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ストーカー  作者: Mr.M
四章 神無月

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第71話 2時間ドラマのラストーシーン

暗闇の中、

大烏の口元が微かに緩んでいるのがわかった。

「な、何を言ってるんですか・・大烏さん。

 わ、悪い冗談はやめて下さい」

「冗談なものか。

 この事件の犯人は君。

 そして彼女は

 その最後の被害者となればいいのだよ」

続いて大烏の口から出た言葉は

僕を心の底から震え上がらせた。

「君は実際に暴行事件の犯人だ。

 それがエスカレートした結果、

 ここ2件ではついに

 人を殺してしまったのだよ。

 警察の捜査方針に若干の修正を加えた。

 犯人は女ではなく男。

 それも女性への屈折した性癖を持つ男。

 このシナリオで警察を納得させるには

 ある程度の証拠が必要だ。

 そこで。

 先ほど『千代丸急送』で

 君が彼女にした行為の一部始終を、

 撮影させてもらったよ。

 動かぬ証拠というやつだ。

 それに。

 君のパソコンのデータは

 警察に調べられたら都合が悪いだろう?

 これらの物的証拠から

 君はこの事件の犯人となるのだ」

そんな話を警察が信じると思うんですか

と言おうとして僕は口を噤んだ。

「役者は揃った。

 女性達を付け狙い遂には

 殺人にまで手を染めたストーカー役は君。

 ヒロインである彼女は最後の被害者となる。

 そして私はヒロインを助け、

 彼女と恋に落ちる探偵役だ。

 つまりこの物語の主人公だね」

考え得る最悪の物語だった。

そして恐ろしいことに

その物語が今や現実になろうとしていた。

状況証拠と物的証拠を前に

僕は言い逃れができない。

このままでは

本当に殺人犯にされてしまうかもしれない。

「そ、そんなことをしても・・

 実際の殺人犯は捕まっていないわけですよね?

 僕が警察に逮捕された後に、

 次の被害者が出たらどうするんですか?

 そ、そうなれば僕の無実は証明されます」

僕は抵抗を試みた。

「それはどうかな?

 この殺人事件のきっかけを作っているのは

 君の行動なのだよ。

 現に2件の殺人事件の後、

 君が例の習慣をやめてからこれまで

 殺人事件は起きていない。

 つまり君が捕まってしまえば今後、

 この犯人が新たに殺人を犯す可能性は

 限りなくゼロに近い」

たしかに大烏の言う通りだった。

実際にメシモリ以降、

殺人事件は起きていない。

では今回はどうなのだ?

僕は安倍瑠璃を襲った。

僕があの場を立ち去った後、

犯人は現れたのだろうか。

・・待てよ。

そうなると彼女はどうなったのだ。

犯人に殺されたのか?

それはない。

大烏がそれを許すはずがない。

大烏は何があっても彼女を守るはずだ。

そもそも大烏は彼女と交渉をしたと言った。

つまり安倍瑠璃は

今回の計画をある程度は知っていたはずだ。

そういえば彼女を襲った時、

やけに簡単に意識を失ったように感じたのだ。

・・まさか。

彼女はわざと

意識を失ったふりをしていたのだろうか。

そして僕が彼女に対して行った

一部始終を見ていた。

いや感じていた。

すべてを知ったうえで

なすがままになっていたのだとしたら。

そんな恐ろしい想像が頭を掠めた。

僕は慌ててその妄想を振り払った。

問題はそんなことではない。

これまでのことを考えたら、

犯人は必ずあの場所に現れたはずなのだ。

大烏は犯人をどうしたのだ。


「さあ、もういいだろう。

 君との会話は楽しいが

 今はそれほど時間がない。

 もう十分に時間は稼げたからね」

大烏の声で僕は現実に引き戻された。

同時にその言葉に僕は引っかかった。

「ふむ。

 どうやらその表情はわかってないようだね。

 なぜ私が時間を稼ぐ必要があったのか。

 本来なら君は一刻も早く

 この場から立ち去るべきだったのだ。

 まあそれをさせないために選んだのが

 この場所でもあるのだがね」

落ち合う場所を変えたのは大烏だった。

この男は一体これから何をするつもりだ。

焦れば焦るほど頭は空回りした。

「君は私が2時間ドラマの探偵役宜しく、

 事件の顛末を解説したと思うのかい?

 たしかに昼と夜の差こそあれど、

 海を臨む崖というロケーションは

 それに近いがね。

 これはドラマではないのだよ」

頭の中で警報器が鳴った。

「すでに警察への通報は済ませた。

 知り合いの刑事に連絡をしたからね。

 そろそろ到着する頃だろう。

 つまり。

 それまでの時間稼ぎをしていたのだよ。

 これから君は

 彼女に対する暴行と殺人未遂の罪で

 現行犯逮捕されるのだ」

膝が震えて足に力が入らなかった。


「その前に1つやり残したことがあった」

そう言って大烏は

足元の鞄から何かを取り出した。

丁度その時。

雲間から月明かりが射した。

大烏の手にしたモノに見覚えがあった。

今夜、安倍瑠璃が身に付けていた服だった。

「ふ~む。

 芳しい香りだ」

大烏はその服へ顔を埋めた。

そして次の瞬間。

大烏は両手でそれを一気に引き裂いた。

引き裂かれた服を地面に捨てて、

続いて大烏が鞄から取り出したのは

黒のTバックだった。

大烏はそれを広げると頭から被った。

それからふたたび鞄に手を突っ込んだ。

次に取り出したのは黒いブラジャーだった。

大烏はそれも力任せに破いた。

僕は大烏の行動をただ唖然と見ていた。

「非常に残念だが、

 これらは警察へ押収されるだろう。

 君が彼女を襲ったことを証明するための

 大事な証拠品だからね」

作業を終えた大烏は被っていたTバックを取ると

名残惜しそうにそれを引き裂いた。

それを見ていた僕の視界が

ふいに大きく歪んだ。

同時に。

地面がグラグラと揺れているように感じた。

とても立っていられない。

僕は膝から崩れ落ちた。

両手を地面について肩で大きく息をした。

眩暈がする。

「ふむ。

 どうやら観念したようだね。

 そうそう。

 心配しなくても彼女なら私の車の中にいるよ。

 現行犯である以上、

 被害者もこの場にいなければ

 成立しないからね」

頭の上から大烏の声が聞こえた。

僕は恐る恐る顔を上げて

大烏の車の方へ視線を向けた。

その時。

頭の中で鳴り響いていた警報器の音が

聞き覚えのあるサイレンの音に変わった。

同時に。

車から1つの影が降りてきた。

雲間から射す僅かな月明かりの下では

はっきりとは見えなかったが、

それでも僕にはそれが誰だかわかった。

一陣の風が吹いた。

雲が流れて満月と星々の光が

ぼんやりとその姿を照らした。

彼女が僕に向かって微笑んでいた。

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