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ストーカー  作者: Mr.M
四章 神無月

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第65話 灯台

道中すれ違う車もなく、

『千代丸急送』を出てからきっちり5分で

野分岬に到着した。

車から降りると風と波の音が耳に届いた。


今、大烏は犯人と対峙しているのだろうか。

いやもうすでに

捕り押さえているのかもしれない。

それはつまり犯人を殺す時間が

近づいていることを意味していた。

殺す・・。

それは当然、

僕の仕事だった。

大烏が直接手を汚すわけがない。

あくまでも大烏は協力者であり傍観者なのだ。

はたして僕に人を殺すことができるだろうか。

僕はポケットの中のロープを確かめた。


灯台に近づくにつれて波の音が大きくなった。

暗闇にそびえる無機質な灯台の姿は、

ある意味不気味だった。

おまけにここは殺人鬼が身を投げた場所だ。

超常現象の類はまったく信じていない僕でも

多少不安になった。


灯台の周りをぐるりと一周した。

人はいなかった。

眼下には真っ暗な海が広がっていた。

すべてを飲み込んでしまうような黒。

今にも海から殺人鬼が飛び出してきそうな

雰囲気だった。

1人で立っていると

変な妄想に憑りつかれそうだった。

その時。

風と波の音に混じって

人の声にも似た微かな音が聞こえた気がした。

恐る恐る周囲に目を向けたが、

当然、誰もいなかった。

それでも僕は背後の空間に恐怖を感じて

灯台の壁に背を近づけた。

そして大きく息を吸って

海の向こうに見える忌寸市の微かな灯りに

目を向けた。

夜景と呼ぶにはお粗末な光。

それでも何故かホッとするのは、

それが人工的な灯りだからだろう。

あの光の下では人が生活しているという安心感。

僕はその光に意識を集中させた。

その時ふと何の前触れもなく

「灯台下暗し」という言葉が頭をよぎった。

つい最近、

この場合の「灯台」とは「灯明台」のことを

指しているともしほに指摘され

僕は大恥をかいたのだった。


大烏はなかなか現れなかった。

僕は徐々に不安になってきた。

まさか。

大烏は犯人を取り逃がしたのではないか。

しかしあの男に限ってそれはないだろう。

ならば。

犯人は現れなかったのだろうか。

その時。

これまで何度も考えた小さな疑問が

ふたたび顔を覗かせた。

犯人は今夜本当に僕を監視していたのだろうか。

今夜僕はそれなりに周りに気を配っていたが、

誰かが潜んでいる気配はなかった。

もしかしたら。

僕は大きな間違いをしているのかもしれない。

漠然とそう思った。

しかし何が間違いなのかわからなかった。

いや「何が」ではなくて「どこで」なのか。

どこかで間違った道に

足を踏み入れたのだろうか。

しかしそれでも。

人は自分の歩いている道が正しいと信じて

進むしかない。

堪らず僕は空を見た。

満月が真っ暗な空に浮かんでいた。

その瞬間。

大烏に対してごく小さな不信が芽生えた。

それは大烏が殺害方法と死体処理について

これまで一切口にしなかったことが1つ。

あの頭脳明晰で用意周到な大烏が、

これほど大事なことについて

事前に話し合わないことがあるだろうか。

たとえ実際、

手を汚すのが僕だとしてもだ。

さらに大烏は警察の捜査が

僕へ及ばないと高を括っていた。

それはまるで警察の捜査状況を

知っているかのような口振りだった。

まさか大烏は警察と繋がっていて、

僕を罠に嵌めようとしているのではないか。

そこまで考えて僕は頭を振った。

そもそも大烏が警察側の人間であれば、

安倍瑠璃を襲った時点で

僕は捕まっているはずだ。


どのくらい待っただろう。

10分か。

20分か。

時間を確認しようとして

ポケットに手を入れたところで、

スマホを車に置いてきたことに気付いた。

車に戻って大烏に連絡をするべきか迷ったが、

結局僕はここで待つことにした。

雲が流れて時折、月を隠した。

それと共に風が強くなった。

その時。

風と波の音に混じって

微かな機械音が聞こえてきた。

岬の入り口の方へ目を移すと

灯が近づいてくるのが見えた。

その灯りの正体が

車のライトだとわかった途端に、

幻聴かと思っていた機械音が

聞き慣れた車のエンジン音に変わった。

僕は咄嗟に灯台に身を隠した。

なぜそうしたのかはわからないが、

恐らく僕の本能がそうさせたのだろう。


テトラポットに打ち寄せる波の音だけが

不規則に響いていた。

その波の音に混じって

車のドアが開閉する音がここまで届いた。

何かがおかしかった。

ドアの閉まる音は1度しか聞こえなかった。

それが正しければ車から降りたのは

1人ということになる。

そしてその人物は大烏に違いなかった。

犯人はどうしたのか。

僕はそうっと灯台の影から様子を窺った。

ここから辛うじて見える人影は

やはり1つだけだった。

その人影がゆっくりとこちらに向かって

歩いてくるのが見えた。

その小さなシルエットからしても

大烏に違いなかった。

僕は灯台から飛び出して駆け出した。

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