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セイギノミカタ  作者: 柏木大翔
世界の在り方
29/104

29.鵜の目鷹の目獣の目

 セイギの前に立つ女性は高身長で、一般高校生の平均身長である175センチのセイギと殆ど変わらない。気持ちセイギが高いか、と言ったところだ。

 そして黒髪に金の目。髪は後ろで一本に縛りポニーテールにしている。天使の輪が現れるほどの艶やかさを持ったその髪は神秘的な高貴さを表していた。スッとほっそりと通る鼻は怜悧さを伺わせるようにも見える。唇は薄いのに赤く、血を思い起こさせる。釣り目がちなその双眼の影響もありどことなく肉食獣を彷彿とさせる。

 体躯は全体的に細く、しかし一部は大きく出ている。脚は長くしなやか。一方でしっかりとした筋肉も見てとれる。これだけでも一部の人間には大人気そうだ。

 健康的に焼けた素肌にバランスよくついた筋肉、しかし女性的な柔らかさは失われていない。

 そんな彼女が身に付けているのは胸を覆い隠す布と短いパレオにも似た布程度だ。所謂臍出しルックとも言える。


 リズをキレイ、と称するならば、この女性は美人、というところであろう。それも修飾には切れるような、が付くが。


 何よりも目を引くのはたわわに実ったその果実だった。



 事実、セイギがガン見していた。


「ボク、見すぎ」


 その女性から指摘されたセイギは慌てて視線を反らす。そんなセイギの態度に女性が笑った。恥を覚えながら女性を不快にさせてしまわなかったことに安堵したセイギだった。

 一通り女性が笑うと、落ち着いた様子でセイギに質問をする。


「ねえ、ボクはここで何してたの?」


 ボク、と呼ばれることに少しばかり不快感を覚えながら、先程の不躾な視線をやってしまったことを思いだし、文句を言おうにも言えなかった。


「あ、いえ、ちょっと身分証を持ち合わせていなくて……」


 その言葉にハハーン、と閃いたような表情になる女性。


「じゃあ私達と一緒に行きましょ?良いわよね、アレックス!」

「んー?いいんじゃないかー?」


 急に大声を上げた女性に対し、馬車から間延びのした返事が返ってくる。まるでなんの会話も聞かずに相槌を打ったように。


「ですって。行きましょう」

「いえ、ですから身分証が……」

「大丈夫大丈夫、私達と行けば問題ないわ」


 そう言うと女性はセイギと腕組みをして関門に向かって歩き出した。


「え、ちょ……!」


 そんな素敵経験をしたこともないセイギはただただ惑うことしかない。惑うというよりも、煩悩に洗脳されたとも言うが。





「ムッ!?」


 その時リズがなにかを感じ取っていたとかいないとか。





「ハロー、私達《竜の墓場》って言うんだけど、通してくれないかしら?」


 気軽にそう言ってのける女性と反対に困惑する兵士。しかしその視線は蠱惑的な肉体に釘付けであることが丸わかりだ。


「いえ、そう言われましても……」


 しっかり誘惑されながらも責務を全うしようという兵士。ある意味兵士の鑑だろう。


「ちょっと待て。《竜の墓場》と言えばかなりの冒険者一団じゃないか?」


 その誘惑されている兵士とはまた別の兵士が言葉を遮る。


「かなりってレベルじゃないわよ?」


 黒の女性は妖艶に笑うとその胸元から鉄の塊にも似たカードのような物を差し出す。

 それを鼻の下を伸ばした兵士が受けとる。受け取れなかった兵士は親の仇を見るような目でもう一方の兵士を睨み付けていた。

 だがその兵士の顔もすぐさま引き締まり、睨んでいた兵士も怪訝そうな表情へと変わり傍に歩み寄る。


「どうした?」

「……これは、なんと言えばいいんだ?」

「……俺たちじゃ判断しようがないな」


 聞き取れたのはそこまでで二人は上司らしき人物のもとへと駆け出す。一言二言言葉を交わし、例のカードを受け取った上司はすぐさま何処かへと飛び去った。

 二人の兵士はすぐに女性の元へと戻ると深く頭を下げる。


「申し訳ございません。確認のため暫しお時間頂けますようご容赦のほど、宜しくお願い致します!」


 セイギを追い払ったような横柄な態度はすっかりと鳴りを潜め、慇懃無礼とも言える態度で腰を低くする兵士たち。

 そんな二人に女性は呆れの溜め息にも似たものを吐いた。


「別にいいけどねー。ねえボク、名前は何て言うの?」


 興味を失った女性がその標的を完全に変えたのか、唐突にセイギに話題を振る。


「え?あ、俺はタナ……、セイギ・タナカと言います」

「ふぅん、セイギくんねぇ。セイギくんは貴族なのかしら?」

「へ?違いますが……」

「あら、違うの」


 まじまじとセイギの様子を伺う女性にバツが悪くなるセイギ。その嫌な状況を逃れるためにセイギは言葉を挟んだ。


「あの、それで……」

「ああ、私の名前はレイラ・パサドナよ。これでも獣人族なの」

「獣人族?」

「セイギくんは獣人族をご存じないのかしら?」


 尋ねてもいいものなのか一瞬逡巡する。その知識が常識だったら相手に違和感を与えてしまうのではないだろうか。ここは知ったふりをして過ごすのが無難ではないだろうか。だがその逡巡も悟られてしまったと考えたセイギは已む無しに首を縦に振った。


「セイギくんってば箱入りなのね。じゃあ教えてあげる」


 チャーミングなスマイルを飛ばしつつ軽快に口を回して語り出す。


「獣人族っていうのは文字通り獣の血が流れる人のことよ。分かりやすいのはヒト族よりも筋力が強いことと数が少ないことね。とは言ってもヒト族の数に敵う種族なんていないけどね」


 皮肉ぶったように笑うレイラ。


「あ、今疑ったよね?そんな表情してた」

「いや、そんな……」


 慌てるセイギを見て尚更にセイギをからかいだす。典型的ないじり倒しの場面だ。


「ひどーい、折角お姉さんの秘密を教えてあげたのにー」

「違いますってば!」

「しくしく」

「あーもう!」


 態とらしく泣き真似をしだすレイラにどう接していいのか分からずに大声を上げる。そんなセイギを見て満足したのかレイラは笑いながらセイギを正面から見据えた。

 思わず背筋がヒヤリ、とする。そんな感覚をセイギは覚えた。


「別に獣人族は毛深いわけでも四つ足で動くわけでも牙や爪が鋭い訳じゃない。中には例外も居るけどね。基本的にはヒト族とおんなじ。ちょっと力が強いだけ」


 言葉は至って普通。しかしその表情、雰囲気が冷めていくような気配がする。


「まあ目立って他と違うのは髪とか目の色かしら……私みたいに」


 もはやそれは気のせいでも何でもなかった。既にその冷酷な目がセイギを射抜いていた。

 その視線に思わず尻込みをするセイギ。



「あなた何族・・なの?セイギ」

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