第24話 3つの条件
稲置駅に着くと18時を過ぎていた。
駅前のロータリーにある7つのバス乗り場は、
バスを待つ人々で混雑していた。
普段バスを利用しない僕は
何番乗り場のバスに乗れば
家に帰り着くのかわからなかった。
僕は1番乗り場から順に確認していった。
3番乗り場まで来たところで
見覚えのある後姿が目に入った。
僕は咄嗟に人混みに隠れた。
安倍瑠璃だった。
彼女は隣の4番乗り場に立っていた。
別に彼女に見つかったところで
何も問題はないのだが、
僕の足は自然と駅の方へと引き返していた。
そして僕はタクシーに乗った。
座席に身を沈めて一息吐くと
自然と安倍瑠璃のことを考えていた。
彼女は一体何をしていたのだろう?
あの姿は会社帰りだと思うが、
会社帰りの彼女がなぜこの時間に
稲置駅にいたのかが不思議だった。
今日は予約は入っていない。
つまり。
彼女はそれ以外の用事でこの街に来たのだ。
そこにはどうしても男の影がチラついた。
あれほどの美貌の持ち主なのだから
男の1人や2人はいてもおかしくはない。
頭では理解しているつもりだった。
それでも。
さすがに動揺を隠せなかった。
同時に僕は顔のない男に激しく嫉妬した。
20時を回っても空腹感はなかった。
それが遅い昼食のせいなのか、
それとも安倍瑠璃のせいなのか、
わからなかった。
僕は昼間に買ったサンドウィッチと、
若干生温かいコーヒー牛乳をテーブルに並べた。
それからテレビを点けて
チャンネルを適当なバラエティ番組に合わせた。
静かな部屋で食事をするよりも
多少の雑音があったほうが気分が紛れた。
そして僕は電車の中で閃いた
大烏犯人説についてもう一度考えを巡らせた。
大烏が最も疑わしいとされる根拠は
事件の起きたタイミングである。
次に地理的条件である。
高速道路を使って20分という距離は
十分に許容範囲内と考えてよいのではないか。
そして時間的条件である。
大烏は暇を持て余していると言っていた。
これら3つの条件から
大烏犯人説は成り立っている。
そのうえでわからないのが動機である。
金と時間のある生活。
社交性を含めた人間性。
そんな何不自由ない生活を送っている大烏が、
はたして殺人という行為に手を染めるだろうか。
・動機を考えるのは最も無駄なこと
以前どこかで聞いた言葉が頭に浮かんだ。
僕はふたたび容疑者リストに大烏を加えた。




