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セイギノミカタ  作者: 柏木大翔
世界の在り方
53/104

53.デート

デート編。

前段階で長そうなのでちょいと分割……したらこっちは短いです。すみません。

 まだ目覚めには早く、しかしこれから幾多もの動植物たちが活動を始めようとする頃。

 リズは来たるべくその時のために服を選んでいた。


(ああ、もうどうしよう!)


 声を上げないのは眠っているセイギに気を使ってのものだ。



 こうしてリズが服の選択で迷っているのも、ひとえにこのあとのスケジュールが関連している。というのも、このあとはセイギと二人で街へ外出する予定があるためだ。昨日の軽い睦み合いも終わったあと、セイギの急な『明日デートしよう』という強い提案から決まったものだ。


 デート――恋人同士が外出して遊ぶこと。リズの認識はそうだった。つまりそれはセイギと恋人同士ということになり……


(きゃああああああああああ!!)


 リズはそのブロンズの髪を左右に振り回して身悶えた。心臓が軽く飛び跳ねリズの羞恥を煽る。実感が全身を覆い、多幸感と同時に心労まで運び込んでくるようだ。事実、心臓の昂ぶりは常時の二倍近くにまで及んでおり、吸引する酸素の量が増えることもまた必然である。それが疲労を誘うのかと問われれば、医学的な根拠に基づいて肯定も否定も出来ないものの、少なくともリズの精神の疲労にはなっていた。


 いつもとは違う格好。デートに似合う服装。それを考えるだけで幾多もの迷いが浮かんでは消える。答えが出たかと思えばそれも間違っているような気がして、結局は振り出しに戻る。それを既に何度繰り返したことか。

 リズの服は決してバリエーションに富んでいるわけではない。むしろ、圧倒的に少ない方だ。そして"女の子"らしい格好の服ともなると、それは更に数を減らす。今までは人目を気にするようなこともなかったし、フリフリとした服などでは狩猟や畑仕事には決して向かない。その為に作業着のような効率を重視した服ばかりがリズの視界を埋めている。


 そもそも服飾に関しての知識が乏しいため、どうした選択が良いのかも分からない。頭に浮かぶのはお姫様や貴族の正装ばかりで、それ以外の服などは思いつきもしない。

 リズは未だに寝言を呟いているセイギを忌々しく思い、手元に落ちていた作業衣の上を投げつける。それがセイギの顔にぶつかり、それを嫌がった表情で押しのける。そんなセイギの様子にリズは微笑を浮かべた。

 リズはセイギを眺めていた視線を戻し、目の前に散らばっていた衣服を前に軽くため息を吐き、ようやく一着の服へと手を伸ばしたのだった。



 * * *



「おはよ!セイギ」

「んー、あと……五分……」

「起きてー」

「あと、十分……」

「……ホントに起きないの?」

「っ!起きます!」


 眠っていたセイギの耳を叩いたのはリズの柔らかい声だったのだが、最後の言葉だけはどこか冷たい雰囲気を纏っていて、飛び起きざるを得なかったのだ。


「起きた?」

「はいはい起きましたばっちり覚醒です!」

「ならよろしい」


 セイギのやや軽口気味の口調にリズが笑う。そんなリズの笑顔のうち、ただ一点に視線が集中する。それに気が付いたリズは慌ててその桃色の唇を抑えた。同時に耳まで朱に染まる。


「セイギの、エッチ!」


 そう罵られても、セイギの顔がニヤニヤしたままだったことは語るに難しくない。




 軽い食事を終え、二人は外出の準備を完了させた。

 二人共に今までしなかったようなよそ行きで、如何にもな格好をしている。


「じゃ、じゃあ行くね?」


 リズはそう言ってセイギを後に残し立ちさった。共に行けばいいものだが、なんでも様式美と言うものがあるらしく、セイギは後から来るようにとリズに釘を刺されていた。正直そんなことどうでもいいじゃないか、と思いつつもセイギは大人しく従うことにした。女心とは斯くも難しきかな。


 正直なところ、セイギも今日のデートはかなり張り切っていた。一度も経験したことのないそれは、セイギの鼓動を高めて高めて仕方がなかった。そもそも誘う時点でかなり緊張していたのだが、それがリズに悟られていなかったのかどうかが心配事でもあった。実際のところ、リズがそれに気付いた様子は全くなかったのだが。

 セイギはこれからのことを考え、鼓動を高鳴らせるのであった。失敗は出来ない。男らしい面を存分に見せつけてやろうではないか。そう意気込んでいることが吉と出るのかそれとも凶と出るのか。些かそれはフラグのようにも見えるのだが、セイギはそれをさして気にする様子もなく今日のデートのシミュレーションをトレースし始めたのだった。



 晴れ渡り頭上に広がる蒼穹は未来を煌々と照らしているかのようで、明日へと続く道を希望という光で照らしているかのようであった。今日が終われば明日も、明日が終われば明後日も。二人はもっと寄り添って分かり合って生きていくことが出来る。それはきっと幸せなことで、それ以上を望む必要はないほどに幸運なことなのだろう。

 ずっと二人、寄り添って生きてゆきたい。――そんなことをぼんやりと考える。



 実に楽しい一日だ。

 実に愉快な一日だ。

 実に幸せな一日だ。



 セイギ達はそれを決して疑わない。




 ――最後の運命の輪が、回り始めた。

ペロッ、これは……フラグ……!



誤字脱字、質問意見感想などございましたらどうぞ宜しくお願い致します。

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