第90話 仮面の下の素顔
「ふーん。
改めて見るとたしかに綺麗ね」
そう言うと
黒いドレスの女はまじまじと女を観察した。
「それは皮肉かしら?
貴方のような若い方からすれば、
私なんてオバサンでしょう?」
女がふたたびカップに口をつけた。
黒いドレスの女もコーヒーを一口啜った。
「そうね。
あなたの言う通り
若さも美にとってかけがえのないモノの1つ。
若く輝いている時期は一瞬、
その儚さ故に
若さは誰もが永遠に手にしておきたいと願う。
でもそれは叶わぬ夢。
だから女は同時に若さを憎み妬む。
自分の持っていないモノを
他人が持っていることに人は嫉妬する。
嫉妬ほど醜い感情はないのに。
でも若さが美のすべてではない。
人には年齢に見合った美しさがあるの。
若い人が背伸びをしてもそれは滑稽なだけ。
その逆も然り。
それでも時の流れは歳を刻む。
若い頃の過ちは若気の至りで済むけれど、
歳を重ねてからの過ちはただの愚行。
知識が増えるにつれ人はより己の無知を知る。
だからこそ。
老いた人間は謙虚でなければならない。
あなたにはそれがわからないようね」
「何が仰りたいの?」
女は「ふぅ」と溜息を吐いてから
カップをテーブルに置いた。
「あなたは時の流れに逆らおうと足掻いている
愚かな人間。
人は生き様が顔や仕草、
そして言動に現れるの。
歳を重ねるとはそういうこと。
あなたはそれがわかっていない。
あなたの美しさは、
ただ上辺だけの美しさ。
その美しい仮面の下の素顔は薄汚い老婆」
女の口元がピクリと動いた。
黒いドレスの女はそれを見逃さず畳み掛けた。
「2件の殺人、
そして1件の殺人未遂。
あなたがまだ若ければ
悔い改めることもできたのに。
どこでそんな歪んだ人格が形成されたのか。
その歪んだ人格のおかげで、
歳を重ねた今のあなたは
罪の意識すら感じていない。
被害者達だけでなくその家族、
身近な人たちの気持ち、
それが想像できないほどにあなたは愚か。
その想像力の欠如故に、
好意を寄せる人間に
ストーカーという行為でしか
愛情を表現できなかった」
女の表情からは感情が消えていた。
無表情。
それはある種冷酷にさえ見えた。
「あなたの人格形成を歪めたのは、
醜い素顔だったのかしら?」




