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セイギノミカタ  作者: 柏木大翔
生まれ出る命
3/104

3.影一つ

 刹那、耳を(つんざ)くような悲鳴が響き渡った。

 イヤーとも、キャーとも、ひゃあとも聞き取れる甲高いそれはセイギを硬直に至らしめた。


 下着に手を伸ばすセイギとそれを見て叫び声を上げる少女。誰がどう見てもセイギの卑劣な行為を否定することは出来なかった。


 頭に血が上った少女は咄嗟に身近なものをひたすらにセイギにぶつけ始めた。

 手紙、皿、鍋、スプーン、木材、草、鉢植え……

 なるたけ物を壊さないように配慮しながら受け止められるものは受け止め、ベッドへと流していく。

 そんなセイギの手の中にライムグリーンの布が飛び込んできた。くしゃくしゃになったそれを広げてみると薄手の三角の布で……


 ギャー、と言う悲鳴が聞こえた気がした。

 ふと顔を上げたセイギに差し迫っていたのは少女の固く握られた拳だった。



 ***



「+℃∞≠&£◆∂⊂Å!」


 少女が必死の形相で何かを訴えかけている。しかしそれはなにを訴えかけているのかセイギには全く検討もつかなかった。それでも決して誉めたてるような意味の言葉でないことだけは理解できた。


 今のセイギの頬は少し青みがかっていた。少女に殴られたせいで青アザになりかけているのだ。少女の腕の中には先程のライムグリーンの薄手の布がしっかりと抱え込まれ、少女は上気しながら半分涙目になりながらもセイギを睨み付けていた。それは小動物が震えながらも精一杯威嚇している様子にも似ていた。


(やばい、すごく可愛い……)


 不謹慎ながらもそのようなことを考えたセイギであったが、すぐに思い直し今とるべき行動を即座に実施する。


「……あの、ごめん。さっきのことは謝る。申し訳ない。でもあんたが何を言ってるのかはさっぱりわからん」


 通じるかどうかも分からないがきっちりと自分の言葉を告げ、頭を深く下げる。相手が外国の人間であろうと、セイギに出来るのは生まれ育った国の礼儀のみだ。それでも出来うる限り丁重に謝辞を述べる。


 頭を下げるセイギに少女は一瞬硬直したが、その停止も一時のものですぐに何かを叫び始める。


「+∞、£*」


 先程と異なりそのセンテンスは短い。それでもセイギに少女の言わんとすることは分からない。

 そんなセイギの様子を察してか、少女は扉を指し示して同じ言葉を繰り返した。


(出ていけ……ってことか?)


 確信は持てていなかったが、果たしてその推測は間違っていなかった。

 セイギは指し示された扉に向かって歩き出す。

 木製の扉は立て付けが悪かった。恐らく床と扉の下部が平行になっていないのだろう。ゴリゴリという物音を立てながらも扉を押し開き、セイギは外の世界へと繰り出した。


 どこからが夢でどこまでが夢なのか。

 セイギには分かっていなかった。少なくともベッドで目覚めてから今までは夢でないと、あの青アザがズキズキと証明していた。


 途方に暮れようにも物を考えることさえセイギは億劫になっていた。

 まずはここがどこであるのか、刺された傷はどうなったのか、これからどうしたら良いのか、と言った諸事さえも不明。そして着の身着のままである現状。思案に暮れていられるほど余裕がないのもまた事実。


 そして今は黙々と森から続く一本道を歩いていく。

 これと言った理由もないが、一先ずは森から遠ざかることを無意識のうちに最優先したのかも知れない。時刻は太陽の位置からしてもこれから夜中に変わっていく頃だろう。夜の森から遠ざかることも優先される事項であることには違いない。

 そして少女に追い出されてしまった以上、これ以上頼ることもできない。戻ることが出来ないのなら進むしかない。元より選択肢は一つしかなかった。


 セイギはあの少女を思い出して後悔していた。


「お礼、言ってなかったなぁ…」


 あの森の中の出来事が事実だとしたらあの小屋に運んだのは少女と言うことになる。平均的な男子高校生であるセイギは決して軽いとは言えない。それをセイギよりも20センチは低いであろう少女が運んだのだ。

 そんな労を多してくれた恩人に"あのような"馬鹿な仕打ちをしてしまったのだ。セイギは後悔しても後悔しきれずにいた。


 鬱々とした気分で歩き続けていたが、後ろから何かが駆け寄ってくるような物音を耳にしたセイギは慌てて振り返った。

 けれどもそれは危険とは無縁で。

 ―――少女の駆け寄る姿があった。



 少女の息はひどく荒く、必死に走っていた様子が窺えた。セイギの前で息を整える少女。それをどうして良いものかと眺めるセイギ。

 どうにか息を整えた少女はキッとセイギを睨めつける。そのままセイギの腕をガッチリと掴むと元来た道を真っ直ぐに引っ張っていく。

 セイギにはどうしてよいものか分からなかった。少女が何をせんとしているのか、その意図が全く掴めなかった。腕を振りほどくこともせず、ただ素直に少女に引き連れられていくのみであった。



 無言で黙々と歩く二人。彼らを見守る者はなく、今にも消え去らんとしている太陽が最後の力を振り絞らんと煌々と光を放ち、長い影を落とさせていた。


 周囲を伺う余裕もない、通じ合えない二人には短いながらに長い道のりであった。

 だが、その影は確かに一つに繋がっていた。

書き殴りでスミマセン…

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