。


「おっ、色々と持ってきたね」

「うん。今日のために受験勉強の休憩のときに準備していたの」

「そうだったんだ」


 ということは、チョコレートケーキは栞の手作りなのかな。これが今年のバレンタインデーのプレゼントなのかもしれない。それなら嬉しいな。

 お盆をテーブルに置いたとき、僕はある異変に気付く。


「……栞、その可愛らしいろうそくは?」

「ケーキに挿すんだよ」

「ケーキに挿すって誕生日ケーキじゃないんだから……あっ」


 いるじゃないか、今日誕生日の人が二次元に。

 栞は青、赤、黄色、緑の4本のろうそくをチョコレートケーキに挿し、それぞれに火を点ける。

 『ご注文はねこですか?』のBlu-rayを再生し、本日が誕生日のキャラクターがアップで映っている場面で一時停止。


「ルゼちゃん、お誕生日おめでとう!」

「お、おめでとう」


 なるほど、このチョコレートケーキはルゼちゃんへの誕生日ケーキだったのか。それだけルゼちゃんのことが好きなんだな。僕へのバレンタインデーのチョコレートケーキかと思ったんだけれど。ちょっとルゼちゃんに嫉妬である。


「栞はルゼちゃんのことが大好きなんだね」

「うん!」

「そっか。このケーキもルゼちゃんに向けて?」

「うん。もちろん、悠介君と一緒に食べようと思って作ったんだよ。それに、悠介君にはちゃんとチョコを用意しているから安心して」

「そうなんだ」


 何だか急に嬉しくなってきたぞ。さすがは僕の彼女だ。これで終わるわけがないよな。


「まずはケーキを食べようよ」

「そうだね」


 栞と一緒に『ご注文はねこですか?』のBlu-rayを観ながら、ルゼちゃんへの誕生日ケーキを食べることに。

 チョコレートケーキなので甘いかと思ったら、意外と苦め。ルゼちゃんが喫茶店で働いているキャラクターだからなのか、良い意味で苦味が利いている。


「美味しいね」

「ありがとう。ルゼちゃんにも食べさせたいなぁ。ルゼちゃんの淹れてくれたコーヒーが飲みたいなぁ」


 ルゼちゃんにケーキを食べさせたり、ルゼちゃんの淹れてくれたコーヒーを飲んだりするところを妄想……いや、想像しているからか栞はニヤニヤしている。そこまでしたいほどルゼちゃんのことが好きなんだな。ルゼちゃんが三次元にいなくて本当に良かった。


「でも、私には悠介君っていう恋人がいるからね。悠介君、あ~んして?」


 そう言うと、栞はフォークで一口サイズのチョコレートケーキを挿し、僕の口に向けて差し出す。


「はい、あ~ん」

「あ、あ~ん……」


 僕は栞にチョコレートケーキを食べさせてもらう。2人きりでも、食べさせてもらうのってちょっと恥ずかしい気持ちになるんだな。


「美味しい?」

「美味しいよ。こういうバレンタインデーもいいね」

「2人きりのときにはこういう感じのこと、毎年していきたいよね」


 そう言う風に言ってくれる彼女がいる僕は何て幸せ者なのだろうか。来年、少しでも楽しいバレンタインデーにするためにも、同じ第1志望の大学に合格しないと。


「でも、まずは……はい! 今年のバレンタインデーチョコだよ!」


 僕は栞から桃色の小袋を受け取る。蝶々結びされている赤いリボンが可愛らしい。ずっと隠し持っていたんだな。


「さっそく食べてみてもいいかな?」

「もちろん!」


 栞から許可をいただいたので、リボンを解いて小袋を開けてみると、中にはハートのチョコレートが入っていた。普通のチョコレートとピンクのチョコレートの2種類あるな。


「このピンク色のチョコレートって苺味?」

「うん! 今年は苺味にも挑戦してみました」

「苺のチョコレートもいいよね。じゃあ、まずはこれから」


 苺のチョコレートを1つ口に入れると、チョコレートの甘みの中に、ほんのりと苺の優しい酸味が口の中に広がっていく。


「美味しい」

「……良かった」


 栞は安堵の表情を浮かべていた。手作りだからか、僕が美味しいと言ってくれるかどうか不安だったのかな。

 続いて、僕は普通のチョコレートの方も食べる。うん、安定していて美味しい。ちょっと苦めになっているところがいい。僕好みだ。


「さっきのお返しで、栞にチョコレートを食べさせてあげる。ケーキの方がいい?」

「……もっと別の方法があるよ。これが今年のバレンタインデーのとっておきのプレゼントだよ」


 そう言うと、栞は僕に口づけをしてくる。ゆっくりと舌を絡ませることで、さっきのケーキの苦味が栞から伝わってくる。

 そうか、これが栞の言っていた、とっておきのプレゼントなのか。甘くて、苦くて、ちょっと酸っぱくて……色々な風味が口づけによって栞と共有される。


「……どうかな?」


 唇を離したとき、栞の唇にはチョコレート色に濁った唾液がちょっと付く。


「……美味しいです」

「……良かった。苺のチョコレートも食べちゃったから、口づけをしたらどんな感じになるのか不安で」

「色々な味が混ざるから、どうなるか不安だったんだ」

「うん」

「栞はどうだった? 口づけをしてみて」

「……美味しかったに決まってるよ」


 栞は真っ赤な顔をしてそう答える。上目遣いで僕のことを見てくるところが何とも可愛らしい。思わず彼女のことを抱きしめる。


「ありがとう、栞」

「……どういたしまして」


 僕らは再び口づけをする。


「……あっ。外、雪が降ってるよ」

「そうなの?」


 そういえば、今日は夕方に雪が降るかもしれないって天気予報で言っていたな。

 外を見てみると、粉雪が降っている。


「ホワイトバレンタインデーになったね、悠介君」

「そうだね」


 去年は季節外れの暖かさになって、今年はホワイトバレンタインデーか。2年続くと来年はどうなるんだろうって今から期待してしまうな。

 それはちょっとの間、僕は栞と手を繋ぎながら、段々と白くなってゆく街の景色を眺めるのであった。




特別編-The Valentine’s day in 2017- おわり

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