第34話 8月27日。土曜日。
8月27日。土曜日。
僕はモニターの前で
空白になった予約リストを
恨めし気に見つめていた。
朝一番の客を送り出した後、
立て続けに連絡があり
この日の午後からの予約が2件とも
キャンセルになったのだ。
僕は深い溜息を吐いた。
弱り目に祟り目とは
まさに今の状況を言い表していた。
安田には「もう一度検討します」と言ったが、
正直なところ連絡するつもりはなかった。
依頼料が高すぎることもさることながら
あの怪しげな占い師の言葉も引っかかっていた。
僕はパソコンの電源を落として立ち上がった。
昼時ということもあってか、
週末にもかかわらず
『稲置市営温水プール』の駐車場は空いていた。
L字型の駐車場の奥に、
見覚えのある真っ赤なポルシェがとまっていた。
僕はその横に駐車した。
受付にいたのは蝉丸空だった。
事務所内にチラリと視線を向けても
二四の姿はなかった。
「こんにちは。
今日も頑張って下さいね」
受付の前の箱に回数券を入れる時、
ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐった。
いつもの彼女の匂いだった。
僕は気付かれないように
そうっと鼻から空気を吸い込んだ。
少し心が落ち着いた。
プールサイドに立つ3人の監視員の中にも
二四の姿はなかった。
代わりに4コースで泳いでいる大烏を見つけた。
僕は高齢者で賑わっている
歩行者用コースに入った。
しばらくすると泳ぎを止めた大烏が
僕に気付いた。
大烏は指で採暖室のほうを指した。
この『稲置市営温水プール』には、
冷えた体を温めるための低温のサウナ室が
プールサイドに設置されていた。
僕はプールから上がって採暖室に向かった。
採暖室には大烏しかいなかった。
「やあ。
久しぶりだね。
私はあれから何もやる気が起きなくてね、
しばらく家に籠っていたのだよ」
「そうだったんですか」
僕は一応相槌を打ったが半信半疑だった。
家に籠っていたということはつまり、
アリバイがないということで、
大烏がどこからか僕を監視していたとしても
不思議ではないのだ。
「それよりも君の方こそどうしていたのかね?」
「はい。
僕の方もこの1週間、
仕事が忙しくて。
ここに来る暇もなかったです」
僕は敢えて嘘を吐いたが、
大烏は特段何の反応も示さなかった。
「そ、それよりも。
この間はご馳走様でした。
あんな素晴らしい料理は初めて食べました」
僕は気を取り直して話題を変えた。
「ふむ。
そうか満足してもらえたかね。
それならまた近いうちに
食事に行こうではないか」
「それなら今度は僕にご馳走させて下さい。
この間のような食事と比べたらアレですが、
すごく美味しい料理を出す
喫茶店があるんです」
「ふむ。
・・ならばこの後、
時間があればどうかね?
君が食事を済ませていなければの話だが」




