第42話 素人
大烏と共に家に戻ると18時30分だった。
20分後。
仕事場と部屋の調査を終えた大烏が
ベッドに腰を下ろした。
「安心したまえ。
盗聴器はなかった」
そして大烏は打ち合わせ通りの言葉を口にした。
「・・そうですか。
ありがとうございました」
「ふむ。
では用は済んだので私はこれで失礼するよ」
その言葉に僕の体は固まった。
あったのだ。
盗聴器は存在したのだ。
もし盗聴器がなければ、
このままここで今後のことを話す予定だった。
しかし。
盗聴器を見つけたら、
大烏はすぐにここを出ることになっていた。
大烏に続いて僕も外に出た。
日が落ちていた。
店の前の小道は誰も歩いてなかった。
僕は自然と周囲に目を配った。
通りに建ち並ぶ家々には
チラホラと明かりが灯っていた。
通りの斜め向かいにある
年季の入った2階建てのアパートは
1階はアパートを囲む塀が
邪魔をして部屋の様子はわからなかったが、
2階にある3部屋は
左の角部屋だけ窓から灯りが漏れていた。
「仕事場のパソコンの電源を引いている
延長コードが盗聴器だ。
そして。
部屋にあるテレビの電源に繋がっている
延長コードも同じく盗聴器だ。
この2つで君の自宅の音は
ほぼ全て拾うことができるだろう」
大烏が周囲を警戒しながら口を開いた。
「最近では誰でも手軽に盗聴器を買えるからね。
それにこの手のモノは素人でも簡単に扱える。
それにしても。
気付かないのかね?
私には君のほうが信じられないがね」
大烏が呆れたように溜息を吐いた。
「・・す、すみません」
「しかし。
これは完全に素人の犯行だ。
プロはこんな盗聴器は使わないからね」
大烏の話を聞きながら思ったのは、
一体いつ盗聴器が仕掛けられたのか
ということだった。
僕はその疑問を大島にぶつけた。
「ふむ。
私にそれがわかるわけはないだろう。
だが確実に言えることは、
これを仕掛けた人物は
君の家に侵入しているということだ。
何か心当たりはないのかね?」
まったく思い付かなかった。
人付き合いもない。
恋人もいない。
家に来るのは客だけ。
その客も僕の部屋までは入ったことはない。
「ざっと調べたところ、
入口のドアの鍵穴には怪しい点はなかった。
つまり。
ピッキングなどの技術は使われていない。
まあ。
盗聴器が素人が扱うようなモノだから、
この犯人に
そんな技術があるはずはないのだがね」
その時。
思い出した。
今年に入ってすぐ、
家の鍵を失くしたことがあった。
その日は午前中に2人の予約が入っていた。
そして。
2人目の客が柏木だったことを思い出した。
施術を終えて
柏木と30分ばかり話し込んだことを覚えている。
それから柏木を送り出した僕は
昼食を買うために家を出た。
そこで鍵がないことに気が付いたのだ。
その日は仕方なくスペアキーを使ったのだが、
翌朝になって
開店前の掃除をしていた時に、
ベッドの下に落ちている鍵を発見したのだ。
当時は何も思わなかったが、
もしかしたらあの時・・。
「ふむ。
そうなると怪しいのは
柏木ということになるが。
しかし。
彼には第1の犯行時にアリバイがあるからね」
「じゃ、じゃあ誰が・・」
「もしくは鍵の紛失は君の気のせいで
実際はもっと単純なことかもしれない。
まさか普段から戸締りがいい加減
ということはないだろうね?
入り口は施錠したものの、
窓の鍵は開けっぱなしだったといったような」
僕は首を振った。
「ふむ。
まあいい。
それよりも。
あまり長くここで話をしてるのもマズい。
この出入り口が、
どこからか監視されている可能性も
ないとは言い切れないからね」
そして大烏は周囲を警戒するようにして
帰っていった。




