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ストーカー  作者: Mr.M
四章 神無月

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第69話 交渉という名の脅迫

風に飛ばされたハットは

そのまま海へと消えていった。

「彼女の心はどうでもいい。

 ただ彼女を私の傍に置くことさえできれば、

 それでいいのだ。

 そのためにはどうすればいいか?

 君ならわかるだろう。

 相手の意思に関係なく、

 自分の欲望を満たしていた君ならね」

大烏の顔は醜く歪んでいた。

それは内なる狂気が表れたかのようだった。

「脅迫だよ」

そして大烏が恐ろしいほど単純な言葉を

口にした。

いや。

単純であるが故に恐ろしいのか。

「・・きょ、脅迫?」

僕はただその言葉を繰り返した。


「私は彼女の部屋へ侵入し、

 君の自宅の合鍵と受信機を見つけた。

 これらは彼女が

 君のストーカーであることの証拠である。

 私はそれら2つの物的証拠を持って

 彼女に接触した。

 彼女は私が君の依頼した探偵だとわかると、

 観念して私の話を聞く気になったようだ。

 当然私の行為は違法ではあるが、

 この際それは大した問題ではない」

狂ってる。

この男は愛を求めるあまりに

とうとう狂ってしまった。

いや。

愛が人を狂わせるのは太古から変わらないのか。

「他人の家屋に侵入して盗聴器を仕掛ける。

 刑法第130条住居侵入罪。

 盗聴で得た情報をもとにつきまとう。

 刑法のストーカー規制法。

 これらは立派な犯罪行為であり、

 今や彼女はその証拠を私に握られたのだ。

 しかし。

 この程度の軽い罪では駄目なのだよ。

 彼女にはもっと重い罪を

 背負ってもらわなければならないのだ。

 罪が重ければ重いほど

 彼女にはめた足枷は堅固になる」

大烏の話はますます狂気を孕んできた。

僕は全身に鳥肌が立つのがわかった。

心の底から恐怖を感じた。

今この場所には僕と大烏しかいない。

もし。

大烏が危害を加えようとしてきたら・・。

僕は大烏に気付かれないよう、

そっと一歩だけ後ろに下がった。

その時。

僕はもっとも重大なことに気付いた。

彼女がストーカーで

盗聴器を仕掛けた人物であれば、

2件の連続殺人事件の犯人も当然、

彼女ということになる。


「・・君が考えていることはわかるよ。

 だがそれは想像にすぎない。

 いくら辻褄が合おうと、

 彼女が殺人犯であるという

 明確な証拠はないのだよ」

その言葉に僕は困惑せざるを得なかった。

大烏は口元を歪めた。

「しかし。

 証拠はなくても、

 私は彼女との交渉を成立させればいいだけだ。

 裁判官や陪審員に対して、

 彼女が犯人であることを

 証明する必要はないということだよ。

 つまり。

 彼女が実際に殺人犯であるかどうかは

 関係がないのだ。

 彼女が殺人犯でなかろうと、

 状況証拠や動機、

 その他諸々の事柄が、

 彼女が殺人犯である

 と示してさえいればそれでいいのだ」

大烏は「はっはっは」と笑った。

「実はね。

 警察にちょっとした知り合いがいてね。

 名前は不破関というのだがね。

 警察の捜査状況については定期的に

 聞いていたのだよ。

 警察は2件の殺人事件に関しては、

 被害者達が性的暴行を受けていない

 ということから犯人は女性ではないか、

 という線で捜査を進めていたのだ。

 被害者達が全裸だったことは、

 男の犯行に見せかけるための

 工作だと考えていたようだ」

寝耳に水だった。

疚しいことがあると人は疑心暗鬼に陥る。

僕は1人で足掻いていただけなのか。

額に流れる汗を僕はそっと拭った。

「警察がこの事件の犯人を

 女性だと考えている事実。

 そして私の手に入れた物的証拠。

 さらには。

 彼女が君に好意を抱いているという現実・・」

大烏の最後の言葉が僕の心臓を刺激した。

ドクッ

心臓が大きく跳ねた。

「これら3つの根拠を武器に

 私は彼女との交渉を進めた。

 私が警察関係者にコネがあるという

 伏線も効果があったようだ。

 今や彼女は私との交渉の場において

 2件の殺人事件の重要参考人

 という立場に立たされた」

大烏が話を続けていたが

頭には入ってこなかった。

僕の頭の中ではつい先ほどの大烏の言葉が

ぐるぐると駆け巡っていた。

その時。

ふいに疑問がよぎった。

「あ、あなたは自分の愛する人を・・

 ぼ、僕に襲わせたんですか?」

大烏は一度夜空を見上げてから

ふたたび僕の方へ視線を戻した。

それから徐に口を開いた。

「ふむ。

 何せそれが

 彼女の潔白を証明することになるのだからね」

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