第5話 「ヨタカ」
遅めの昼食を食べ終えてから、
休憩時間になったもしほと話をして、
僕が店を出たのは
16時30分を少し過ぎた頃だった。
僕は自転車に跨って
自宅とは反対方向へと漕ぎ出した。
『クリーンマート 稲置市屯倉町店』
は今の時代には珍しい
小さな個人経営のコンビニだった。
本店は宿禰市にあって
稲置市にあるこの店は
2店舗ということだった。
中に入ると
店内は学校帰りの学生達で賑わっていた。
レジに立つアルバイトの少女を見て
僕は頬が緩んだ。
黒いストレートのロングヘアーに
気の強そうな吊り目。
近頃の女子高校生にしては珍しく
化粧っ気がなかったが、
それが余計に彼女の魅力を引き立てていた。
彼女は『私立傾城学園』の生徒で
学校帰りにここでアルバイトをしていた。
僕は成人男性向けの雑誌が陳列されている
棚から表紙が過激な雑誌を選んでカゴに入れた。
そして2Lのスポーツドリンクと
弁当を適当に選んで彼女の立つレジに並んだ。
「お待ちのお客様こちらへどうぞ」
もう1つのレジが空いて、
この店の店長である年配の男の声が聞こえた。
僕がそれを無視していると、
後ろに並んでいた学生がそちらへ進んだ。
少女の立つレジが空いて僕はそちらに進んだ。
制服の名札には片仮名で
「ヨタカ」
と書かれていた。
どういう漢字を書くのだろうか。
すぐに思いつくのは夜高か夜鷹か。
僕は静かにカゴを置くと
少女の表情を盗み見た。
スポーツドリンクと弁当をレジに通した後、
ヨタカは僕の選んだ露骨な表紙の雑誌を
手に取った。
その瞬間、
少女の表情に僅かに動揺が広がったのを
僕は見逃さなかった。
「3点で1274円になります。
お弁当は温めますか?」
僕は首を振って
財布から1000円札2枚と5円玉を出した。
「731円のお返しになります」
彼女は片方の手で僕の手を下から支えて
もう一方の手で僕の掌の中へ
そっと釣り銭を置いた。
「ありがとうございました」
店を出た僕は袋から雑誌を取り出すと
店の外にあるゴミ箱へ投げ捨てた。
今日のヨタカの反応はイマイチだった。
そろそろ耐性がついてきたのかもしれない。
慣れというのは恐ろしい。
改めてそう思った。
もうあの手の雑誌で
彼女の動揺を誘うのは難しいだろう。
次回からはもっと過激なモノを使う必要がある。
たしかコンビニには避妊具が置いてあったか。
彼女の恥じらう表情を想像すると胸が躍った。
そんなことを考えながら
僕は自宅へ向けて自転車を漕いだ。