第1話 6月某日。夜。
辺りは闇に包まれていた。
微かに響く虫の鳴き声以外は何も聞こえない。
今夜は満月のはずだが、
今はその月は雲に隠れていた。
男が1人立っていた。
そして男の足元には全裸の女が1人、
うつ伏せで倒れていた。
男の表情には
後悔の念がはっきりと浮かんでいた。
男は己の意志の弱さを恨めしく思った。
これなら動物と変わらない。
理性は所詮、
本能に支配されている。
倒れている女は肌の張りからして20代か。
地面に敷かれたブルーシートの上で
明るい茶色のロングヘアーは乱れていた。
ブルーシートの端には
女が身に付けていたと思われる服が
几帳面にたたまれて置かれていた。
薄っすらと下着の跡が残る女の背中は、
この暗闇の中でも確認できるほどに
真っ白で透き通っていた。
次の瞬間、
雲間から月が顔を出して
女の形の良い臀部を照らした。
続けて月明かりが女の臀部から背中にかけて
ゆっくりと撫でた。
女の肌にねっとりと白く濁った液体が
飛び散っていた。
女はピクリとも動かなかった。
男は鞄から消毒用のアルコールを取り出すと
手にした布に軽く含ませて
素早く慣れた手つきで
女の体に付着した白濁液を
丹念に拭き取っていった。
一通り女の体を拭き終えても
女はまだ目を覚まさなかった。
まるで死んでいるかのように。
男は立ち上がりもう一度足元の女を見た。
男の痕跡は何一つ見当たらなかった。
男は静かに頷くと
女の体をシートの外に動かし、
服をその体の上に置いた。
最後に男がシートを回収すると、
あとに残されたのは裸の女と
それが身に着けていた服だけになった。
雲が流れて月を隠した。