第35話 傲慢が過ぎる男
ランチタイムも終わりに近づいた
『シュガー&ソルト』の店内は、
カウンター席は3つ、
テーブル席は奥の1つが空いていた。
僕達はテーブル席に座った。
すぐにもしほが水とおしぼりを持ってきた。
「いらっしゃいませ。
本日のランチは精進中華丼です」
いつになくかしこまったもしほの言葉遣いに
僕はつい笑みがこぼれた。
もしほはそんな僕に
探るような眼差しを向けてきた。
いつも1人で店に来る僕が
人を連れてきたことに驚いているのだろう。
それに大烏と僕とでは年齢こそ近いが、
その外見からは
同年代には見えないのかもしれない。
僕達がどういう関係なのか
勘繰っているに違いない。
大烏が頷いたので
僕はランチを2人分頼んだ。
「ふむ。
なかなか雰囲気の良い店だ。
マスターの所作からもわかるが、
きっとこの店は旨いコーヒーを出すのだろう。
君がこんな店を知ってるとはね。
やはり君はセンスが良い」
もしほが下がるとすぐに大烏が口を開いた。
些細なことでも人に褒められると嬉しいものだ。
ただし。
それが自分を
罠に嵌めようとしている人間の言葉ならば、
素直に喜ぶわけにはいかない。
食事中、
大烏は一言も話さず料理に集中していた。
僕はカウンターの隅にあるテレビに目を向けた。
テレビでは昼のワイドショーが流れていた。
若くて綺麗なだけが取り柄の
女性アナウンサーが原稿を読んでいた。
『続いては先月と今月半ばに起こった
2件の殺人事件についての続報です。
先月の事件の夜、
犯行現場付近で
怪しい白の軽自動車が目撃されていたことが、
関係者への取材により明らかになりました。
警察ではこの軽自動車の持ち主の特定を
急いでいるようです』
スプーンを持つ手が止まった。
僕はスプーンを置いて
そっとコップの水を飲んだ。
「ふむ。
この事件、
まだ解決してなかったのか。
いやはや警察というのは無能だね。
おそらくこの事件も迷宮入りかな」
大烏の言葉に僕は咽て咳き込んだ。
「何をそんなに驚いているんだい?
まさか君はこの国の警察が優秀で、
悪いことをした人間のすべてが
捕まっているとでも思っているのかね?」
「い、いや・・それは・・」
「そもそも警察が解決できる事件なんて
ごく僅かなのだよ。
警察は優秀で
それ故に治安が守られているというのは
メディアが作り上げた幻想だよ。
警察にできることは数にモノをいわせた
情報収集だけさ。
それも無駄に多くの
金と時間と人を使ってのことだがね。
これは上に立つ人間が
無能であることが問題なのだ。
ちなみに学業が優秀な人間が
有能とは限らないからね。
兎に角。
この国は犯罪大国なのだよ」
大烏は平然とそんなことを言った。
やはりこの男は普通ではない。
というよりも傲慢がすぎる。
僕は小さく息を吸った。
「・・で、では。
どうすればこの事件を解決できるんですか?」
それから僕は少し鎌を掛けてみた。
「ふむ。
愚問だね。
この事件を解決したいのであれば、
警察は私に捜査協力を求めるべきなのだ」
そして大烏は「はっはっは」と笑った。
僕は呆気に取られて
返す言葉が見つからなかった。
「ふむ。
そういえば君には話してなかったかな?」
そう言うと大烏は
財布から一枚の名刺を取り出して
テーブルに置いた。
その名刺に印刷された文字に
僕の目は釘付けになった。




