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桜、それにまつわる噂

私は小説が好きだ。

全く興味ない人からすれば何万もの数の文字が並んだ絵も何も無いつまらない本、と思われるかもしれない。

だが、私からすればそれがいい。絵があると読者はある程度の光景を頭に浮かばせるだろう。ただ小説は、絵がないということはある程度の筆者による結末はあっても、読者人それぞれの解釈にたどり着く。

他にも好きな理由は沢山ある。

小説によって、必ず脳に焼き付くフレーズがあるからだ。

太宰治の書いた斜陽の「しくじった。惚れちゃった。」

だとか、夢野久作の書いた猟奇歌の「幽霊のやうにまじめに永久に人を咀ふ事が出来たらばと思ふ」だとか。

特に好きなフレーズは、梶井基次郎の桜の樹の下には の始まりに出てくる「桜の樹の下には屍体したいが埋まっている!」というフレーズ。

簡単に説明すれば 桜があんなにも見事に咲くのは、下に死体が埋まっていて、その養分を吸っているからだ。という風に、「美」と「死」を文学により上手く結びつけている。

始まりから心を掴みにかかってくるこのフレーズがとても好きだ。

だが、このフレーズが好きな理由には別な理由がある。

自分の家の後ろに咲く桜は、明らかに早く咲く。

「梅なんじゃないの?」と思うかもしれないが、花びらの形も、色も、明らかに桜。

そして必ず、夕方5時のチャイムが鳴る頃に華が開き始めると言う。普通の桜なら朝に咲き始めると思うが、その桜だけは夕暮れに染まる時間に咲く。

小さい頃からそこにあるため、ずうっと昔から気になっていた。


ある日、この桜の樹の下には を読んだ時、ふとあの桜を思い出した。

その桜は、さっきも言った通り明らかな早咲きなのに、綺麗に咲くどころか、ほかの桜より色鮮やかに咲く。

もしかして、この桜の下にも×××が埋まっているのかな!?なんて意味の分からないことを思いながら、この話を読んでいた。


今年になって、奇妙なものを見た。その桜はいつも通り早咲きしていたのだが、生えている根元が真っ黒に染まっていた。

なんだ?と思った私は近づいて見てみた。

黒く染まっている訳ではなく、黒色の小さななにかの集合体によって黒く染まっているように見えただけだった。

その集合体の正体はハエやら蚊やら、他にも名前の知らない羽虫だった。

何故ここにこんなにも集まっているのか、私にはわからなかった。

それに加え私は虫がかなり苦手なため、その場から離れ家に帰った。


その日、夕方の空に違和感を感じた。

色がおかしいのだ。

昔から母に「どんな違和感があったとしても、夕日の空がおかしいと感じたら夕方5時のチャイムが鳴る時に必ず窓を閉めなさい。」と何度も言われていたことを思い出し、時計を見た。

4時58分、ギリギリセーフ。

しっかり窓を閉めた。

そういうオカルトは好きなためいつもは好奇心が勝つのだが、今日は恐怖心が勝った。

なぜかは分からないが、とても怖かった。

いつもは鳴いているカラスの声もしない、野良猫の盛った声もしない。

ただ、外を見ると大量の羽虫が飛んでいた。

あまりの量に怖気付いた私は、カーテンも閉め、スマホを開いた。

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