病室
真夜中の病院は、ひっそりとしていた。
廊下を歩く音がやけに高く響き、紀子はゆっくりと歩いた。
あれから――。
ボーズを殴った加持野は、そのまま逃げ去った。
ボーズは救急車で運ばれ、搬送先の病院で手当を受けた。
幸いボーズのケガは大事には至らなかったが、念のため検査が必要と言うことで、検査入院をすることになった。
紀子は、そっと病室に入った。
四人部屋だが、ボーズしか入っていなかった。
頭と腕を包帯で巻かれ、顔は絆創膏だらけのボーズがベッドの上に横たわっていた。
見た目は痛々しいが、ボーズは元気だった。
「痛む?」
「少しね」
紀子はベッドの側に置いてあったイスに座ると、ボーズの前で頭を下げた。
「ごめんね。本当に、ごめんね。ボーズをこんな酷いめにあわせちゃって」
「何、謝っているんだよ?加持野がやったんだろ。紀子は、何も悪くない」
紀子が顔を上げると、そこには怒った表情をしたボーズがいた。
「紀子に、そんな風に謝られたら俺、傷つく」
「ボーズ」
「まいったな。まさか、殴ってくるとは思わなかった!油断していたよ。俺、かっこわり」
ボーズは、笑いながら言った。
その時カーテンが開き、ボーズは顔を上げた。
その顔は、とたんに嫌そうな顔になった。
そこには、ボーズの母親が立っていた。
紀子は、慌てて立ち上がった。
「あら、あの時のお嬢さん!」
母親は、紀子のことを覚えていた。
紀子は、頭を下げた。
「お嬢さんは、怪我はなかった?」
「私は、大丈夫です」
「よかったわ!それを聞いて、安心したわ。全く、一方的に殴られたんだって?今、先生から聞いたわ。男のくせに、だらしない!ごめんなさいね」
「おい!」
その声で初めて母親は、ボーズの方を向いた。
「あら、こんなとこで寝てたの?」
「寝てたのって、あのな……ちっとは、心配しろよ」
「それだけしゃべれるなら、大丈夫ね」
ボーズは、大きくため息をついた。
「着替えとか、もってきた?」
母親はベッドの上に、着替えが入ったバッグをドスンと置いた。
「持ってきてもらって、何よその態度!」
ボーズは口をぽかんとあけて、母親をみつめた。
母親は、紀子の方に向き直った。
「ごめんなさいね。我がままなバカ息子で」
「はぁ……」
「息子に気に入らないところがあったら、遠慮しないで私になんでも言ってちょうだい。さてと……お嬢さんがいるなら、私は邪魔ね」
「そんな」
「いいのよ、ふたりきりでいたいでしょ。それに……」
母親は、ボーズをじろりと見た。
「早く帰れって、顔をしているわ」
「わかっているなら、早く帰れよ……いてっ!」
母親は、ボーズの頭をたたいた。
「おおげさね!じゃあ、後はよろしくね。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
母親が病室から出て行くと、紀子はバッグから着替えやタオルを出し、ベッドの側の棚の中に入れていた。
「いいよ、そんなことしなくても。明日、親にやらせるから」
「お母さんに任された以上、ちゃんと責任もってやらないと」
「本当に、責任感が強いんだから」
ボーズは、呆れたように言った。
整理が終わった紀子は、イスに座った。
「お母さん、楽しいかたね」
「少し、おせっかいなんだよ」
「なんだか、ボーズと友達みたい」
「友達ぃ~?やめてくれよ!」




