KILLA 02 誓いの共鳴
------影虎視点-------
《ゴッ・・・・ガガッガガガガガガガ!!!》
まことが放った砕覇が俺達に向かって放たれた。
砕覇は真っ直ぐに綺麗な直線を描き、神谷の家の1/3を破壊していく。青い光を纏うその攻撃は冬の暗い夜を照らした。
(ちっ・・・さっきので体が動かねえ・・・くそ・・・)
このままじゃ死ぬ。そうはっきりと思った時、俺の目の前が一瞬にして黒く染まった。
かと思えばその黒い光はまことが放った砕覇をなぎ払った。そして俺の目の前にいたのは・・・
「なっ・・・神谷?」
黒く暗黒な片翼の翼・・・漆黒の闇に包まれた瞳。立っていたのは神谷だった。少し髪が伸びたようにも思える。いつものまぬけなオーラとは真逆で、背中からズンと重く伝わる神谷の生気に俺は額に汗をかいた。そんな神谷は払われた砕覇の煙の向こうのまことを見て笑みを浮かべた。
「お前強いな・・・スペードのジャッカー・・・犬獣か」
神谷とは別の神谷の声。いつもより低く、重く、その声は冷たかった。『黒の王』まことが言っていた事を思い出した。
だが、普段とは違いすぎる神谷の姿に俺は頭が付いていかなかった。こいつは神谷じゃない。
「お前・・・神谷・・・なのか?」
俺は自分の体を「まだ完全体じゃねえな」と確かめるようにして見ている神谷に尋ねた。声が少し震えていたのかもしれない。
「なあ影虎、こいつ仲間にしてもいい?」顔だけ少しこちらを見た神谷は少し楽しそうにそう言った。
「な・・・お前を殺そうとしたんだぞ?」俺は仲間にしたいと言っている神谷の言葉が理解できず、どこか今の状況を楽しんでいる神谷がそこにいた。
気づけば俺の姿は元の人間に戻っていた。だが、腹の底からみなぎっていた力が消えると、負傷していた傷の痛みが襲ってきた。
「当たり前だろ?それがこのゲームのルールだ、俺を本気で殺しにくる・・・黒の王の力を求めて・・・」
《シュウウウ・・・》
蒸気を発するような音を立てて、神谷の片翼の翼が消え始めた
「おっと・・・もう時間がねえ・・おいそこのジャッカー、お前俺のとこにこい。お前のような強い妖気が俺には必要だ。」
神谷はまことを指差しながらそう言った。まことも神谷の生気に恐怖したのか酷く汗をかいているように見えた。
「ふっ、俺はあんたと契約も共鳴もしてない・・・俺はまだあんたを認めてないし」
まことは冷や汗をかきながらそう言った。(これが、黄金の血を持つ者の生気・・・それにこの黒の王の妖気・・・まじで別格じゃねえかよ・・・)
全てを覆い飲みつくし全てを支配できるかのようなその生気が普通じゃない事はまことの様子を見て分かった。
「共鳴ならした・・・あとは契約だけだ」
「な?!共鳴を?・・?!」
まことの目に映ったものは、右目が犬獣の瞳、片目は暗黒の黒だった。その瞳を見たまことはドクンと鼓動を鳴らした。
「お前の力を認めてやるよ・・・俺と共にこい」
《ゾクッ・・・・》まことはその場から動けなくなった。思考が働かない。神谷が足を一歩踏み出すと落ちていたガレキは両側に払われ、
黒いカーペットのようにして神谷の通る道をあけた。これほどまでに王の存在は強く俺やまこととの差を見せた。
神谷がまことの目の前に到達した時、まことは片膝を地面につけひざまずいた。
「あんたを・・・王と認める・・・認めたからには俺はあんたに使える戦士としてKILLAに参加する。」
まことは認めたくないモノを認めるしかないという表情で神谷に右手を差し出した。それを神谷は掴み・・・手首に牙を立てた。
《シュウウウウ・・・》
神谷がまことの手首から唇を離した瞬間、神谷の両目が犬獣の瞳に変わりやがて両目は元の闇の色に戻った。
それと同時にまことの右手首から蒸気が発した。
「っ・・・」まことは膝をついたまま右手首を押さえた。
「それは契約の証だ・・・俺の血を所有することの許可をお前にやる」やがてまことの手首からの蒸気は消え、黒い模様が現れた。
神谷は振り返り、黒い蒸気のようなものを纏いながら俺の方に歩いてくる。
「・・・神谷なのか?」俺は傷口から出る血を抑えながら困惑しているのが伝わらないように尋ねた。神谷を目の前にして額に汗をかくなんて
この数年一度もなかったのに、今、俺の目の前に立っている神谷は全く別の存在のように思えた。
「いや、俺であって俺じゃない。影虎、お前のその恐鬼の力も俺はほしい。」いつもの口調とは違って自信に満ちた喋り方だった。
「なにいってやがる・・・てめえ神谷じゃねえならその体から出て行きやがれ。」こいつは神谷じゃない。眼も髪も声も仕草も全て、俺の知っている
神谷じゃない。俺は動揺を隠そうと必死だった。
《ガッ!!》神谷は俺の首を左手で力強く掴んだ。そのあまりの力にぐっと喉を鳴らした。
「王に向かって口答えとはねえ・・・影虎、お前は力はあっても無知だ…俺と契約しなけりゃあ、お前のその力はお前自身を食い殺すぞ」
その真っ直ぐで闇のような瞳から眼が逸らせなかった。その瞳に体の自由を奪われた。さっきの力を使ったせいか体も動かない。
「はなせてめえ・・・」俺は神谷の手を振り解こうとした。それを神谷は右手で阻止し、俺の首に牙を立てた。
「一瞬だ。お前は俺の血が必要だ。今は俺を受け入れなくてもいずれは俺を求める事になる。俺と俺は繋がっている。俺を否定し、
拒絶することは、俺をも否定し、拒絶するのと同じだ。…お前に俺の血を所有する事の許可を与えてやるよ。」
耳元でそう呟いた神谷の声は重く体の芯まで届いた。
《ガリッ・・・・》神谷の牙が俺の首に突き刺さる。この行動は吸血というのだろうか。しかし、神谷は俺の血は吸うことはなく、
首に傷を付けて唇を離した。その傷口から黒い蒸気が発し、黒い模様が現れた。
「ぐっ・・・」アツい。首から全身にかけて燃えるようなアツい感覚が俺を襲った。
「またな、影虎。」そう言った瞬間、神谷の体から黒い気が払われ、髪の長さも元に戻った。
意識がなくなったのか神谷はその場に倒れこんだ。俺はそれを受け止めることも出来ずにただ、神谷に手を伸ばした。
だが、神谷の体を抱えたのはまことだった。
「てめえ・・・」
「この人は俺の王だ・・・安全な場所に連れて行く。」
「てめえが言えた口かよ・・・神谷を下ろせ」
「もう俺はあんたらを殺す理由は無くなった。俺は屈服した。戦士は王に使える・・・それがルールだ。あんたもその怪我じゃなんだろ?
俺の知ってる奴んとこでかくまってもらう・・・そこであんたが聞きたい事全部話してやるよ・・・」
どこか冷静なまことを見て俺も少しは冷静さを取り戻した。今日起こった事態に頭が付いていかない。まことが何者で、俺自身も何者なのか。
あの力はなんなのか。そして、神谷に一体何が起こったのか。俺は知る必要があった。何も知らない事ままじゃだめだ。そう考え、俺は
まことの後をついて行った。