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片道15分の恋人  作者: 桜庭かなめ
逆・恋心編

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4月23日(水)

 今日もいつもの午前7時27分発、各駅停車八神行きを待つ。もちろん、先頭車両の一番後ろの扉が止まる場所で。

 定刻通りに電車が到着すると、最後に乗って扉のすぐ近くに立つ。

 今日も電車は定時に出発した。

 この電車が鳴瀬駅に到着するとき、彼はいつもの場所で待ってくれるかな。私のわがままが記された手紙を読んで、嫌気が差さなければいいけれど。

 でも、そんなことに悩んでいる時間はなくて、あっという間に鳴瀬駅に到着してしまった。

 いつもの場所に彼らしき人がいた。そう言ってしまうのは、その人はメガネをかけていないから。

 ただ、扉が開くと、その人が例の彼であることがすぐに分かった。その人の目はとても優しいから。

 彼だと分かった途端に頬が熱くなる。メガネを外した彼はとてもかっこよくて素敵だったから。


「お、おはようございます」

「……おはようございます」


 彼は私と向かい合うようにして電車に乗ってきた。普段でさえも緊張しちゃうのに、彼の告白があって、私が手紙を渡した後だからさらに緊張する。精一杯に頑張って彼を見るけれど、すぐに逸らしてしまう。

 ただ、彼から離れたくなかったから、彼の着るブレザーの袖をずっと掴んでいた。


「……私のお願い、聞いてくれたんですね。嬉しいです」


 鳴瀬駅の一つ先の畑町駅を出発したくらいで、ようやく彼にお礼を言うことができた。再び頑張って彼を見てみるけど、またすぐに目を逸らしてしまう。


「思った通り、メガネを外しても素敵ですね。とてもかっこいいと思います」

「あなたの想像通りになって良かったです」

「ええ。今はコンタクトをしているんですか?」

「いえ、全くの裸眼です」

「じゃあ、私の顔はちゃんと見えていますか? 見えなければもっと顔を近づけてもいいですけれど……」

「こんなに近いんですし、ちゃんと見えていますよ」

「そうですか……」


 私、あまり直視できていないのに、ちょっとがっかりした気分になった。


「メガネをかけているときは優しそうな人に見えましたけど、外すと結構クールな感じに見えますよね。も、もちろん話と優しい人だって分かりますよ」

「僕がクール……ふふっ」


 彼は苦笑いをした。クールって言われるのが予想外だったのかな。


「えっ、私、何か変なことを言ってしまいましたか?」

「いえいえ、そんな。ただ、人ってそんな簡単なことで、印象をがらりと変えることができるんだなと思って。僕、クールなんて言われたこと、今までなかったですから」

「そんな! クールに見えますし、かっこいいですし、話すと優しいし、だからきっと今まで何度も……あっ」


 そこで言葉を止めた。『何度も告白されたことあるんですよね』と言いそうになっちゃったから。

 彼からの告白の返事ができていない今、「告白」という言葉は口に出してはまずいと思ってしまったから。気まずい空気ができちゃう気がして。でも、既に今も何とも言えない感じになってしまっている気がするけれど。

 そんなことを考えていると、彼は突然、私の頭を優しく撫でてくれた。


「……あなたのペースで大丈夫ですから。僕はいつまでもここで待ってます」


 彼はいつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。

 待ってほしいという私のわがままを受け入れてくれるのはとても嬉しいけれど、それと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「……ごめんなさい」


 彼だけに聞こえるような小さな声で言った。ありがとうよりも今はその言葉が一番いいと思って。

 そんな私の今の謝罪をどう受け取ったのか、彼はさらに優しい笑みを見せてくれる。彼の優しさが深すぎて、嬉しさよりも分からなさの方が強い。


「気にしないでください。元々、僕から切り出したことなので。直接でも、手紙でも僕は待ってます」

「……はい」


 それでも、彼の笑顔には笑顔で応えたくて。必死に笑顔を見せるけれど、彼にはきっと作り笑顔だなって思われているんだろうなぁ。


『まもなく、鏡原、鏡原。お出口は左側です』


 今日も彼と過ごせる時間が終わりに近づいている。彼と一緒にいられるこの15分間は本当にあっという間だと毎日思う。


「また明日、ですね」

「……そうですね」


 鏡原駅に到着すると、私は彼に手を振って電車から降りた。

 去って行く八神行きの電車を見ながら思う。

 彼に早く気持ちを口で伝えたい。その勇気がほしい。

 他にも方法はいくらでもあると思う。けれど、あの電車の中で私の口で伝えたい気持ちだけは揺るがなくて。

 彼は笑顔を見せてくれているけれど、きっと寂しい気持ちだって抱いていると思う。私が返事をいつまでも言わなかったら、彼の寂しくて苦しい気持ちは膨らんでいくだけ。そんなの、絶対に……いや。


 神様、どうか私に彼へ気持ちを伝える勇気をください。


 自分で掴むべきなのは分かっているはずなのに。私はそんなことを願ってしまうのであった。

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