元ホストと悪役令嬢/元ホストとヒロイン
ごきげんよう
元NO.1ホストの俺が転生したら悪役令嬢だった。「いや、なんでだよ!」転生させられた理由はまさかの「悪役令嬢杯」でNo.1になるため?!元ホストによる、前代未聞の目指せ!No.1悪役令嬢!
※なお、本人は悪役令嬢の正しい定義を理解していない様子。
第一話 元ホストと悪役令嬢
ベルが鳴り、たいくつな授業が終わった。授業なんて受けたのは、何年ぶりだろうか。この世界に来て、早一週間。俺が今まで生きていた、日本とここ、異世界ではさほど対して変わったことはない。ただ一つを除いては。
「シャルロッテさん、ごきげんよう」
後ろから女性の声が聞こえた。振り向くとそこには茶色髪の女性たちが三人ほどいた。
「皆さん。ごきげんよう」
俺は、ニコッとした笑顔を彼女たちに向けた。
そう。彼女たちが名前を呼んだシャルロッテこそ、この俺である。たった一つ異世界へきて変わったこと、それは、性別が変わってしまったことだ!
なぜこんなにお嬢様言葉が上手かといえば、俺がこの異世界に来た一週間前に戻って話すことになる。
―一週間前―
「お嬢様!お嬢様!」
頭に響くような高い声が近くで聞こえた。
「ご気分大丈夫ですか?」
目を開けると、知らない天井が見えた。ここはどこだろうか。明らかに俺が借りていたマンションの天井ではなかった。どうやら俺は、どこかの部屋のベッドで横になっているらしい。起き上がろうとすると、急に頭痛がした。
「頭いたっ」
俺がそういうと、一人の女性が俺の顔を覗き込んできた。
「お嬢様!大丈夫ですか?!」
声のする方を向くと、そこには黒い瞳をしたメイド服姿の女性がこちらを心配するような目で見ていた。。
「美人だ」
まるでどこかのアニメの世界からそのまま出てきたみたいだ。俺はその美人メイドから目を離せず黙って見ていると、再びあちらから声をかけられた。
「あ、あの?お嬢様?」
鼓動が早くなっているのを感じる。美人を前にするとこれほどまでにも緊張するものなのだろうか。
俺は、体を起こして姫よりも低い姿勢になろうと一度床に立ち上がった。しかしなんということだろうか。目の前にいる彼女の方が俺よりもhるかに背が高く、俺は、彼女を見上げていた。
(この子、身長高すぎないか!?俺でも百八十六センチあるんだぞ?)
「あ、あの?気分がすぐれませんか?」
「こんな格好で失礼しました。姫。どこ卓の姫ですか?オレが送ってあげますよ」
(あれ?俺ってこんな声だったか?)
まだ寝ぼけているのだろうか。俺が彼女の手を取ったその瞬間、ベッド横にあるベランダから急に風が吹き込み、誰かの銀髪がなびいた。一体誰の髪だろうか。ホスト時代、ずっと金髪でいた俺は、常にブリーチをしていた。そのせいか、髪の毛は常に痛んでいたが、それに比べてこの銀髪はブリーチをしているにも関わらず、痛までおらず、むしろトリートメント終わりかのような艶が出ていた。一体誰の髪の毛だろうか。銀髪の髪の毛の先にいる人物を辿っていくと、どうやらそれは、俺の体に続いているようだった。
(ん?俺の体に続いてる?!)
俺は、美人メイドの手を放し、部屋にあった鏡の前まで急いだ。するとそこには、銀髪に青い瞳の少女が映っていた。
「誰だ・・・お前は!」
俺は、鏡に映る自分の顔をつねってみたが、しっかりと痛みを感じた。どうやらこれは夢ではないらしい。
俺は元々日本という国でホストをしていた。顔こそ完璧なイケメンというわけではなかったが、姉がいたため女性の接し方が上手だったらしく、俺が働いていたホストクラブでは、ナンバーワンだった。たしか、あの日は、地元の友達と久しぶりに飲んでいたはずだ。しかし、途中から記憶が無く、気づいた時には、ここのベッドに横になっていた。
それにしても、頭が痛い。どうやら久しぶりに飲みすぎたようだ。俺は先ほどまで寝ていたベッドへ視線を向けた。すると、再び風が吹き俺の髪の毛を揺らした。心地のいい風だ。俺は、ベランダがある大きな窓の方へ向かった。太陽の光で反射して外の様子が見えなかった。少しばかり開いていた窓を全開に開け、ベランダに出た。すると、そこには―
知らない光景が広がっていた。
俺は前かがみになりながら眺めた。ここは、どこかの丘の上なのだろうか。丘の下にいくつもの家や建物があったが、さらにその先には、海だろうか。それとも湖だろうか。太陽の光で反射して光っている水面がキラキラと見えた。東京にずっと住んでいた俺にとって、それはとても新鮮だった。
「誰か!急いでお医者様を!」
先程の美人メイドが大きい声を出していた。
「お嬢様?誰のことだ?」
すると、彼女はまっすぐに俺に目を向けた。明らかに「お前だよ!」と言っているようだった。俺はそこでようやく一つの答えを導き出した。そう。それは―
「俺って女装でも結構いけるんじゃね?!」
すると隣に居た美人メイドが間髪入れずに口を開いた。
「何をおっしゃっているのですか?お嬢様は女性ですよ?女装ではありません」
「え?そうなの?」
「もう、お嬢様が頭のねじをどこかに落としてきてしまったようなので、探しに行ってきます」
「ド直球すぎる悪口!もっとこう、変化球で悪口とかは言うもんじゃないのかい?お嬢さん」
「いいえ。それですと、お嬢様には伝わらないようなのでしっかりと申し上げなければ」
(この子、もしかして今流行ってるフレネミーとかいうやつじゃない?)
※フレネミーとは、現在の日本で若者を中心に流行っている言葉であり、友達の顔をしながら、悪口を言うような人のことである。
これが女装ではなく、俺が本当に女性になってしまったのだとすると―
俺はもう一度鏡の前に立ち、今度は顔ではなく、視線を少し下に下げた。
「デカっ」
ボソッと俺が言うとその瞬間に右頬に痛みが走った。右頬を抑えながら、痛みの原因を探ると、先程の美人メイドが肩を上げ下げしながらこちらを睨むように見ていた。
それで俺は、この人に今殴られたんだと悟った。
「な、なにするんだよ!お、嬢様だぞ?!」
俺のその言葉にメイドはすぐに頭を下げた。
「お嬢様の頭のねじがそこに浮いているように見えまして」
「ねじが浮いてるわけないだろ!というか、さっき探しに行ってくるって言ってたよな?」
「はい。けれど、なかったので戻ってきました。それと、あるお方にお嬢様が目を覚まされてと伝えてきました」
「あるお方?」
ドアの向こう側から足音が徐々に音を大きくしながらこちらに近づいてきた。
「シャルロッテ!大丈夫か?」
勢いよくドアが開くと同時に声の主は俺のところに駆け寄ってきた。
「えっと、うん」
そこには、俺と同じ銀髪の青い瞳で可愛い系の顔をした青年がいた。今までに見たことのないレベルの顔面偏差値だ。
俺よりも年下だろうか。この顔ならホストで働けばすぐにでもナンバー五に入れるだろう。
(いや、そんなことよりも、この子誰だ?友達か?)
「その、どちら様ですか?」
俺がそう言った途端、青年は崩れ落ちた。
「ま、まさか、僕のことを覚えてないのかい?シャルロッテ」
「シャルロッテ?えっと、それはどなたですか?」
すると、その青年はさらに驚いてしまった。
「そ、そんな、、、医者はまだ来ないのか?大丈夫だからね。僕がシャルのことを守ってあげるから」
「あ、ありがとうございます?」
会話の内容からして、俺は一つの答えを導き出した。伊達にホストを何年もやっていたわけではない。会話を聞けば、この二人がどのような関係なのかすぐにわかるものだ。
ずばり!この青年は俺が乗り移ってしまった、この女の子のことが好きなのだろう。おそらくは恋人ってところだ。しかし、そんな大事な人の中身が俺だと知ったら―
「消されるのでは?!」
(中身が俺だとバレなければいい話だ)
「絶対にバレないように生き延びてみせる!」
「シャル?シャル?!その大丈夫かい?いつもと違って変だけど」
「な、何でもねぇよ!じゃなくて、何でもないですわ!」
既に死亡フラグが立ちすぎている。まずはこの口調をどうにかしなければ。
そんなことを考えていると、再びドアをノックする音が聞こえた。どうやら医者が到着したらしい。
「先生。どうだ?シャルは病気なのか?」
先程の青年が医者にしがみつくように聞いていた。
「頭打ったことによる軽い記憶喪失ですね。今日一日安静にしていれば頭痛は治ると思います」
この医者が言う通り、確かに今日一日安静にしていたら治るだろう。なぜならばこれは、二日酔いだから。
「そうですか。病気じゃなくてよかった。ありがとう」
青年は医者にそういうと俺の方に視線を向けた。
「シャル。記憶が曖昧でも、僕がシャルを思う気持ちは変わらないからね。記憶が戻るまで僕が支えてあげるからね」
青年はそう言って微笑んだ。
「ありがとな。じゃなくて、ありがとうですわ」
この女の子はとても大事にされているらしい。俺がジーンとしていると、後ろから咳払いをするのが聞こえた。
「ルシアン様。今日中の書類が山積みかと」
声のする方に視線を向けると、そこには、黒い服を着た五十代くらいの男性が、ドア付近で立っていた。まるで内勤みたいだ。
「仕方ない。メイドたち、シャルをよろしく頼むよ。何かあったらすぐに僕に知らせてくれ」
「招致しました。ルシアン様」
メイドたちは声を揃えてそう言った。
「ルシアン様?」
「シャル!もしかして思い出したのか?」
「あ、ううん。何でもない」
俺がそういうと、青年は肩を降ろして部屋を去って行ってしまった。まるで、悲しんでいる子犬を見ている気分で申し訳なくなった。
「お嬢様。ルシアン様のことも覚えていないのですか?」
美人メイドがどこか悲し気な表情で聞いて来た。
「そうみたい」
俺がそういうと、親切にも俺自身のこと、俺の身の回りのことを説明してくれた。
「つまりまとめると、俺じゃなくて、わたくしは、侯爵令嬢なの?」
「おっしゃる通りでございます。お嬢様は、この国の第一王子、クロード殿下の婚約者でございます。そして、先程いらっしゃった、ルシアン様は、シャルロッテ様のお兄様でございます」
「え!!!」
(あいつが俺の兄貴?!恋人か何かだと思ってたけど、もしかしてあいつ―)
「いい顔してシスコンなのか?!」
すると急に背筋が寒くなった気がした。
その後、俺は自分の頭の整理をしたかったため、メイドたちにも一度部屋から出てもらった。
「では何かありましたら、そちらのベルを鳴らしてください」
美人メイドはそういうと、机の上に置いてあるベルを指差し、部屋から出て行った。
しかし、これからどうするべきだろうか。俺は、ベッドにダイブするような形で横になった。ここは一体どこなのだろうか。なぜ俺は、こんな美少女ナイスボディな子になっているのだろうか。
俺は周りを見渡し、この部屋に俺しかいないことを確認してから、体を起こして服の中を覗こうとした。
ちょっとくらいなら―
「あー!テストテスト。マイクテストなの」
急にどこからか女の子の声が聞こえてきて、俺はベッドから床に転がり落ちた。
「今度は何だ?!」
「あ!あたいの声、聞こえてる感じなの?」
「だ、誰だよ!」
「お!その慌てようっぷりは、さては、お主。服の中を―」
「まだ見ていない!見てないからな」
「ふ~ん。そうなの?」
そういうと、声の主はケラケラと笑っていた。
「それで、誰なんだよ!」
「あたいは、みずが・めめなの!みずがめ座代表の神様なの!めめって呼んでいいの!」
「みずがめ座代表?」
「そうなの。めめは神様なの!」
めめという、神様はとても自慢げにそう話した。どうやらめめによると、この世界には星座ごとに神様が存在しているらしい。しかし神様だかなんだか得体の知れないものに俺は興味がない。
「ではめめ姫に聞きたいんだけど、ここは一体どこなんですかね?」
俺はニコっとした営業スマイルで話した。上手く立ち回ればこのめめとかいう神が、俺を元いた場所に帰してくれるかもしれない。
「あ!そうだったの!ここは、あなたが生きていた惑星の日本とは全く別の世界。異世界なの!」
「異世界?なんですかね?それ?」
「簡単にいうと、あなたは死んだの!それで、あたいがあなたをこの世界に転生させたの!」
「はぁ?!俺死んだの?」
「死んだの!」
「ちなみに、その、死因とかって―」
「急性アルコール中毒なの!」
つまり俺は、お酒のペース配分を間違えて死んだということか。
「元ホストとして情けない」
俺は、ベッドに突っ伏した。
「でも、ここの人たち日本語を喋ってたぞ?俺、美人メイドちゃんと会話できてたし」
「それは、あたいの神様の力で、ここの世界の言語をあなたに習得させておいてあげたの」
きっと今誇らしげな顔をしているのだと感じるくらい自慢げにめめは話した。
「それで、そんな神様が何で俺をこの世界に転生させたんですか?」
「あ!そうだったの!実は今度、神様同士の『悪役令嬢杯』が開催されることが決定したの!」
もう頭の整理が置いつかない。
「えっと?悪役令嬢杯?」
「そうなの!あたいたち神様がそれぞれ自分が選んだ悪役令嬢を一人、招待するの!」
「招待?え、何のために?てか悪役令嬢ってなんだ?」
「もう急にたくさん質問しないで欲しいの!」
(こっちはさっきから、この比にならないくらいのえげつない情報量が頭の中で渋滞してるんだけど)
「えっと、その悪役令嬢?とかいうやつを招待して何するんですか?」
「悪役令嬢ナンバーワンを決めるの!今、いろんな世界に色んな悪役令嬢が転生させられているの!だから、その中で一番を決める戦いが始まったの!」
いわゆる、スポーツなどの戦いで一位を決めるみたいなやつだろうか。
「そうか。じゃあ俺は関係ないみたいだしその悪役令嬢ってヤツのところに向かってください」
俺は日本で死んだようだし、めめとかいう神様がせっかく与えてくれた二度目の人生を謳歌することにしよう。
「だから!あたいが転生させた悪役令嬢があなたなの!」
俺は、言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。
「え!俺、悪役令嬢なの?!」
めめによると、悪役令嬢はこの世界のヒロインである少女に対して嫌がらせをしたり、ヒロインの行動の邪魔をしたりするモブキャラらしい。
「俺がモブキャラ?!」
「そこ大事なの?」
「大事だよ。転生してモブかよ。しかも説明聞いた感じ、悪役令嬢ってヒロインの邪魔ばっかする嫌な奴じゃねぇか!」
「そうなの!嫌な奴なの!」
「そんな悪役令嬢のナンバーワンを決めるのか?」
「そうなの!」
「・・・神様って、暇なのか?」
「そ、そんなことないの!ちょっとした大会なの!そこでもし、あなたがナンバーワン悪役令嬢になれたら、あたいの出世に繋がるの!」
「つまり、俺はあんたの出世のために利用されるわけだ?」
「そ、そんなことないの!一位になることが出来たら何でも一つ願いを叶えてあげるの!」
俺はベッドから起き上がり深く腰を落とした。
「その言葉に二言はないな?」
「もちろんなの!」
ナンバーワン悪役令嬢か。名前は気に食わないが、悪くないかもしれない。
「わかった!俺がそのナンバーワン悪役令嬢になってやる」
「嬉しいの!やっぱり、あたいの目に狂いはなかったの!」
「ん?何がだ?」
「あなたが元ナンバーワンホストだって、あたいは知ってるの!それで、あなたを悪役令嬢に選んだの!」
「それって、俺が死ぬ前から俺に目つけてたわけじゃ―」
「あ、そろそろ行かなきゃいけないの!また声かけるの!」
そういうと、どこか慌てている様子でめめ声は聞こえなくなった。
「あ!おいこら!」
俺が大きい声を出すと、部屋の外に居た美人メイドが入って来た。
「シャルロッテ様。大丈夫ですか?」
「え?あ、ええ。何でもないわよ」
もう日本へは戻れない。ならばこの世界でも変わらずナンバーワンを目指してやる。今度はホストではなく、悪役令嬢として。しかしナンバーワン悪役令嬢とは一体何をすればナンバーワンになれるのだろうか。
「ねぇ美人メイドちゃん」
俺がそう呼ぶと、美人メイドは姿勢と正したのちに、続けた。
「私は、美人メイドなどではなく、ミレイと申します」
「突然なんだけどミレイは、ナンバーワン悪役令嬢になるにはどうすればいいかわかる?」
俺の質問にミレイは黙ったままだった。考えているのか、それとも質問の意味が理解できなかったのだろうか。
「その、だから―」
俺がもう一度質問をしようとすると、ミレイがようやく口を開いた。
「お嬢様。ご安心ください。いくつお嬢様の頭のねじが取れようともこの私が、全力で回収致します」
どうやら、俺は質問の空いてを間違えたようだった。
そこからは、あっという間に時間が過ぎていった。俺のこの男口調を治すために家庭教師が付けられ、淑女教育とかいうものを徹底的に受けさせられたのだ。
第二話 元ホストとヒロイン
こうしてこの世界に来て一週間後の今、俺は貴族たちが通う、この貴族学院に通っている。
その後も結局、めめと連絡はつかず、ナンバーワン悪役令嬢の道もまだまだ遠いままだ。めめによれば、悪役令嬢とはヒロインに嫌がらせをして、ヒロインの邪魔をするモブキャラ。
「つまり、一番ヒロインの邪魔をした人がナンバーワン悪役令嬢に選ばれるということに違いない!」
そうと決まれば、ヒロインにたくさん嫌がらせをしなくてはいけない。少々心が痛む気がするがこれもまた、ナンバーワンへの試練だろう。しかし―
「肝心のヒロインって誰のことだ?」
考えながら歩いていると、いつの間にか一階の渡り廊下のところまで来ていた。この世界の気候はとても心地が言い。日本でいう、春のような気候が日常的だ。
「シャルロッテ様!聞いてください!」
すると、いつも俺の後にくっついている茶髪三人組が俺のところにやって来た。
「あら、どうしたんですの?」
「昨日殿下とロザリアさんが二人で居るところをわたくし、見かけましたの」
「ロザリア?どなたですか?」
まだここへ来て一週間しか経っていないため、知らない名前が飛びかっている。一刻も早く姫たちの名前を覚えたいところだが、この世界にはスマホが無いため、どの姫とどんな会話をしていたか覚えることが難しい。
「さすが!シャルロッテ様。あんな女など気にしていないと!」
「え、あ、いや。そういう意味じゃ―」
(どうやら女社会というのは、どの世界でも共通らしい)
「噂をすれば来ましたわよ」
皆が見ている方向へ視線を向けると、そこにはピンク髪の少女が一人で歩いているのが目に入った。
「あら、ご一緒する友人の一人もいないだなんてお気の毒ですわ」
俺の近くにいる女子たちがヒソヒソと話し始めた。
すると、急に風が吹き出し、ロザリアと呼ばれている少女が被っていた帽子が、宙に舞いあがった。
「あ!帽子が―」
花柄の可愛らしいその帽子は、俺の前に落ちた。
俺は帽子についた草を振り払い、片方の膝を地面につけた。
「姫。落としましたよ」
俺が帽子を姫に差し出すと、少女は満面の笑みで手をこちらに伸ばしてきた。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。それにしても帽子を被っていない方が、姫のかわいらしいお顔がはっきり見えるのに。もったいないですよ?」
「あ、え?」
少女はキョトンとした目でこちらを見ていた。
「では」
俺がその場から離れようとすると、声を掛けられた。
「あの、お名前を聞いてもいいですか?」
すると、すかさず俺の後ろにいた女子たちが声を大きくした。
「あら、あなたこちらの方のお名前をご存じないの?」
全く。その世界の女性もこんな感じなのだろうか。
「こ~ら。そんなに強い口調だとせっかくの美人な顔が台無しですわよ?」
俺は覗き込むようにして女子たちに声をかけた。
「シャル様//」
俺は、帽子を持った少女の方を向いた。
「挨拶が遅れましたわ。わたくしは、シャルロッテです」
「えっと、あのロザリアと申します」
「あらあなた。シャルロッテ様に挨拶も十分にできないの?」
クスクス笑う声が辺りに響いた。
「気にしないでちょうだい。皆、あなたと仲良くしたいだけなのよ」
俺がそういうと、ホッとしたかのようにロザリアは微笑んだ。
「ところで、噂で聞いたのですがシャルロッテ様は、クロード殿下の婚約者様なのですか?」
「え?わたくし婚約していますの?」
俺がそういうと、その場にいた皆が声を揃えた。
「え?」
「え?」
俺はついオウム返しをしてしまった。
―俺は婚約しているのか?―
すぐさま辺りを見渡した。俺の近くには、先日、俺専属のメイドとなった、美人メイドこと、ミレイがいてくれる。何かわからないことがあった時には、ミレイに聞くのが手っ取り早い。しかし、今日はミレイの姿がどこにも見えない。
「ミレイちゃん!」
俺は大きい声で呼ぶことにした。婚約は一大事だ。なぜならシャルロッテの中身は男の俺だからだ。男と生涯を一緒に過ごすだなんて耐えられない!
「お嬢様」
気づくとミレイが俺の後ろに立っていた。
「お嬢様。大きな声を出すのはおやめください。はしたないですよ?」
「だって、ミレイがどこにいるかわからなかったんだもん」
「お嬢様。口調がもとに戻ってしまっていますよ」
そういうと、ミレイは小さくため息をついて続けた。
「お嬢様、周りをご覧ください」
「え?」
俺は、ミレイに言われた通りに見ると、今まで話していたお嬢様たちがポカンと口を開けた状態でこちらを見ていた。
「あ・・・。」
やってしまった。どうやらお嬢様は大きい声を出すものではないらしい。
「それで、お嬢様どうされましたか?」
「一大事ですわよ!わたくしって、殿下って人と婚約してるんですの?」
俺は、ミレイの肩を掴んだ。
「お嬢様。そのことなら一週間前にも説明しましたよ?」
「え?そうだっけ?」
「つまりまとめると、俺じゃなくて、わたくしは、侯爵令嬢なの?」
「おっしゃる通りでございます。お嬢様は、この国の第一王子、クロード殿下の婚約者でございます。そして、先程いらっしゃった、ルシアン様は、シャルロッテ様のお兄様でございます」
「ほら。お嬢様に説明していましたでしょう?」
ミレイの言う通り、たしかに説明はされていたが、その時は婚約よりも、そのルシアンとかいう青年が俺の兄貴っていうことに驚きが隠せなかった。それに、一週間前まではミレイ以外のメイドはなぜか俺にびくびくした様子で、俺を避けていたようだったが、今では皆が俺を避けずに会話してくれるまでの関係になった。それに比べてミレイは最初からずっとこんな感じの毒舌キャラのままだ。
「そ、そうでしたわ!クロード殿下の婚約者ですわ」
俺は、ポカンとしている皆の方に向かってにそう告げた。
すると、ロザリアは俺の手を取った。
「こんなところでお会いできるだなんて!嬉しいです!シャルロッテ様」
「ちょっと!身分をわきまえなさい。そんな軽々しく触っていい相手ではないのよ!」
俺の後ろにいた女子たちがロザリアに突っかかった。仕事柄、このような光景を何度も見てきたがおそらく彼女たちも、俺の婚約者であるクロードとかいう殿下に惚れているんだろう。
「わたくしは構いませんよ。ロザリアさん、これからよろしくですわ」
俺は、そういうとロザリアの頭に手を置いた。すると、なぜかロザリアは頬を赤らめていた。
「は、はい//」
「ところで、ここで何をしていたのですか?」
俺が質問をするとロザリアは少し困った顔をした。
「実は、その―」
そこまでいうと、なぜかロザリアは口を閉ざしてしまった。
「解決は出来なくとも、悩むことくらい一緒にさせてくださいまし」
俺はそういうと、右手をロザリアに向かって差し出した。
「でも、関係のないシャルロッテ様を巻き込んでしまうかもしれなくて」
「どうせなら盛大に巻き込んでくださいな!」
俺はニコっと微笑みながらロザリアの手を掴んだ。すると、驚いた様子でロザリアは瞳をまん丸くしていた。
「それで、何をそんなに深刻に悩んでいますの?」
「実は、昨日図書室で書物をいくつか借りたのですが、それがすべて無くなってしまって」
「どこかで無くしたの?」
「いえ。自分の机の上に置いておいたのですが、気づいたら書物が無くなってしまっていて」
「誰かが持ってってしまったのね。心当たりはあるのかしら?」
「その、書物が無くなった代わりにこれが机の上に置いてありまして」
そういうと、ロザリアはポケットの中から一枚の紙きれを取り出した。そこには―
「書物を返して欲しいなら明日の正午に、一階の渡り廊下に来て。ただし一人で来なさい?誰かに言ったら、書物は返さないわ」
「何よこれ。脅迫じゃないの」
「誰の仕業かはわからないのですが、きっとここに一人でいれば書物を返してくれるだろうと思ったんです」
「それで、わたくしに言うのをためらっていたのね」
俺の言葉にロザリアは静かにうなずいた。
「とりあえずこの犯人はロザリア嬢に何かしらコンタクトを取ってくるはずだから、それまで様子をみましょう」
「わかりました。シャルロッテ様が一緒にいてくださって、とっても心強いです」
すると急に背後から声が聞こえた。
「あらロザリアさん?何が心強いの?」
「それに一人で来いって言ったでしょう?書物がどうなってもいいの?」
「ごきげんよう」
俺は声がする方を振り向きながら、営業スマイルを顔に貼り付けて丁寧に挨拶をした。そこには、二人組の女性が腕組みをしながらロザリアのことを見ていた。
「誰よ、あんた!」
一人の女性が俺の顔を確認するや否や、焦ったような表情をした。
「ご、ごきげんよう。シャルロッテ様。シャルロッテ様がどうしてここへ?」
「なぜといわれても、たまたまここを通りかかっただけですわ。ところで可愛らしいお二人の姫たちはここで何をされているのですか?」
「えっと、その―」
「ここにいては、その可愛らしいお顔が日焼けしてしまいますわよ?せっかく可愛いいのに勿体ないですわね」
「そ、そんな、可愛いなど」
「なぜ自分に自信がないのですか?自信を持つことで更に女性は美しくなれるのですよ?」
「自信ですか?」
「はい。でも、自信を持つためには、まずは日ごろの行動や仕草、言葉遣いが大事になってきますわね」
俺がそういうと、二人組は顔を見合って気まずそうにしていた。
(俺も言えるような立場ではないが)
「ところで、お二人はこちらで何をされていたんですか?もしかしてわたくしのお友達のロザリア嬢に用があったのですか?」
「お友達?ロザリアさんとお友達なんですか?」
「ええ。先程仲良くなったんですの」
ロザリアの方を見ると、パアッと明るい表情をしていた。
「それで何をしにここへ?」
「あ、その。これ、ロザリアさんの書物を返しにきました」
そういうと、二人組は書物をロザリアに渡した。
「す、すみませんでした!」
そういうと、二人組は背を向けた。
「ちょっとお待ちなさい」
俺はそんな二人を呼び止めた。すると、二人は固まったまま振り向こうとしなかった。しかたなく、俺は二人の顔が見えるように回り込んで続けた。
「謝罪ができるのは素晴らしいことですわ。素敵な姫ですわね」
俺はそういうと、彼女たちの頭に手を乗せた。すると、二人はなにやら奇声を発しながら走って行ってしまった。
何かまずいことをしただろうか。
「あの!シャルロッテ様!」
「ロザリア嬢、どうしましたか?」
「先程はありがとうございました!無事書物も返してもらえました」
「それは良かったです!また何かあったら一人で抱えずに誰かに相談するのですよ?」
俺はそう言ってロザリアに背を向けた。
(久々の営業スマイルは疲れるものだ。おまけに慣れないお嬢様言葉まで使わないといけないなんて。勘弁してほしい)
「あの!シャルロッテ様!」
ロザリアが再び俺のことを呼び止めた。
「どうしましたか?」
(もう勘弁してくれ。今日は疲れたんだ)
そう思いながらも、営業スマイルで答えた。
「あの、その。私たちって友達なんでしょうか?」
「え?」
言われてみれば、俺が勝手にロザリアのことを友達と言ってしまった。それに対して怒っているのだろうか。
「嫌だったら―」
「嬉しかったです!」
ロザリア嬢は食い気味にそう言って近づいて来た。
「これからも、シャルロッテ様と一緒にいてもいいでしょうか?」
ロザリアは目をキラキラとさせてそう言ってきた。
(俺としては、ナンバーワン悪役令嬢としてヒロインの邪魔をしたいだけだから、ロザリア嬢と仲良くする分には特に問題ないだろう)
そう思い、否定はしなかった。
しかし、この世界のヒロインにはいつ出会えるのだろうか。
この時の俺は、ロザリアである彼女がこの世界のヒロインであるとまだ知らなかった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
異世界っていうのも中々悪くないもんだな。
次回は殿下と会えるって?また見に来てくれよな!
では、ごきげんよう!




