一話
【祈りの儀】
「おばさん、洗い物終わったよ!」
そう何かを真剣な表情で紙に書き込んでいるおばさんに向かって声を掛けると、
おばさんは僕を見て言った。
「そうかい、ありがとうね。
あとは私一人でもできるから、遊びに行っておいで。」
「ホント?じゃあ、行ってきます。」
言って、さっそく家を出ようとすると、おばさんは少し待ちな。と
僕が家を出ようとするのを止めて、何かを引き出しから取り出すと
持っていきな、少しだけどお小遣いだよ。とその何か、小さな巾着を僕に渡してくれた。
それを受け取っておばさんにありがとう。とお礼言って改めて、
行ってきます。と挨拶をしてから家を出た。
―――
家を出て、少し歩いた場所にあるお店の多い通りに来ると、
今日が特別な日だからなのか、常に賑わっている通りはいつも以上に賑わっていた。
「そこの坊っちゃん。とてもうまいラカの実があるよ!2個で1ラマート!
どうだい買っていかないかい?」
ラカの実、それは赤い、手のひらほどの大きさをした丸い実で
甘酸っぱくておいしくて好きな実だ。熟している物ほど鮮やかな赤色をしていて甘い。
見せられたかごの中に入っているラカの実は真っ赤な色でおいしそうだ。
そして、さっき家を出る時におばさんに渡された巾着の中には4ラマート入っていた。
だから、ラカの実を買っても問題ない。
だけど、今の僕はお腹がいっぱいで買う気が起らなかったから
掛けられた声にまた今度買いにくるよ。と言ってそこから離れ、
通りにあるいろいろなお店を見ながら歩いていた。
― 一か月前、王都に着いた僕は母が昔、王都にいた時に一時期世話になっていたという
宿屋『銀の猫』の手伝いをしながら暮らしている。『銀の猫』の女将さんは優しい人で、
僕が母のことを話すと快く僕を受け入れてくれた。それだけじゃない、
僕が住む場所が無いという話をすると僕をその家に住まわせてくれている―
そうやって、あてもなくふらふらと通りを歩いているとどこからか
「今日の【祈りの儀】ダルク陛下じゃなくてリヴァ様が執り行うそうよ?」
「それ、本当っ!?見に行かなくちゃ!」
そんな会話が耳に入ってきた。