十六話
僕が話している間、補佐の青年はそれを静かに聞いてくれた。
話を聞き終わると青年は僕に言った。
「だから君は昨日、あんなに不安そうな顔をしていたんだな。」
と。そしてもう一度安心させるように頭を撫でてくれた。
そうやって使者の人が来るまでの間、補佐の青年は僕の話をずっと聞いてくれていた。
そして王宮に行っても会うこともあるだろうから、と名前を教えてくれた。
「私の名はフェレス・ロアだ。」
と。簡潔すぎるほどに短い言葉だったけどその声にはどこか僕を心配する雰囲気があって、
僕はそれが嬉しかった。
―――
「どうぞ、こちらです。」
部屋の外から声が聞こえた。
声の後に扉を叩かれ、フェレスが
―さん付で呼んだら呼び捨てで構わないと言われた―扉を開けると初老の男の人が、部屋に入ってきた。
扉が閉められるとその人は口を開いた。
「貴方がクラウ様、ですか?」
確認するようにゆっくりと訊かれたそれに僕がうなずくと、その人は続けて
「初めまして、私はクラウ様の世話係を仰せつかりました、バトラ・デイズと申します。
このまま王宮へ向かいますが、よろしいでしょうか?」
そう自己紹介をすると、僕に聞いてきた。
「あの、…僕がお世話になった『銀の猫』の女将さんに伝言をしたいんですけど。
…構いませんか?」
おばさんに一言だけでも伝えたかったから、そうバトラさんに聞くと
「それでは私が後でお伝えしましょう。
なんとお伝えすれば、よろしいでしょうか?」
「今までありがとうございました。
僕のことは気にしなくていいから、元気でいてください。って」
短い間だったけど、本当にお世話になったから。と思い、
言うとバトラさんは、穏やかな笑みを浮かべると了承してくれた。
「分かりました。それでは、まいりましょう。」
それに僕が素直に頷くと、馬車に案内された。
馬車は王宮の所有物ということもあって、外見こそ黒一色だったが、
とても手の込んだ上品な造りのものだった。そして、中も落ち着いた色合いでまとめられていた。
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