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【短編版】坊主転生のマントラ無双 ~現代日本で徳を積んでいた真言宗(密教)の僧侶、異世界に転生して対魔法使いレジスタンスに加入したら、一国を救うほどの大僧侶となって伝説になる~

作者: 岡崎 剛柔

 マリア・ベアトリクスは森の中をひた走っていた。


 燃えるような赤髪を風に揺らし、背中には百六十センチの自身の身長を上回る大剣を担いでいる。


 明らかに成人した大人の男でも持てない重さの長剣だったが、【怪力無双】の【異能(スキル)】を持つ十七歳のマリアには背中の大剣など(ほうき)を担いでいるに等しかった。


 そんなマリアが森の中を走っているのは、魔族の生き残りが山間の村を襲っているという情報を聞いたからだ。


「おのれ、魔族の生き残りどもめ! クウシンさまに王を倒されてもまだ悪事を働くか!」


 マリアは走りながら悪態をつき、目的の村へと向かって必死に両足を動かしていく。


 本当は神の御使いであるクウシンと最寄りの街へ復興の様子を視察に来たのだが、山間の村が襲われるという情報を聞いてからはクウシンを置いて助けに来てしまった。


 無理もない。


 元レジスタンスの一員であるマリアにとって、魔族などこの世から一人残らず根絶やしにしなければならない悪の象徴そのものだったからだ。


 レムリア大陸の最西端にあるここセレスティア王国は、かつて魔族に蹂躙された国だった。


 魔族。


 それは魔法を使う貴族という意味であり、元は隣国のマリーシアで名を馳せた大傭兵団――『猛虎の団』の傭兵だというのは周知の事実だった。


 魔法とは大昔に存在していた特殊な力の総称であり、その魔法がこの世から消えてからは【異能(スキル)】と呼ばれる力を覚醒する人間が多く現れた。


 怪力、治癒、瞬発、狙撃、指揮など個人の才能と特性を合わさって発現する特殊能力。


 しかし、この魔法とも【異能(スキル)】とも違う力を持つ男が、ある日、突然セレスティア王国に現れたのである。


 男の名前はナガミネ(長峰)クウシン(空心)


 年齢は二十代前半。


 すらりとした慎重に端正な顔立ち。


 綺麗に剃り上げた禿頭は周囲の人間たちの目を引いた。


 そんなクウシンが着ていた服はレムリア大陸の最東端にある島国――ヤマト国に存在する僧侶の服に似ていて、手には自身の身長と同じぐらいの先端に金属の輪がついた棒を持っていた。


 だが、このクウシンはヤマト国の僧侶ではなかった。


 実はニホン(日本)という異世界から来たシンゴンシュウ(真言宗)の僧侶だったのだ。


 そしてクウシンはマントラ(真言)と呼ばれる超常的な力を駆使し、セレスティア王国を蹂躙した魔族たちに抵抗する対魔法使いレジスタンスに加入してくれたのである。


 マリアは今から数か月間のことを思い出す。


 そう、すべてはこのような森の中にある村で始まった。


 マリアは元冒険者であり、冒険者ギルドからの依頼とレジスタンス活動の一環として山に入ったあと、山間部にある村が魔族の襲撃に遭っている光景を目にした。


 そこでマリアは魔族から村を救おうと懸命に闘ったが、そのときに闘った魔族は強力な火属性の魔法を使う魔法使いだったのだ。


 今でこそマリアは当時の魔法使いなど目をつむっても倒せるほどレベルアップしているが、当時のマリアには魔法使いに手も足も出ずに死の瀬戸際まで追いやられた。


 そこに現れたのが、本物の神の御使いであるナガミネ・クウシンである。


 あのときの光景は今でも鮮明に思い出せる。


「オン・アビラウンケン・ソワカ」


 不思議な呪文を唱え、魔法使いの火魔法を逆に操り返して撃退した姿を。


 それからマリアはクウシンに怪我を治してもらい、対魔法使いレジスタンス――【反逆の風】にクウシンを誘った。


 クウシンならば自分たちの悲願である、蹂躙されたセレスティア王国を魔族の支配から解き放ってくれると確信したからだ。


 マリアの予想は当たっていた。


【反逆の風】に加入してくれたクウシンは何度もレジスタンスの危機を救ってくれたばかりか、どんどん魔法使いを倒していき、最終的には〈竜神山〉の龍人族の姫にまで認められた。


 それだけではない。


 各地方のレジスタンスたちがクウシンの活躍を耳にして、自分たちも一緒に闘いたいと申し出てきたのだ。


 やがて規模が大きくなった【反逆の風】は、クウシンをリーダーにした【光明(こうみょう)護法衆(ごほうしゅう)】という一大勢力へと変わり、龍人族の協力もあって少数精鋭で王都へと乗り込んだ。


 そして魔族の王である魔王を見事に討ち倒したのである。


 しかし、魔王が倒されたあとも生き残った魔族たちは国内に散らばって悪逆非道な真似をしている。


 やがてマリアは目的地へと到着した。


「――――ッ!」


 そこでマリアは目撃した。


 村の中には怯え切った村人たちと、徒党を組んでいる魔族と魔兵たちがいた。


 以前の魔族や魔兵たちは貴族のような高級な服装や鎧を着ていたが、魔王が討ち取られてからはボロボロな山賊のような格好をしている。


 それでも魔族たちは魔法を発動させる触媒の魔法杖を持ち、魔族の部下である魔兵たちもボロボロだが鎧と長剣を携えていた。


 魔族と魔兵の数は総勢二十人。


 その二十人の魔族と魔兵たちは一人の男と対峙していた。


「……嘘。どうしてクウシンさまがここに?」


 マリアは驚きで瞬きを忘れた。


 平然と魔族たちと対峙していた男は、今やセレスティア王国を救った英雄である大僧侶となったナガミネ・クウシンその人だった。


 直後、マリアは理解する。


(まさか、あとから来たのに途中でわたしを追い越したの?)


 そうとしか考えられなかった。


 クウシンはマリアが山間の村が魔族に襲われていると聞いて助けに行ったことを知ると、マントラの力でマリアを追いかけてきたのだ。


 しかし、マントラの一つである移動系の力が速すぎて途中でマリアを軽く追い越したのだろう。


「お前は神の御使い!」


「よくも我らが王を亡き者にしてくれたな!」


「こ、殺してやる!」


 全身から強烈な殺気を放出させた魔族と魔兵たち。


 その中で最初に動いたのは魔兵たちだった。


 魔兵は魔法が使えないので、長剣や斧や槍などを使ってクウシンに襲い掛かる。


 一方、魔族たち一斉に火魔法、地魔法、風魔法、水魔法をクウシンに放つ。


 まさに絶体絶命のピンチ……と思うのはクウシンの実力を知らない人間だけだ。


 そして、魔王との最終決戦まで共にしたマリアは知っている。


「オン・アビラウンケン・ソワカ」


 クウシンはダイニチニョライ(大日如来)のマントラを唱えて全身に聖なる力をまとわせると、続いて強力な光弾を放つコウミョウシンゴン(光明真言)を唱えた。


「オン・アボキャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウンッ!」


 一息で唱えたコウミョウシンゴン(光明真言)のあと、クウシンの全身から物理的な衝撃波を持った何十もの光弾が放たれた。


 ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!

 

 まるで何十発もの破城槌(はじょうつい)のような威力を持った光弾を受け、魔族や魔兵たちは数メートルも吹き飛ばされて昏倒した。


「おや、マリアさん。遅かったですね」


 あっという間に二十人もの魔族や魔兵たちを倒したクウシンは、マリアに顔を向けて蒼天のように微笑む。


「クウシンさま……わたしを追い越すのなら一声かけてくださればよかったのに」


「おや? 私に内緒でこの村へ向かったあなたにだけは言われたくありませんね」


「うぐ……」


 言葉を詰まらせたマリアに、クウシンは「申し訳ない」と軽く頭を下げる。


「別に(とが)めているわけではありません。むしろその正義感こそあなたの長所です。これからも大事にしてください」


 そう言われるとマリアは何も言えなくなってしまった。


 それに正義感の塊なのはクウシンのほうである。


 異世界からこの世界へとやってきて、何もない状態から一国を救ったほどの英雄であり大僧侶となったのだから。


「さて、マリアさん。どうやら魔族の生き残りはこうした片田舎に集中しているようです。ここは近辺の村を見回って魔族の生き残りがいないか確かめましょう」


 マリアはこの人は変わらないなと思った。


 今やセレスティア王国では知らない者はいないぐらいになったのに、こうして世のため人のために率先して動こうとするのは初めて出会ったときと同じである。


(わたしもこの人のようになるんだ。わたしたちの国を救ってくれたクウシンさまのような立派な人間に)


 マリアはクウシンに向かって満面の笑みで答えた。


「はい!」



〈了〉

読んでいただき本当にありがとうございます。


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興味がありましたら一読していただけると嬉しいです m(__)m

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