第74話 直接的な方法
「とにかく八木が
正体不明のストーカーに
怯えていたのは事実ですね」
そして男はコンと1つ咳をした。
「そうね。
八木明人には彼を脅かすストーカーがいた。
でもそれについて
警察には相談ができなかった。
警察が頼りにならないのは
既成事実だとしても。
それでも一応相談はするでしょう?」
「警察をそんな風に思っているのは
実果さんだけですけどね・・」
男が小声で呟いた。
「八木明人には警察に相談できないような
後ろ暗いことがあった。
警察に相談するには
その後ろ暗いことも
話さなければならなかった。
つまり。
八木明人の警察に言えない秘密は
直接にストーカー被害とも関係している」
「もしかして。
その秘密というのが
八木の自白している
数々の暴行事件のことでしょうか?
でも。
それならここに来たとしても
同じことでしょう?」
「だから八木明人は考えたのよ。
秘密を伏せたままで
ストーカーを捕まえる方法を」
「なるほど。
だから八木は自分の身辺を張り込むように
話を進めたわけですね。
そんなことは警察には頼めない。
でも我々には
お金さえ払えば頼むことができますから」
テレビの雑音と窓を叩く雨音が
部屋を賑わせていた。
「暴行犯である八木明人が、
探偵に依頼してまで自分のストーカーを
探し出したい理由。
それがこの事件の鍵よ。
八木明人にとって暴行事件は、
当然、
誰にも知られてはいけない秘密だった。
でもそれを知った人物がいた」
「それが彼を付け回していた
ストーカーということですか?」
「そうね。
彼は誰にも知られてはいけない秘密を、
姿の見えないストーカーに知られてしまった。
少なくとも彼は知られたと思ったのよ」
「でも。
ここでまた疑問が出てきます。
そもそもストーカーに知られたことが、
どうして八木にわかったんでしょうか?」
「それは簡単に想像ができるわ」
女は「ふふふ」と笑うとカップを口に運んだ。
「普通に考えた場合、
ストーカーから脅迫状が届いたとか?
お前のしていることは知っている
といったような」
「そうね。
でも。
もしそんな脅迫の証拠があるのなら、
ここに来た時に言うと思うのよね。
脅迫状に書かれた内容に関しては
証拠もないわけだから、
事実無根だと言えばいいわけだし」
「ではどうやって八木は
ストーカーの存在を知ったんでしょう?」
男は首を傾げて女を見た。
女はにんまりと笑みを浮かべていた。
「何ですか。
意地悪しないで教えて下さいよ」
男が口を尖らせた。
「馬鹿ね。
この話の始まりはそもそも何よ?」
「この話の始まりって・・」
男は天井を見つめながら記憶を辿った。
「・・八木が殺人犯ではない
という実果さんの主張ですか?」
「そうよ。
だからストーカーはもっとも直接的な方法で、
八木明人に自分の存在を知らせたのよ」
「そ、それって、まさか・・」
男はごくりと唾を飲み込んだ。




