KILLA 03 運命の歯車
神谷を抱えたまことの後を付いてたどり着いたのは東京の町の真ん中にある大きな高層ビルの地下のバーだった。
内装はレトロで、大人な雰囲気の中に遊び心のあるブリキのオモチャが並んでいた。
カランカランと扉を開くと心地よいベルの音が鳴り響いた。
「いらっしゃーい・・・ってまこと?」入り口を入って向かいのカウンターにメガネを掛けた男がいてグラスを磨いていた。
「わりいマスター、こいつ等ちょっとかくまってくんねえ?」まことはそう言うと神谷をカウンター向かいの広いソファーに下ろした。
「まことがここに帰ってきたってことは、その子がキングかい?・・・と、そちらは?」まことがマスターと呼ぶこの男は磨いていた
グラスを置くと救急箱を手に取りながらそう言った。
「そ。あんたもここ座って・・・傷手当てするから」そう言うとまことはため息をつきながらソファーに座る影虎の傷の手当てをしながら
マスターにこれまでのことを話した。
・・・・・・・・
「へえ・・・蓮見君が第一戦士ね。何も知らないのにいきなりまことに襲われて、大変だったでしょ?」
クスっと笑いながらマスターは言った。
「で、今度は俺達に説明してもらうぞ。どうなってんだよ」影虎は冷静ながらも少しイラ付いているようだった。
足を組みまだ眠りから目覚めない神谷を見て、まことを睨んだ。
「分かってるよ。長くなるぞ。」まことはそう言うとKILLAという主神が作り出したゲームと、普通の人間とは別の
能力を持った人間の存在について語った。
それは遙昔のこの世の全てが生命に満ち、人々が争いを知らない時代、【黄金の時代】
人はその時代、皆が平等で、互いを惜しむ事もなく平和に暮らしていた。
だが、その時代に主神は人間に対立する二つの力を与えてしまう。
その能力を巡り人は争い、憎み、それぞれに格差が生まれてきた。
やがてその能力を持つものは神に選ばれたと崇められ、
能力の頂点に立つものを王とした。だが、強すぎる能力には代償に、己の命を削っていく。
主神が与えた能力は全ての始まりである
陽の力を持つ【白】陰の力を持つ【黒】から成り、白の血が繋がる血族は白の王の血で己の命を繋ぎ、
同じに黒の血の血族は黒の王の血で己の命を繋ぐ事が出来る。だが、
それぞれの王は同じ純血の血を持つ者の血でしか命を繋ぐことは出来ない。
つまり、白の王は黒の王の血。黒の王は白の王の血でしか命は繋げない。
それも相手を殺すほどの量を採る必要がある。王の存在は戦士の命を繋ぐ最大の補佐。
だから王を失わないためにそれぞれの血族は集う。それが戦士。
「まて、そもそも、どうして今まで普通の人間だった俺達がこんなことに」
影虎は髪をかきあげながらそう言った。
「あんた等の親かその親族が黒の血族で、キングは両親が黒の純血だったってこと。
能力があんた等の中で眠ってた状態だったんだよ。それが今、白の王が動き出し、それに反応して黒の王の
力も目覚めた。それを感じ取った俺達スペードの奴等が王に自分の命を預ける程の価値があるかを試しに
本当の王であるか殺しにかかる。屈服した血族は王に使い、共鳴をして、血印の契約をする。」
まことは右手首の黒い模様を見せた。影虎も首筋を押さえた。
「この印は俺達が王の血を所有する事の出来る証。この印がある者だけが王の血を受け入れる事が出来る。」
影虎は静かにその話を聞いていたが王の血という言葉に反応した。
「待てよ、じゃあ俺達が生きていくためには神谷の血を飲み続けなくちゃならねえって事か?」
影虎はまことを睨みつけそう言った。ギリっと首筋に立てた指に力を入れた。
「そう言うことだ。人とは違った能力を持つ俺達の体はその能力からかかる体への負担に耐えられない。
諸刃の剣なんだよ。能力は自分に反動して返ってくる。精神的にもね。
自分を保つためには王の血でないとだめなんだよ。そうしないとやがて自我を失い、
人である事を忘れ、ただ破壊だけに暴走する獣へと化してしまう。」
「その状態に陥る事をバックブルーっていうんだよ」
マスターはグラスに水を入れ影虎とまことの前に置いた。まこととマスターが話すことを影虎はじっと聞き入れた。
バックブルーという症状はひどく精神的ダメージの方が強いらしく、それを自分の力だけで抑えるのは難しいらしい。
「とりあえず内容は分かった。だが、それなら、他にも能力者は何人もいるんだろ?神谷がそれを全部背負うのかよ。」
確かに、黄金の時代からそれぞれの王の血族は世界に渡り、血も途絶えてはいったが、まことのように王を求めて
またいつ神谷を襲う奴がくるかもしれない。そんな中で、神谷が全ての能力者を受け入れたら、神谷は一体
どうなってしまうのか・・・・
影虎は眉間にしわを寄せながらまことの話を頭の中で整理していた。
「それなんだな~!この世のすべての人間の血は2つの系統に分けられていて、紳質効果と言われる血液分析で、
プラス判定を黒、マイナス判定を白。王とはその紳質効果における能力保持の頂点に立つもの。
その中でもさらに分類されて、プラス1型を黒の血族。マイナス1型を白の血族。
2から後の血を持つ人間は黒と白、どちらの血族でも、能力を持たない人間。つまりハートの分類に分けられる。」
マスターは少しにこりと笑ってそう言った。つまり、1型判定の能力者はまれのようだ。
「なるほどな・・・なんとなく飲み込めてきたぜ。神谷に頻繁に起こっていた発作も、その王の存在が関係してそうだな」
《カチ・・・ジュボ》
そう言うと影虎はタバコに火をつけた。
「あーーーーっ!!!!」するとまことが叫んだ。
「?!・・・んだよ」影虎は一瞬びくりとしまことを見た。
「てめえ!!タバコなんて体にわりいモンすんな!!俺はタバコが嫌いなんだやめろ!!吸うなら外で吸え!!」
まことは地団太を踏み、影虎を指差してそう怒鳴っている。影虎はおかまいなしに一服。
「いやだなあまこと、ここ喫煙OKだよーwww」マスターは笑みを浮かべて影虎に灰皿を出した。
「マスター!!俺のタバコ嫌い知ってて禁煙にしないんだろ?!」
「・・・・・フーーー」影虎は煙をまことに吹きかけた。
「うっ・・・・げほっげほっ・・てめええ!!」むせたまことを見て影虎はふっと鼻で笑う。
まことは影虎から距離を取った場所に座り肘をついてそっぽを向いた。
「そういやあ、あんたの名前聞いてなかったな・・・まさかマスターって名じゃねえだろ?」
影虎は訪ねた。マスターはくすりと笑って影虎に一礼をすると頭を上げさわやかな笑顔で名を名乗った。
「まだ自己紹介してなかったね。俺はこのROGIAのマスター。牧野ジン、人種はハート。
まこととは縁あってこうして一緒に王を探してたんだ。改めてよろしくね。蓮見君。」
そうして黒の王の元に、2人の戦士が集った。そしてKILLAへの本当の試練が始まろうとしていた。