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SCHWARZ DRACHE  作者: 勇丸
第Ⅰ章DAS WECKEN
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第一録DUNKELHEIT-漆黒の少女-

 西暦2442年 5月10日01:09 

 ドイツ州旧フライブルク周辺 ゲシュートス軍特殊研究所にて

 

 漆黒の空にはいくつもの雲が浮かんでおり、時々中途半端な形の月

が隙間から顔を覗かせている。

 歩哨に立っていたアイゼン・ザックス伍長は大きな欠伸をしながら

ブラックコーヒーを飲んでいた。コーヒーは既にぬるくなっている。

「最近冷えるなあ。もう5月だってのによお」ここ数年少し気象がお

かしい。そんな気が彼はしていた。これも戦争の影響なのだろうか。

実際のところ何百年もの間少しずつ気象は変化しているのだが生憎彼

は気象には興味が無かった。

「まあまあ伍長、あと20分ほどで交代ですから」柔らかな口調で答

えているのは、1ヶ月前この基地に配属となったデニス・ヴァル1等

兵だ。

「お、もうそんなか」歩哨の当番が交代とわかると伍長は急に元気に

なった。

「イヤー、苦労して待った甲斐が・・・・ん?」ふと彼は向こうの森

に何かを見たような気がした。

「どうされました、伍長」デニスが尋ねる。伍長は暗視ゴーグルを手

に取ると、森のほうを注視する。が、何もいない。森はいつもどうり

フクロウの鳴き声が聞こえるだけである。

「おかしいな、気のせいか・・・」首を傾げながらゴーグルを下ろす。

「ですからどうされたんです」

「いや、森に何か見えた気がしてな。とにかく周辺の警戒を怠るな」

「司令部に・・・」デニス1等兵が通信機を手に取るが、伍長は手で

制する。

「?なぜです?」

「まだ確実じゃあない。もしかしたらふくろうかウサギと見間違えた

のかもしれん。そんなことで基地中を起こしたら俺は明日ボロニアに

されちまう」冗談を交えつつ、いや本当にそうなるかもしれないが、

2人は時間が経つのを徒に過ごした。

(俺の目が正しければ、あれは恐らく人だった。それも少女だ)



 その後、伍長たちが歩哨の交代をしている間に何者かが基地内へ侵

入、大型金庫に保管してあった特殊な本を盗み出した。逃走途中、発

見され基地に警報が鳴り響きサーチライトが基地を照らす。

「・・・まずいな・・・おい、救援を頼む」

 敵を逃れ、埃まみれの格納庫内に一人の少女がいた。少女はインカ

ムに話しかけているが、応答は無い。

「あいつめ、何をしている」

 悪態をつく少女を時折窓からサーチライトが照らす。少女は随分と

目立つ出で立ちをしていた。漫画に出てくる軍服のような古風な漆黒

の服を着ており、髪は同じように黒くショートヘアだ。それだけでも

十分彼女を目立たせていたが、彼女の顔がそれを一層引き立てていた。

右眼は黒く、左目は真紅のオッドアイをしており、左頬には同じよう

に黒い不思議な紋章が刻まれている。肌は対照的に透き通るように白

い。

 不思議な雰囲気をした美少女であった。

 その少女は、何か本を抱えている。その本は真っ赤で、何語で書い

てあるかわからない。これはこの基地に厳重に保管してあった物だ。

とにかくこれだけは敵には渡せない。

 仲間と通信が取れなくなり、自力で脱出しなければならないことを

悟った少女は、とりあえず武器を探す。これは難なくクリアした。近

くに落ちていたハンドガンを拾うと、ホルスターを腰に巻きマガジン

をいくつかポケットに入れる。既に銃の扱い方は仲間から習った。

 あとはどう逃走するかである。走ればすぐに撃たれてしまう。かと

いって物質浮遊装置を利用したバイク<アオレオーレ>はここには無

い。

 あらためて格納庫内を見渡すと、試作兵器の山だった。様々な物が

ある中、少女の眼にあるものが留まる。そのボディーの隅には、<G

SM/E−004GR クリーガー>とあった。その兵器はなんとも

奇怪な形状をしており、こんな所で埃を被る羽目になっていても仕方

のないことだろう。だが、少女はそれに可能性を見出していた。

 近くに落ちていたマニュアルを拾い、懐中電灯で照らし基本的な操

縦の仕方を覚えると<クリーガー>に乗り込む。既にささっていたキ

ーを回すと低いエンジン音が響く。次々とモニターが点き、システム

が起動していく。どうやらいけそうだ。

 スコープを引き出し、機体右側にある32m砲の照準を格納庫の隔

壁にあわせる。薄そうだ。座席の前にある二つのレバーがどうやら操

縦桿と32m砲などの兵装システムを操作できるらしい。

「榴弾装填、次弾AP」



「まだ見つからんのか!!絶対に逃がすな、しらみつぶしに探せ!!

」士官の女が叫ぶ。ここで侵入者を逃せば恐らく銃殺刑に処されるだ

ろう。このままでは一族の恥だ、しかも逃したのがたった一人の少女

と知れれば尚更だ。

 ふと彼女は一つの古びた格納庫に目が留まる。あの格納庫は長い間

使ってなかった。もしかするとあの中に逃げ込んでいる可能性が高い。

 銃を抜き、ゆっくりと格納庫に忍び寄る。中の様子を確認しようと

窓から覗き込もうとした瞬間、彼女が張り付いていた壁が吹き飛ぶ。

壁を挟んでいたとはいえ、もろに榴弾を喰らった女士官は木端微塵に

吹き飛ぶ。

「何だ!?爆発が!!」付近にいた兵士が黒煙の立ち込めるほうへ向

かう。辺りにはピンクや赤の肉片が散らばっており、悲惨だった。

 兵士が散らばっている布切れが士官の物と判ったその時だった。黒

煙の中から大きなタイヤの形をした物体が飛び出す。

「うわっ!・・・あ、ありゃあ去年試験された試作兵器じゃねえか!

<クリーガー>に乗っているのはどうやら友軍ではなさそうだ。<ク

リーガー>は基地内を疾走していく。途中、立ちはだかる装甲車をA

Pで吹き飛ばすとそのまま基地外へと走り去っていった。

「侵入者は我が軍の車両を奪取し北西へ逃走!繰り返す、侵入者は我

が軍の車両を奪取し北西へ逃走!至急、追撃部隊を!!」果たしてあ

れは車両で良かったのだろうか。

 


 その後すぐに追撃部隊が逃走者を追ったものの、発見は出来なかっ

た。それもその筈、<クリーガー>は元々、敵を奇襲するための兵器

だった。

 最高時速193キロ、重量わずか364kg。ボディーは特殊合金

で軽量かつ高耐弾性。しかもステルス性能があり、その上ステルス塗

装がしてあり、塗料が黒いため夜間は視認もしづらい。それほどまで

の高性能なこの機体が正式採用されなかったのには訳があった。この

<クリーガー>は扱いにくかったのだ。1輪というただでさえ扱いに

くいのに、武装が左右で違うため、重量配分が上手く取れていなかっ

たのだ。そのため試験中にパイロットが死亡、残った2機はお蔵入り

となった。

 そしてテストパイロットでさえ乗りこなせなかった<クリーガー>

をその少女は易々と乗りこなしていた。

「なかなか面白いな、こいつは・・・」少女は半径30キロ以内に敵

がいないのをレーダーで確認すると、手ごろな所に<クリーガー>を

とめ、おりてキャンプを張ることにした。といってもせいぜい寝袋に

包まる程度だが。

「・・・これでやっと1つ目か・・・」バッグの中にしまっていた真

っ赤な本を取り出すと表紙をめくる。少女にはまったく読めなかった

が、構わなかった。

「残るはあと7冊、無事に集められるといいのだが・・・」

 とにかく今は寝よう。腕時計を見ると既に3時を回っている。明日

も早い。

「ふわぁ・・・」欠伸をするとすぐに眠りに落ちた。

 この少女はこれから自分にふりかかる悪夢を知っているのだろうか。

とても辛く、過酷な運命を・・・

 



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