第40話 窃盗・・。それはまさに犯罪
この日最後の客を送り出してから
部屋の掃除をしていると
ベッドの上のスマホがブルブルと震えた。
「この間の喫茶店にいるんだが、
これから出て来給え」
声の主は大烏だった。
「は、はい。
『シュガー&ソルト』ですか?」
僕が聞き返した時にはすでに通話は切れていた。
時計を見ると
17時になろうとしていた。
僕は急いで家を出た。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けると
元気なもしほの声が聞こえてきた。
僕はもしほに小さく手を振って、
店内を見回した。
大烏は奥のテーブル席に座っていた。
僕は大烏の向かいに座った。
「コーヒーを2つ注文しておいたよ」
大烏は光沢感のあるブラウンのスーツに
こげ茶色のボーラーハットを被っていた。
その姿はさながら会社の重役のような
貫禄があった。
「タイミングが良かったです。
丁度、
最後のお客さんが
帰ったばかりだったんですよ」
「私だってそのくらいの気遣いはできるよ。
それに君を待っている間に
ゆっくりマスターと話もできたし、
有意義な時間を過ごせたよ」
そう言って大烏は「はっはっは」と笑った。
「大烏さんは何時からここに・・」
そんな疑問が口から飛び出した瞬間、
僕は言葉を失った。
大烏の言葉に違和感を覚えた。
大烏が人に気を遣うことも不自然だったが、
それ以上に
客が帰るタイミングを知っていたことが
解せなかった。
「お待たせしました」
その時。
もしほがコーヒーを運んできた。
大烏は右手でハットを押さえると
もしほに向かって軽く頭を下げた。
その仕草は
まるで海外の映画スターのようだった。
傲慢で気障なナルシストでありフェミニスト。
それが大烏亜門という男だった。
僕はコーヒーを一口飲んでから
先ほどの疑問を大烏にぶつけた。
「ふむ。
そんなことかい。
それなら。
依頼を受けたあの日、
君のパソコンに入っている情報で
必要なモノはすべて
USBメモリにコピーしたからね」
大烏はさも当たり前のように言い放った。
僕はふたたび言葉を失った。
そして。
僕は急いで記憶の糸を手繰った。
「君がコーヒーを淹れていた時だよ」
僕が答えに辿り着く前に
大烏が正解を発表した。
しかし。
それで疑問が解決したわけではなかった。
あの時はまだ大烏に詳細を話す前だ。
そんな段階で大烏は
僕のパソコンからデータを盗んだのだ。
窃盗・・。
それはまさに犯罪である。
「ふむ。
何か不満があるようだね?」
「い、いえ・・決してそんなことは・・」
僕は慌てて首を振った。
大烏はコーヒーを一口飲んでから
ゆっくりと口を開いた。
「君は前日の電話で
探偵の私に相談をしたいと言っていた。
それならばこちらも
相応の対応をしなくてはならない。
依頼者になるかもしれない人間の情報は
どんなことでも知っておきたいからね。
そして。
依頼者が常に真実を話すとは限らないのだよ」
大烏の目がじっと僕を見ていた。
僕は急に背筋が寒くなった。
パソコンには
決して見られたくない情報も入っている。
嫌な予感がした。




