第80話 証拠がない
突然、
女が声をあげて笑い出した。
何も知らない人間が今の彼女を見たら、
無邪気に笑う美女に
きっと心を奪われるに違いない。
しかし。
目の前に座っている男は
女のその笑顔に恐怖すら覚えた。
「そうね。
そういうことだったのね。
これでようやくパズルが完成したわ」
「・・つまり。
大烏は彼女が八木のストーカーであると知って
それで彼女を脅迫したと。
実果さんはそう考えているんですか?」
男は仕方なく話を合わせた。
「馬鹿ね。
そんなモノは
女を縛るほどの弱味にはならないわよ。
忘れたの?
さっき出た結論を」
「い、いや・・あまりにも話が飛躍しすぎて
何が何やら」
女は「だから武は駄目なのよ」
と一言前置きしてから続けた。
「八木明人のストーカーは、
つまり2件の殺人事件の犯人
ということになるでしょ?」
男は頭を抱えた。
「それは・・。
すべて実果さんの妄想ですよね?」
恐る恐る男は口を開いた。
そんな男を女はキッと睨みつけた。
男は一瞬口を噤んだが、
コンと小さく咳払いをしてから
改めて切り出した。
「・・えーっと。
たしかに八木明人のストーカーが、
2件の殺人事件の犯人である
という実果さんの推理は納得できます。
しかし。
そのストーカーが
3番目の被害者となりかけた
安倍瑠璃というのはちょっと・・。
話が飛躍しすぎてるというか、
そもそもストーカーが被害者になるなんて
立場が逆転してるじゃないですか?
そんなことがあり得ますか?
実果さんの妄想、
いや推理は物語としてなら面白いですが、
現実としてはやはり無理があります」
「何よ?
私の推理が間違ってると言いたいわけ?」
女はテーブルに両手をついて男に詰め寄った。
「そ、それは仕方がないですよ。
証拠がないんですから。
一方。
八木の方は安倍を襲っている動画が
残されているわけですからね」
「・・そうね。
証拠がないのよね」
女はプクッと頬を膨らませると
ふたたびソファーへ身を沈めた。




