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ストーカー  作者: Mr.M
五章 神無月

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第81話 本物の涙

洋館の周りに茂っている草木は

その身に背負った雨粒を、

1つまた1つと濡れた大地に落としていた。

洋館の一室からは

テレビの音に混じって男の声が聞こえていた。


「仮に実果さんの推理が正しいとして。

 安倍が八木のストーカーだった場合、

 2件の殺人事件の犯人である可能性も

 出てきます。

 一方。

 その場合、

 大烏の立場は八木の主張の通り、

 八木から依頼を受けた探偵となりますよね?

 つまり。

 大烏は依頼人を裏切って

 殺人犯であるかもしれないストーカーと

 結婚したというわけですか?

 あり得ませんね」

「それがあなたの言ってた愛なんじゃないの?

 相手のすべてを受け入れる。

 まさに恋は盲目」

男の指摘にも女は動じなかった。

そして女は挑発的な眼差しを男に向けた。

「そ、そんな馬鹿な・・」

男は額に浮かんだ汗をハンカチで拭った。

「・・でも誤算があった。

 大烏亜門は自分の方が彼女よりも

 優位に立っていると思っていたようね。

 普通であれば脅迫する側のほうが

 立場が上なのは当然だけど。

 今回は相手が悪かった。

 彼女の方が一枚も二枚も上手だった。

 安倍瑠璃の色香と演技に

 まんまと騙されたってわけよ」

「演技・・ですか?」

「そう。

 脅迫に怯え従順に従う女。

 それともベッドで男に愛を囁いたのかしら。

 とにかく女は誰もが女優なの。

 カメラの前で演じるか、

 男の前で演じるかが違うだけ」

「実果さんにしては珍しく詩的な表現ですね」

男の誉め言葉を聞き流して

女はカップに口をつけた。

「とにかく安倍瑠璃と結婚した大烏亜門は

 事故に遭った」

男は何も言わなかった。

正確にはこれ以上何を言っても無駄だと

悟ったのだ。

「彼女は最初から八木明人に

 殺人の罪を被せるつもりだったのかしら。

 それとも別の目的があったのか。

 おそらく大烏亜門の介入は

 彼女にとって予想外だったはず。

 彼女はどういう画を思い描いていたのかしら。

 八木明人を付け回していたということは、

 彼に対してかなりの執着があったはず」

そして女は小さく息を吸った。

「・・彼女は八木明人に恋をしていたのかしら」

それから男に向かって微笑んだ。

「武。

 この後の調べ物は任せるわね」

男は大きな溜息と共にがくりと肩を落とした。


「でも馬鹿なことをしたわね」

テレビを見ていた女がふいに口を開いた。

画面はスタジオから中継先に切り替わっていた。

そこには病院の前でインタヴューを受けている

1人の美しい女が映し出されていた。

男は釣られてテレビに目を向けた。

「馬鹿なこと・・ですか?」

「こんなに早く大烏亜門を殺そうとするなんて」

画面の中の美しい女は

溢れ出そうとする涙を必死に堪えていた。

男はこの涙は本物だと思った。

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