第32話 名探偵は最後に現れる
柱時計の秒針がコツコツと時を刻んでいた。
「ゴ、ゴホン。
えーっと。
つまり八木さんは
いるかどうかもわからない
ストーカーの正体を、
暴いて欲しいということですか?」
「そ、そうなんです」
安田の言葉に僕は大きく頷いた。
ストーカーは確実に僕の身近にいる。
それだけは間違いない。
「・・なるほど。
わかりました」
安田は武衣のほうに目を向けた。
僕も釣られて彼女を見た。
彼女は完全に興味をなくしたのか、
ふたたび目を閉じて天井の方へ顔を向けていた。
まるで眠っているかのようだった。
「・・それが依頼なら私はパスね」
しばしの静寂の後で武衣がぽつりと呟いた。
「安心して下さい。
彼女にその気がなくても
私が引き受けますから」
すぐに安田が武衣の言葉を引き継いだ。
「ストーカーが実際にいたとして、
その特定くらいなら私1人で十分です。
彼女の出る幕ではありませんよ。
能ある鷹は爪を隠す。
良賈は深く蔵して虚しきが如し。
名探偵は最後に現れる。
と言いますから」
「は、はあ・・」
たしかに安田に任せても大丈夫だろう。
ここまで話をして彼の聡明さはよくわかった。
言葉の端々に出てくる諺は意味不明だったが、
調査には問題ないだろう。
相談に来ただけのつもりだったが、
このまま依頼しても良いと思った。
僕は肝心の依頼料について尋ねた。
「そうですね。
この依頼内容でしたら、
ストーカーが現れるまで
八木さんを張り込むことになるでしょう。
その場合、
1日当たりの料金は20万円になります」
「に、20万円!」
想像していたよりもはるかに高い金額に
僕は声が出た。
「ですが八木さんは初めてのご利用ですので、
我々のことを
まだ完全には信用できないと思います。
そんな初めてのお客様には
特別割引価格がありまして、
1日当たり19万9000円で
お引き受けさせていただきます。
勿論これは税込み価格ですのでご安心を」
安心というような金額ではなかった。
「料金的には他の探偵会社より
若干高めかもしれませんが、
その分こちらは確実に成果を出します。
もし万が一、
1週間張り込んでも
ストーカーが現れなかった場合、
考えられる結論は2つです」
そう言って安田は人差し指を立てた。
「1つはストーカーは存在しない」
そして続けて中指を立てた。
「2つ目は1週間のうちに
ストーカーは現れなかった。
1つ目の場合には問題はないのですが、
2つ目の場合は
さらに調査を延長することができます。
勿論。
その場合は追加で料金がかかりますが」
言葉が出なかった。
「ストーカーがいるかどうかも
はっきりとしない今、
ご依頼をなさるのは
もう少し考えてからのほうがよろしいかと
思います。
石橋を叩いて渡ると言いますし。
後悔先に立たずとも言います。
名探偵にバレない犯罪はない。
とも言いますから」




