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ストーカー  作者: Mr.M
四章 神無月

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第52話 『いつ』『どこで』『誰を』

10月3日。月曜日。

『シュガー&ソルト』

の店内には他の客はいなかった。

僕は一番奥のテーブル席に座った。

前回、

大烏とここで話をしてから

2週間以上が過ぎていた。

その間様々な葛藤があった。

そして。

昨夜僕は大烏に連絡して

提案を受け入れる旨を伝えたのだった。

今日はこの後、

大烏と具体的な計画を立てる予定になっていた。

その時。

外で車のエンジン音が聞こえた。

時計を見ると19時55分だった。


大烏は店に入ってくるなり

マスターともしほに向かって

深々とお辞儀をした。

その大袈裟すぎる仕草もこの男の場合、

不思議と画になった。

大烏は英国紳士然とした

高そうなスーツに身を包み、

ボーラーハットを被っていた。

ワインレッドのネクタイが目を引いた。


すぐにもしほがテーブルに水を運んできた。

大烏は何か食べようかなどと言っていたが、

僕はそれを無視してコーヒーを2つ注文した。

「大烏さん・・昨日の話ですが。

 よろしくお願いします」

僕は小声でそう言って頭を下げた。

「ふむ。

 随分と時間がかかったが、

 ようやく腹を決めたようだね。

 では早速話を進めよう。

 この計画を実行するにあたって大事なのは、

 『いつ』『どこで』『誰を』という3つだ。

 まず。

 最初に決めなければならないのは

 『誰を』ということだ。

 つまり生贄だ。

 いや犯人を釣るための餌と言った方がいいか。

 はっはっは」

大烏は笑った。

やはりこの男はどこか狂っている。

「その『誰を』が決まれば、

 私がその人物の素性を調べよう。

 そして『いつ』『どこで』を決める。

 『いつ』に関しては

 さほど気にしなくてもいいだろう。

 問題は『どこで』の方だな。

 生贄を襲う場所だ。

 君はその場所で生贄を襲って立ち去る。

 後は私が現れた犯人を捕まえる。

 どうかね、簡単だろう?」

大烏は1人で話を進めていた。

その時。

もしほがコーヒーを運んできた。

「ごゆっくりどうぞ」という彼女に

大烏は笑顔で

「ありがとう」と返していた。

もしほはにっこりと微笑んでから

カウンターに戻っていった。

大烏の笑顔にもしほは騙されている。

僕と大烏の会話を知れば、

彼女はすぐに警察に通報するだろう。

そして2度と僕にも

微笑みかけてくることはないはずだ。


「兎に角。

 『誰を』襲うか決めようではないか。

 君も誰でもいいというわけではないだろう?

 どうせなら好みの女性を襲えば

 一石二鳥じゃないか」

そう言って大烏はニヤリと

下卑た笑みを浮かべた。

その瞬間、僕は悟った。

この男はこの計画を楽しんでいると。

形のない不安が僕の心に小さな穴を開けた。

ここにきて大烏へ対する信頼が

僅かに揺らいだ気がした。

それはごく小さな不信だった。

気のせいと言えばそれまでだ。

しかし。

その針の穴から漏れる水が、

気付いたときには

ダムを決壊させるほどの脅威となることもある。

僕は小さく頭を振った。

それでも。

今の僕は大烏に頼るしかない。

「ふむ。

 決めかねているのなら

 彼女はどうかね?」

そう言った大烏の顔を見ると、

あろうことかもしほの方を目で指していた。

「ち、ちょっと待ってください!

 か、彼女は絶対に駄目です」

僕は声を抑えて大烏に抗議した。

「彼女ならバイト帰りを狙えば

 下調べの必要もないのだがね。

 まあ君が嫌なら仕方がない。

 他を探そうか」

やはりこの男は狂っている。

ついさっき彼女に笑顔で対応していたのは

何だったのか。

とても普通の感覚ではなかった。

いや。

普通でないからこそ僕の依頼も引き受けたのだ。

このまま大烏に舵を取らせていては、

あらぬ方向へと進んでいくような気がした。

僕からも何か提案しなくては。

誰を襲えばいいだろう。

僕に全く無関係の人間にするべきか。

それとも。

ある程度面識のある人間のほうがいいのか。

頭に浮かんだのはヨタカ。

しかし。

メシモリが殺された今、

ヨタカを襲うのは危険だった。

次に頭に浮かんだのは蝉丸空。

そして。

もう1人・・。

「ふむ。

 ならば彼女にしてはどうかね?

 君の顧客のあの美しい女性だ。

 名前はたしか・・」

そこで大烏は言葉を止めた。

大烏が1度見た名前を忘れるわけがない。

これは僕を試しているのだ。

いや僕の背中を押そうとしているのか。

あと1歩が踏み出せない僕の背中に

大烏の手がかかっていた。

この先に道はあるのか。

それとも真っ暗な穴が

ぽっかりと口を空けているのか。

「・・安倍瑠璃」

そして僕は大烏の手に身体を委ねた。

「ふむ。

 では標的は彼女で決定だ」

僕は黙って頷いた。


そこからの話は早かった。

まず『いつ』に関しては、

次の彼女の施術日になった。

彼女の施術時間をその日の最後に調整する。

次に『どこで』についてだが、

これは今までの犯行とは流れが違う。

施術が終わって店を出た彼女を

背後から襲って意識を奪う。

それから。

彼女を車に乗せて別の場所へ運ぶ。

僕はその場所で彼女に欲望を解放する。

そして。

僕が立ち去った後で、

現れるであろう犯人を大烏が捕まえる。

場所に関しては候補地を探してから、

後日また話し合うことになった。

そんな中、

僕には1つ気になることがあった。

「ぼ、僕の店を出た後で

 すぐに襲われたとなると、

 僕が疑われないですか?」

「はっはっは。

 それは心配ない。

 できるだけ離れた場所まで

 彼女を連れていくのだ。

 彼女が後日警察に相談しても、

 その時間帯、

 君は私の自宅にいたことにすればいい。

 君は彼女を送り出すと、

 その足で宿禰の私の自宅を訪ねた

 ということにしよう。

 私が証人になろう」

このことから1つの真理が読み取れる。

人の証言ほど

曖昧でいい加減な証拠はないということだ。

証言者が善意で、

常に正しいことを言っている保証はないからだ。

世の中。

息を吐くように嘘を吐く人間は山ほどいる。

それが自分の利益になるか否かに関わらずだ。

「そ、それなら彼女を連れていく場所は

 宿禰とは逆の方角が良いですね」

「そうなるね。

 ようやく君も頭が回ってきたようだ。

 稲置の東のほうなら問題はないだろう。

 今できる話はここまでだ。

 実は急いで来たので

 やり残した用事があるのだ。

 これで失礼するよ。

 彼女の予約が入ったらすぐに連絡してくれ。

 それと連れていく場所についても

 考えておいてくれ給え」

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