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ストーカー  作者: Mr.M
五章 神無月

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72/94

第72話 10月18日。火曜日。

明け方から降り始めた雨は

午後になっても止まず、

一昨日からのすべてを洗い流した。

雨には人の世に存在する穢れや汚れを

浄化する作用もあるのだろうか。


雨雲は忌寸市全域を包み込んでいた。

忌寸市の外れ、

朝臣市との市境付近にひっそりと建つ

古い洋館があった。

普段は物静かなその建物の周辺も

今は雨音がその静寂を破っていた。

洋館の前にとまっている

赤いミニクーパーが雨に濡れていた。


洋館の一室では

1人の女がソファーで寛いでいた。

部屋のテレビでは昼の情報番組が流れていた。

ドアが開いて

トレイを持った男が入ってきた。

男はティーカップを2つテーブルに置くと

ポットの中の紅茶を注いだ。

独特のマスカットフレーバーが

部屋の中に広がった。

ソファーに身を沈めていた女は

ゆっくりと体を起こすと、

紅茶の入ったカップを手に取った。

女は黒を基調としたドレスに身を包んでいた。

大きく開いた胸元に、

スカートの丈は膝上。

女が足を組むと

艶めかしい太ももが露わになった。

男はそんな女の姿に一瞥をくれただけで、

向かいのソファーに腰を下ろした。


『先日、

 女性への暴行及び殺人未遂の容疑で

 逮捕された稲置市在住の整体師、

 八木明人容疑者に関する情報です。

 八木容疑者は今月16日の深夜に、

 顧客の女性を連れ去り、

 暴行した挙句殺害しようとしたところを、

 私立探偵の大烏亜門さんにより

 取り押さえられました。

 今回、

 警察への取材で、

 八木容疑者が過去5年の間に

 80件にも及ぶ暴行事件に

 関与していたことがわかりました。

 さらに。

 今年の7月と8月に起きた

 2件の殺人事件に関しても、

 八木容疑者の犯行であることが

 警察への取材で明らかになりました』

若い女性のアナウンサーが

神妙な面持ちで原稿を読み上げていた。


「新しい情報が出たみたいですね」

男の言葉に女もテレビに目を向けた。

画面には八木明人の顔写真が映っていた。

「でも。

 こうしてみると

 かなり危険な人物だったようですね。

 まさに人は見かけによらない

 という言葉のお手本のような人ですね」

男の話に興味がないのか、

女はカップをテーブルに置いて

ふたたびソファーに背を預けた。

テレビでは芸能人や評論家を名乗る者達が、

事件についてあれこれと議論を交わしていた。

『今回のケースで

 ストーカー被害に関しては、

 警察よりも民間の会社のほうが頼りになる

 ということが証明されましたね』

『そうですね。

 警察は事件が起こってからでないと

 動いてくれませんから』

『しかしストーカーのような問題は

 事が起きてからでは遅いんですよ』

『それよりもこの八木という人は、

 80人もの女性を

 襲っていたらしいじゃないですか。

 一体警察は何をしていたんでしょうか?』


男はチラチラと女の様子を窺っていたが、

コンと小さく咳をすると徐に口を開いた。

「実果さんが

 納得できない気持ちもわかりますけどね。

 実際に警察は、

 2件の殺人事件に関しては

 犯人は女性という線で

 捜査を進めていたはずです。

 実果さんの推理は

 間違いなく不破くんに伝えましたから」

女は男の言葉に反応することなく、

腕を組んで

ただぼうっとテレビに目を向けていた。

「それにこの件に関しては、

 最初から捜査に関わっていたわけでは

 ないですし。

 不破くんからの断片的な情報による

 推理ですから、

 間違っても仕方がないですよ。

 それに結果的に犯人が

 逮捕されたんですからいいじゃないですか」

男の言葉が癇に障ったのか

女はキッと男を睨みつけた。

「あのね、武。

 私の推理が

 これまでに間違ってたことってある?

 警察なんていい加減で適当な組織なの。

 大体。

 不破と彼の上司の何だっけ

 あの時代錯誤の老害の・・。

 まあいいわ、

 とにかく警察にはああいう

 無能な連中しかいないんだから」

「はいはい。

 でも実際に

 八木は現行犯逮捕されているわけですからね。

 ちなみに不破くんの上司は目明警部です。

 まあ。

 猿も木から落ちる。

 河童の川流れ。

 名探偵も推理の誤り。

 と言いますからね」

男は女の視線をすました顔で受け流してから

カップに口をつけた。

「ふん」

女は視線を窓に向けた。

雨粒がパラパラと窓ガラスを叩いていた。

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