プロローグ
お読みいただければ幸いです。悪い箇所があればできればご指摘ください。今後の糧とさせていただきます。
西暦2424年9月18日、ドイツの一角で「ゲシュートス公国」を名
乗る武装集団が武装蜂起、瞬く間にヨーロッパが侵略されていった。その
電撃的な作戦のため、ヨーロッパ諸国はまともな反撃が出来ぬまま、わず
か6日でヨーロッパは制圧された。13日目、ユーラシア大陸制圧。17
日目、アフリカ制圧、そして28日目、南北アメリカ大陸の制圧をもって、
全世界が制圧される。
世界が混乱に包まれる中、ゲシュートス軍はある民族の情報をキャッチ
した。彼らは6000人ほど存在し、俗世間から隠れ密かに生活していた。
7000年の間。彼らを目撃した人は皆無に等しく、また、彼らと接点
を持つ者もごく少数であった。
遥か昔、彼らは人間と対峙したことがあった。彼らは人間よりも強靭な
肉体を持ち、圧倒的な力を誇った。そして何よりも、彼等しか持たない特
有の力があった。だが彼等は戦いに敗れた。敗因は彼等の少なさだった。
彼等が人間に立ち向かうにはあまりに少なすぎたのだ。結果、戦いに敗れ
た彼等は世界各地に散り散りとなり、細々と暮らした。そして次第に人々
は彼等を忘れ、人々の記憶から消えた。
ではなぜ今頃になって、彼等は動き始めたのか。原因はゲシュートス軍
にあった。彼等の存在をいち早くキャッチした軍のある人間が彼等の記し
た書物が強力な力を秘めていることを知り、その力を手に入れるため書物
を探し彼等を攻撃し始めたからであった。そのため・・・ん?何だ、長話
はもういい?・・・わかった、では最後に彼等について話そう。彼等はあ
るものに変身できた。そしてそれを見た人々は口々にこういったという。
「竜だ」と。そして彼等は「竜人族」と呼ばれるようになった。
遠い昔、ヨーロッパにて
ある場所で一人の騎士と一頭の竜が死闘を繰り広げていた。双方共に傷
つき、満身創痍であった。しかしどちらかと言えば、竜のほうがおされて
いた。
「もうよそう、こんな意味のない争いは。ウィトレイド」騎士が呼びかけ
る。ウィトレイドと呼ばれた真紅の竜は、騎士の言葉を無視し、騎士の持
つ剣を睨みつけている。
『・・・・・・竜殺しの剣、ドラゴンキラー・・・。貴様等が如何にして
そのような物を作ったが知らぬが・・・・・・我等は敗れはせん!』竜の
口の隙間から炎が吹き出ている。止めを刺すつもりだ。これで決めなけれ
ば、あの恐ろしい剣にこちらがやられる。あの剣はまるで紙を切り裂くよ
うに竜の鱗を切り裂き、深い傷を負わせる。しかも魔術を使い傷を塞ごう
としても、まったく塞がらない。どうやら不思議な能力を秘めているよう
だが。
『・・・獄炎竜アグニに歯向かった罪は重いぞ・・・・・・』彼が絶対に
諦めることは無い、たとえその命尽きても。だがそれは騎士も同じである
ことは言うまでもない。
「お前、ウィトレイドじゃあなかったのか?」『我々・・・竜人族には人
の時
の名と竜の時の二つの名がある』静かに語ってはいるが、その眼は溢れん
ばかりの殺意を宿している。さながら狩りをしている鷹のようなものであ
る。
『何の力も持たぬ人間ごときクズがこの神聖なる地球に住み着
いて良い訳がなかろうが。失せろ!』
そう言いながらも、ウィトレイドは竜人族の劣勢を感じていた。我々は
人間をなめていた。人間などとるに足らん下等な生物と考えていた。事実
彼等は竜状態で指で弾くだけで簡単に壊れた。それなのに我等はおされて
いる。何故だ!!彼にはまだそれが信じられなかった。
「なあ、こんな戦い止めにしよう。仲良く暮らそう、互いに助け合ってさ
」
騎士は小さな希望にかけた。だが、竜からの返答はその小さな希望を打
ち砕いた。
『ほざけ!!そんな戯言聞きとうないわ!!貴様がそう言っても、どうせ
他の人間が我等を苦しめる。そんなこと判っておろうが、ジークフリート
よ!!』刹那、竜の口から地獄さえも焼き尽くす炎が噴き出す。が、すん
でのところで騎士は避け、竜に迫る。騎士の接近を感じ、ウィトレイドは
口を閉じたが、遅かった。
ジークフリートは竜の背中へと駆け上り、剣を振り上げると斜めにウィ
トレイドの首へと振り下ろした。
響き渡る咆哮と飛び散る血飛沫。ジークフリートは大量の竜の血を浴び
ていた。血は鎧の中まで入り込んで来ている。獄炎竜というだけあって、
血は焼けるように熱かった。竜の背中から下りると、竜の首が転がってい
た。兜をとると、心地よい風を頬に感じる。
戦いは終わったのだ。家に帰ろう。
(すまないな)横たわる竜に向き直ると、胸の奥から重いものがこみあげ
てくる。
殺したくはなかった。
出来ることなら救いたかった。
自分の非力さを呪った。
そのまま彼は時の移り行くのを忘れ、しばらくの間自分を責め続けた。
後に彼は英雄となり、ウィトレイドを失った竜人たちの士気は下がり次
第に姿を消していった。あるものは森に、またあるものは遠い島に、そし
てまたあるものは東で伝説の生き物と崇められた。
だが多くの者はある一つの村を造った。そこで竜人達はとある8つ、書
物を書き記した。それらは各竜の属性の種類ごとに書かれ、彼等特有の魔
術や知恵を記した。
竜人達が力とした「炎」、愛と崇める「土」、輝きと崇めた「水」、命
と信じる「木」、怒りを象徴する「雷」、戦士とされた「鋼」、そして、
全てとされる「光」、それに対をなし邪悪であり断ち切らねばならぬもの
とされてきた「闇」。それら8属性の竜たちの長それぞれが後の世に何か
を残すため記した。
「闇の書」が記された当初、闇は「静まりの闇」とされていたのだがその
後闇竜達は村から追放、やがては弾圧される。だがその話はまた別の機会
に。
長年の間に様々な出来事が起こり、彼等の記した八つの書は世界各地に
散らばり、それらはどれ一つとして彼等の元に戻ることは無かった。
時は流れ、ゲシュートス公国の世界統一から17年、ある少女の旅が始ま
った。
不定期掲載