第88話 好意
「結局のところストーカーって
心が未熟なのよね」
ふいに黒いドレスの女が話題を変えた。
「相手の気持ちを理解する思考が
欠如しているの。
自己中心的な人間ということになるのかしら。
だから。
相手に自分の気持ちを押し付けようとする。
でもそんなのは愛じゃない。
子供が泣きながら
好きな玩具を強請ってるのと同じ。
それ故、
相手に拒絶されると過度に反応する。
多くの場合。
それが憎しみという感情に変化する。
愛と憎しみは紙一重。
あなたの場合もそうだった。
ただ。
あなたの憎しみは八木明人にではなく、
彼の性の対象となった女性達に向けられた」
「興味深いお話ですね。
どうぞ続けて下さい」
女は微笑んだ。
「ふーん。
否定しないんだ?」
「呆れて否定する気も起きないだけです。
それにストーカーというのであれば、
彼こそが
そう呼ばれて然るべき人間ではないですか?
女性の後を尾けて襲う。
立派なストーカー行為ですわ」
「後を尾けるという点だけに注目すれば
ストーカーとも呼べなくもない。
でも八木明人の場合は単なる変質者。
彼の目的は単に欲望を吐き出すことだけ。
その対象となる女性には拘りはなかった。
現に1件目の殺人事件が起きたとき、
彼は自分の襲った相手が
事件の被害者だということに
気付いていなかった。
そして。
驚くことに八木明人は
本当に好意を抱く相手には手を出せなかった。
実際に2件目の被害者である
女子高校生に関しては、
彼が本当に好意を抱いていたのは
その友達の方。
他にも。
彼の通っていた市民プールの職員の女性。
彼は彼女にも好意を寄せていた。
でもその彼女にも何もしていない。
本当に歪んだ男だわ」
黒いドレスの女はそこで言葉を止めて
女をじっと見つめた。
女は髪を掻き上げると
黒いドレスの女から視線を外して、
窓の外へ目を向けた。
女の横顔に黒いドレスの女は語り続けた。
「極めつけはあなた。
八木明人があなたを盗撮していたことからも、
彼はあなたにも
好意を抱いていたことがわかる。
そして当然。
あなたにも手は出せなかった」
その発言に女はハッと息を呑んだ。
そして。
恐る恐る黒いドレスの女に視線を戻した。
「・・で、でも。
結局私は彼に襲われたのです!」
この会話が始まってから
はじめて女が明かな動揺をみせた。




