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ストーカー  作者: Mr.M
三章 長月

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第44話 紳士

9月7日。水曜日。

この日の最後の客は八橋菖蒲だった。

彼女は旦那と喧嘩中で

ここ1週間口を利いてない

となぜか嬉しそうに話していた。

彼女を送り出してすぐ

僕も家を出た。

出る前に2度ほど戸締りを確認をした。



『シュガー&ソルト』の店内には

僕以外に客はいなかった。

「昨日は大烏さんが

 長いことご迷惑をかけたようで

 すみませんでした」

僕はカウンターに座ってから

マスターに頭を下げた。

「いやいや。

 気を遣わせたのはこっちだよ。

 明人ちゃんからもお礼を言っておいてくれよ」

何のことかわからず僕は首を傾げた。

「すっごい高価なお肉を戴いたのよ。

 有名なブランド牛なんだって」

テーブルの拭き掃除をしていたもしほが

マスターに代わって答えた。

「へ、へぇ・・」

あの大烏が

そんな気遣いをしていたことに僕は驚いた。

高級スーツに身を包み、

乗っている車はポルシェ。

何も知らない人間には

紳士に見えるかもしれない。

人は外見や肩書に騙される。

そして何といっても

その白を黒と錯覚させるような話術。

しかし。

それこそが詐欺師の本質ではないか。

大烏という人間は、

僕の依頼を引き受けていることからも

わかるようにとても真摯とは呼べない。

こんなことは決して

本人の前では口にできないが。


食後のコーヒーを飲んでいると、

バイトの終わったもしほが僕の隣に座った。

「ねえ。

 八木さんとあの人ってどういう関係なの?

 八木さんがここに人を連れてくるのって

 あの人が初めてでしょ?

 それにあの人、

 八木さんとは真逆のタイプっていうか。

 あっ!

 ごめんなさい。

 私ったら失礼なことを言っちゃったかしら」

「いいんだよ本当のことだから。

 たしかに彼は行動力もあるし社交的だし

 僕とは大違いだからね」

「うーん。

 たしかに八木さんは社交的とは言えないけど、

 そこが八木さんの魅力でもあると思うな。

 何か影があるっていうか。

 暗いっていう意味じゃないのよ」

優しいもしほの言葉をそのまますべて

受け止めていいのかわからないが、

それでも褒められて悪い気はしなかった。

「ねえ。

 あの人の車みた?

 あれポルシェよ。

 それにあのスーツに帽子。

 あと腕時計も。

 かなり高価な物だと思うんだけど、

 何をしてる人なの?」

もしほは大烏に興味津々だった。

「・・う、うん。

 あの人はね。

 ・・探偵らしいんだ」

仕方なく僕は大烏の正体を明かした。

それでも敢えて「らしい」という言葉を使った。

詳しくは知らないということを

暗に仄めかしたつもりだ。

「えー。

 探偵なんて本当にいるんだ?

 びっくり!」

それからもしほは

「探偵って儲かるんだ」

と独り言ちた。

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