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三題噺「隠れた月」

作者: 白紙 優真
掲載日:2011/04/21


ここはアメリカの中でも一番に貧しい街。

お金はないが、人の繋がりは強く、みんなで協力して生活する街。

だが、この街には太陽も月もなかった。

空は常に厚い雲に覆われて、太陽も月も姿を現さない。幸い昼と夜の区別だけはついた。

50年前までは普通に見ることが出来た太陽と月はそれ以来見ることは出来なかった。


そんな街に少年トーマスは住んでいる。茶色の短髪、それが彼のトレードマークだ。

12歳になったばかりの彼は新聞配達と街の工場で働いている。お金はなく、学校には通えていない。

両親は幼くして亡くし、今は親戚の家で暮らしている。


早朝、彼の忙しい一日は始まる。 古びた煉瓦造りの街並の中を鞄を担ぎ、走っていく。鞄の中には大量の新聞紙。これが彼の朝の仕事だ。 頭に叩き込んだ住所を一件一件訪れては新聞を玄関先に投げる。

一見簡単そうな仕事だが、配達が遅いと怒られることも多々ある。

それを終えると一旦家に戻り、作業服に着替える。 昼、普通なら学校にいるであろう時に彼は街の工場で大人達に混ざって働いている。

作業内容は簡単な物ばかりでまだ小さいとバカにされ、それ以上のことはさせてもらっていない。

工場の仕事が終わると帰宅して夕食を食べて、寝る。これが彼の一日だ。

ほとんど毎日これの繰り返し。少ない給料はすべて居候をしてお世話になっている親戚に渡している。

そんな純粋な彼は生まれてから一度も太陽と月を見たことがなかった。


昼、新聞配達を終えたトーマスはいつものように工場に向かうための支度に取り掛かった。

親戚の家にお世話になっている身分なので文句は言えないが、トーマスにも部屋は与えられていた。

一見それは物置のように見え、汚くかび臭い部屋だが、トーマスはそれでも満足していた。

狭い部屋の天井から吊り下げられているロープに掛けられた作業服を手早く取ると着替えを始める。

数分で着替え終わり、また数分で昼食を食べ終えた。

それから自転車を使い、工場へと向かう。 秋も過ぎ去り、本格的な冬を迎えようとしている寒さの中をトーマスは手が凍る思いで出駆け抜けた。

工場では様々な製品に使われる部品類を作る下請け業者の様なことをしている。中は油と汗の臭いが蔓延していた。

もうその悪臭にも慣れてしまい、表情ひとつ変えずに入り口を通った。

「お疲れ様です」と一声掛けるのがトーマスの日課。だが、いつも返事は変えってこない。

みんなトーマスのことを嫌っているのだ。

居候している親戚のおじさんがここの工場長で食費ぐらい自分で稼げと言われ、働かせてもらっている。 まだ小さいので仕事の覚えも遅いなどの理由もあってか工場の中でトーマスは偉く嫌われていた。

家でも職場でも彼の居場所はなかった。


だが、彼にも幸せな時がある。

街で一番目立つ時計塔、そこで働くおじいさんの話を聞くために仕事終わりにトーマスは時計塔に通っていた。

おじいさんの話はまるで子守唄のようにゆったりと落ち着いて聞けたと思ったら、急に雲行きが怪しくなり、ハラハラドキドキのアクションになるなど、飽きさせない工夫があり、とにかく面白かった。

「昨日は何の話を聞かせてやったかの?」

70代後半のおじいさんは白髪頭から繋がってるかの如く真っ白なあごひげも蓄えている。

「昨日は国境にある滝の話だったよ」

いつ聞いても飽きないおじいさんの話にトーマスは期待を膨らまして目を輝かせてた。

「ん〜そうか……、じゃあ今日はのぉ、取って置きの話をしてやろうかの」

その言葉にトーマスの期待は更に膨れ上がった。

時計塔の中で木箱に座り向き合っている彼ら。

トーマスは期待の余り、おじいさんの方向に無意識に体を乗り出した。

「取って置きじゃからな」 おじいさんは念を押すように言った。間をとってトーマスの期待を更に膨らませる気なのだろう。

更にトーマスはおじいさんに詰め寄った。

「ほっほ、近すぎてしゃべれんわい」

あごひげを撫でつけながら笑う。

トーマスは少し後ろに下がりおじいさんの声に耳を傾けた。

「今から話すことはの、ほんとは言ってはいけんことなんじゃ」

トーマスは黙って頷いた。

「よぉく聞いとれ……今の空は何色をしておる?」

「え…灰色でしょ?」

「そうじゃな、灰色をしておる。でもあれは雲といってな、本当の空ではないんじゃ」

「えっ!?」

おじいさんの話はいつもと違い、なぜか真剣な目で僕を見ていた。

「雲の奥には本当の空がある。……それはな青色をしておるんじゃよ。それだけじゃあない。あの雲の奥には太陽と月ってのもあるんじゃ……」

「たいよう…つき?」

「そうじゃ、昔はそういうのがあったんじゃ。太陽はの真っ赤に燃える球でな、それは明るく、昼にしか顔を出さない。夜になるとバトンタッチをして月と交代するんじゃよ。月はの黄色くて、いくつもの形に姿をかえるんじゃ」

うん、うんとトーマスは頷き、話の続きを急がせた。

「太陽も月も丸くてのどっちも光っておった。太陽は炎の塊みたいでの、朝の明るさは太陽のお陰なんじゃよ、月はの表明がでこぼことしておって、三日月、半月、満月とたくさんの形を持っとった。今見たいに曇り空の日以外は常に空の主役じゃったよ………。」

おじいさんはそこで少し間を溜めてからまた口を開いた。

「つい50程前からじゃ…戦争が起きての何万人もの兵士が送り込まれた時からじゃ、空がずっと晴れなくなったのは……」

おじいさんは悲しい顔をしていた。

遠くを見つめ、うっすらと目の端に涙を浮かべている。

「それから今日まで空が晴れたことは一度もないんじゃ。……お前は見てみたいか?太陽と月を……」

「見てみたい!空が青色だなんて知らなかった。太陽と月のことも初めて知ったよ」

トーマスの瞳はギラギラと輝いていた。

その奥には太陽のように燃える好奇心があり、瞳は月の様な輝きを放っていた。

「そうか……やはりな…血は争えんの」

その言葉の意味を彼は理解出来なかった。だが、太陽と月の魅力でそんなことは彼にとってどうでもよくなっていた。

「今日はこれで終わりじゃ、暗いからの気をつけて帰れよ」

おじいさんは笑顔で手を振ってきた。

「うん……、分かった。また明日」

まだ話を聞きたかったが、彼は我慢しておじいさんに手を振り返した。

時計塔から出て、トーマスは家路に着いた。


彼は家に帰った後も眠れなかった。

狭い借り部屋の大半のスペースを占拠してしまう敷布団に潜ったのだが、なかなか眠れなかった。どうしてもおじいさんの話が頭の中をグルグルと回って睡魔を突き放してしまう。

今は見れない太陽と月。あの灰色の曇天の向こうにあるというそれ、そんな話を聞かされたら、興味が湧かない方が不思議だ。

今すぐに見に行きたいとトーマスの中で衝動が騒いでいる。

「…寝てられるかよ」

トーマスは跳ね起きた。 彼の我慢は限界だったのだろう。衝動には勝てなかった。

居候の身なのだが、そんなことは忘れて、彼は家を飛び出した。

どこに行けばいいかもわからなかった。

だが、この衝動は抑えられず、ついに走り出してしまう。

どこに行けばあの雲の向こうに行けるかわからない。

まずは、この街で一番高いところへ………。

淡い望を賭けて、彼は時計塔へと向かった。

そこに行っても太陽と月は見れないことは分かっていたが、おじいさんから何か聞き出せると思ったのだ。

ふと見上げた空は灰色だった。だが、その奥に何か光る物が見えたような気がした。


〈終〉


早めに長編の大作を投稿しようと考えているので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 厳しいことをいえば、話がベタすぎるかもしれません。 あと、文章の書き方が全体的におかしいです(段落・改行・「。」)など。 長編頑張ってください
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