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ストーカー  作者: Mr.M
四章 神無月

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第66話 軽い眩暈

「大烏さん!

 犯人はどうしたんですか!」

僕は声が届きそうなところで立ち止まると

大声で呼びかけた。

吹きすさぶ風の音で僕の声が聞きとれないのか、

大烏は僅かに首を傾げた。

僕は大烏の顔がはっきりと認識できる距離まで

近づいた。

よく見ると大烏の足元には鞄があった。

大烏は僕の方を見て

困ったような表情を浮かべた。

今夜の大烏はインディゴブルーのスーツに

月白色のボーラーハットをかぶっていた。

「ふむ。

 どこから話をすればいいのか・・」

そう言って大烏はふたたび首を傾げた。

それから大烏は「ふぅ」と息を吐き出した。

「君と私の共通点が何かわかるかね?」

大烏は突然そんな言葉を口にした。

今度は僕の方が首を傾げる番だった。

僕と大烏の共通点。

そんなモノがあるだろうか?

すべてが違い過ぎる。


「我々はその理由こそ違えど、

 女性を抱くことができないという点では

 同じだ。

 君の問題はその心。

 私の問題はこの体。

 まあ。

 私の場合は見ての通り

 体だけが理由というわけでも

 ないがね」

そして大烏は空を見上げた。

僕も釣られて頭上に目を向けた。

ちょうど雲が満月を覆い隠そうとしていた。

「君のように恵まれた容姿の人間には

 わからないだろうね。

 よく『外見よりも中身だ』

 などといった戯言を

 さもそれが美徳であるかのように語る

 愚か者がいるが、

 それは建前にすぎない。

 人は本心を語らずに騙る。

 誰もが容姿の良い相手を求めていることは

 紛れもない事実なのだ。

 だからこそ誰もが美を追求する。

 異性を惹きつけるためにね」

大烏がなぜこんな話を今ここでするのか

僕には理解できなかった。

「ただ容姿が良いというだけのことが、

 どれほど恵まれているのかを

 君は理解していない。

 君の店の顧客リストを見れば一目瞭然だ。

 客の大半は

 君を目当てに訪れる女性客ばかりだ。

 容姿が良いというだけで、

 企業努力もせずに客がやってくる」

それは違う!

僕は心の中で反論した。

大烏の理屈が正しいのであれば

容姿の優れた人間は

客商売で必ず成功することになるではないか。

だが。

世の中そんなに甘くはない。

「兎に角。

 私はこの容姿のせいもあって、

 これまで女性とは無縁の人生を送ってきた。

 何度か恋もしたがね。

 それらはすべて実ることはなかった。

 それでも

 世の中変わった趣向を持った人間はいる。

 『蓼食う虫も好き好き』

 という諺があるだろう?

 私のような容姿の男でもいい

 という女性もいた」

どこかで聞いたことのあるような台詞だったが、

それがどこなのか思い出せなかった。

「しかし。

 私の体が機能しないことがわかると、

 あっさりとフラれてしまったよ。

 女の欲は深い。

 時に男を超えるほどにね」

そして大烏は自虐的に笑った。

人は多かれ少なかれ悩みを抱えて生きている。

何不自由ない人生を

送っているように見えた大烏も

例外ではなかった。

所詮、

誰も他人の心の内まではわからないのか。

心理学など所詮は机上の空論。

精神科医など詐欺師と同じ。

それは本人達が一番よくわかっているだろう。

「そんな私だが・・真実の愛を見つけた。

 人と人の繋がりなんて誰にも予想ができない。

 君と出会ったのも運命だったのだろう」

話の方向性が僅かに変わった。

「神など信じない私も、

 今度ばかりはその存在に感謝したよ。

 信仰の始まりは何だと思うかね?

 それは恐怖だよ。

 未知なるモノ。

 天災などに対する恐怖。

 その昔。

 天災は神の怒りと恐れられていた。

 そしてあらゆる災いは神が人に与えた試練。

 そう説いていたのが宗教者だよ。

 人々は無心に彼ら詐欺師の言葉を信じた。

 科学の発達した今の時代でも

 まだそんな人間が大勢いるのだよ。

 不思議だね」

大烏は「はっはっは」と声を出して笑った。

「覚えているかね?

 君から事件についての相談を受けたあの日。

 私は密かに君のパソコンのデータを

 コピーして持ち帰った」

僕はゆっくりと頷いた。

「あのデータを見た時の驚きは忘れない。

 雷に打たれたような衝撃が全身を貫いた。

 まさに一目惚れだった」

嫌な予感がした。

胸騒ぎ。

虫の知らせ。

大烏が何を言おうとしているのか想像ができた。

僕の頭の中には

1人の女の名前が浮かんでいた。

「そうだよ。

 君のおかげで私は彼女に出会えたのだ。

 安倍瑠璃。

 その人にね」

僕は軽い眩暈を覚えた。

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