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今からこの学園を支配する  作者: 総督琉
第一巻『青の陰謀』編
9/15

第七話「青の正体」

 決闘は俺と日下さんの勝利で終わった。

 俺たちは仮想空間に接続できるカプセル装置から出て、喜びを分かち合った。

 その後、すぐに鬼椿と椿女もカプセル装置から出る。

「さすがに負けるとは思わなかった。まさか本当に仲直りしてたとは思わなかったぜ」

 鬼椿は俺と日下さんに交互に視線を向ける。

「だが一体どういうからくりだ。お前の部屋は一日監視してたが、出てこなかっただろ。それにどうやって仲直りしたのかも分かんねえしよ」

 鬼椿からすれば、全く意味の分からないことだらけだろう。

 全て自分の策通りだと思っていたのに、蓋を開ければ策が逆に利用されていたのだから。

「まあおおよそ検討はつくが、そんな冷静な判断があの後でできるかって言われたら難しいぜ。やっぱお前は普通じゃねえな」

「ああ。俺は普通じゃないんだよ」

 俺は鬼椿に策を説明することはない。

 今後戦うかもしれない可能性も考えれば、自分の思考パターンを相手に教えるのは損でしかないからな。

「ったく、やっぱお前との戦いは面白いな。また機会があったら戦おうな」

「俺はできれば避けたいがな」

「嘘つけ。どうせ頭の中では俺を倒す策でも考えてんだろ」

 見抜かれているみたいだな。

 どれだけ避けようと、戦う時が来るかもしれない。

 俺はあらゆる可能性に対して備えるだけだ。

「じゃあな」

 鬼椿は椿女とともに待機室を出ていく。

 椿女は最後まで口を開かなかったが、表情を見る限り悔しさがはっきりと分かった。


 二人きりになった空間。

 今はこの空間が心地いい。

 日下は俺との距離を詰め、手の触れ合う距離で呟く。

「にしても、ここまで策が上手く行くとはね。驚いたよ」

「ああ。だがそれは日下が鬼椿のこれまでの情報を持っていたから練れた戦略だった」

「だね。結局日向と私のどっちが欠けても鬼椿には勝てなかった」

 気付けば俺と日下は互いを呼び捨てにする関係になっていた。

「最初は驚いたよ。まさか決闘の日を今日に設定するなんて。もっと時間をかけて策を練った方が良いと思ったのに」

 俺はあの日、一夜をともに過ごし、作戦を話して実行してもらった。

「そのおかげで相手は俺と日下がまだ話もできておらず、日下が俺に対して憎しみを抱きつつあるように思わせることができた」

「そっか。だから鬼椿も私が裏切っていなかったことを想定していなかったんだ」

「ああ。その上鬼椿が出した提案を全て呑むことで、より一層日下の裏切りを確定させた」

 鬼椿は日下に対してメールで幾つも指示を出していた。

 決闘当日の朝に日向に接触し、仲直りを持ちかけること。会場に行って鬼椿たちにもその様子を見せること。決闘の第一試合開始直後、すぐに俺を殺すこと。

 それらは全て実行され、最も信じさせることができる最後の指示も実行したため、鬼椿は疑いようがなかっただろう。

 だが結果は違う。

 その後に出していたステージ選択の強要、第二ステージでも即座に裏切ることをしなかった。

「多分第一試合で日向を倒してなかったら、私が日向に返り討ちに遭ったっていうのも信じてもらえなかったのかもね」

「その可能性はあるな。あれが信じてもらえていなかったら、ビルの上階まで二人を引きつけることができなかっただろう。鬼椿は俺との戦闘を、椿女は日下の捜索を行っていたかもしれない」

 あくまでも可能性だ。

 だが少しでも可能性があるのなら、排除する必要がある。

「鬼椿が最後まで俺に対して手を抜かなかったおかげで、俺はあいつに勝つことができた」

「手を抜かれてたら負けてたのか。それはなんか嫌な負け方だね」

 日下は苦笑いを浮かべて答える。

 相手が手を抜かなければ勝て、手を抜けば負けるなんて酷な話だ。

「それも戦い方の一つだ。手を抜くことで自分の実力を発揮できる者だっているからな」

「そんな人いるんだ。まあ、色々な人がこの学園には集まってるからね」

 もっと未知数の存在がこの学園にはいるだろう。

 この先も生きていくためには、彼らとの戦闘を潜り抜ける必要がある。

「今月の選別も終わったし、これからカフェで食事してこうよ」

「その前に、ある人物に会っておきたい」

「がーん」

 日下はショックを受けた様子だったが、渋々承諾する。

「分かったけど、その人物って誰?」

「俺は連絡先を持っていないけど、多分日下なら連絡先を持ってる相手だ」

「へえ、誰だろ」

 日下は頭の中で何人か思い浮かべている。

「誰なの?」

「今から連絡してほしい相手は──」

 俺が答えると、日下は一瞬の沈黙。

 驚いたような表情で俺を見る。

「どうして連絡先を持っていること知ってたの?」

「……勘かな」

「えー、ホントかな」

 疑うような目で俺を見てくる。

 俺は思わず目を逸らす。

「まあいいか。じゃあ連絡しとくよ」

 俺はある場所にその人物を呼び出してもらい、相手から承諾を得られたのを確認し、すぐにある場所へ向かう。



 1



 この学園には講義棟があり、そこで講義が行われる。

 だがなぜか、校舎が存在している。

 幾つもの教室や更衣室、職員室やトイレなどの設備があるが、基本的にどこにも人はいない。

 ここでは授業も行われていない。

 時々机の中に教科書など見られるが、随分と古い教科書のようで、ほこりを大分被っていてとても触れたくはない。

 俺は校舎の屋上にある人物を呼び出していた。

 後ろ姿は凛々しく、自分が強いと確信している佇まいだった。

 すぐに彼女は俺に気付く。

「私を呼び出した理由はなんだ」

 単刀直入に問いかける人物。

 彼女から向けられる視線は鋭く、俺に対しての嫌悪感や怒りが伝わってくる。

「今回鬼椿や日下の裏で動いていたのはお前だな。──三輪」

 その名を呼び、本題の内容を伝えると、彼女は口角を上げた。

 そして俺を見て、

「正解だ日向。よく分かったな」

 包み隠すことなく、淡々と告げた。

 動揺などはなく、堂々としている。

「私はお前が嫌いだ。できれば今回の選別で死んでくれると思ったんだが、鬼椿は油断していたようだな」

 大袈裟なため息をこぼす。

「なぜ私が黒幕だと気付いた?」

「偶然の多さだ」

「ほう。なかなかに面白いな。だが偶然なんて所詮は偶然だ。そこに必然性を見出だしたとでも言うつもりか」

「俺と鬼椿は不自然にも会うことが多かった。まず最初に会ったのは魔法戦の講義。次に会ったのはカフェ」

「なんだ。たったの二回か」

「たったの二回だ。だが俺がこの学園に来てから初日と二日目に会った。さすがに偶然にしては多い」

 確かに偶然で片付けることもできる。

 だが問題はそれだけじゃない。

「もう一つ気になったのは、どちらの場所に行く際も日下が関わっていたことだ。どっちの場所も日下が選択した」

「だったら黒幕は日下なんじゃないか」

「いや、それはないな。日下は鬼椿に強迫されていたんだ。わざわざそんな相手に意図的に会うよう仕向けるはずがない」

「だったら尚更偶然じゃないのか?」

「その可能性もある。でも、多分違う」

「最後は勘か」

「いいや、あることを確認して、俺は確信した」

「へえ」

 三輪は興味があるのか、俺を直視して答えを待つ。

「鬼椿は選別特権チケットで俺を対戦相手に強制的に指名した。そのチケットの購入には貢献度100の消費が必要になる。でも鬼椿の貢献度は減っていなかった」

「だったら購入したのは椿女なんじゃないか」

「その可能性もある。でも、ある人物の貢献度の増減を確認したら、貢献度が100減っていた」

 決闘を生き残ったためか、俺には新たに貢献度30が与えられた。それを使い、ある人物の貢献度の増減を確認していた。

「それは誰だ」

 会話の流れから明白なはずだが、三輪はあえて問う。

「三輪、お前だ」

 三輪はさほど動揺せず、ただ頷く。

 それどころかうっすら微笑む。

「さすがだね。やっぱりあれかな。腕に自信がないから、策だけは巡らすようになったんだね」

「ああ。少しでも三輪に追いつきたかったから」

 ともに異世界を放浪したあの年月の中で、俺は彼女の助けになりたかった。

 力のない俺にできることといえば、策を巡らすことだけだった。

「予想通り、私が黒幕だ」

 三輪は堂々と答える。

「私は初日、ずっとお前をつけていた。そしたら日下という人物に会い、仲を深めた。これは利用できると思い、隙を狙って連絡先を交換し、幾つか指示を出した」

「日下が簡単に従うのか?」

「従うさ。彼女には私がお前と喧嘩中と伝え、仲直りする機会がほしいと伝えた。そこで講義に呼び出してほしい、カフェに呼び出してほしいと伝えた」

 三輪は自分が実行した策を語っていく。

 俺はただ黙って聞いていた。

「鬼椿には呼び出した場所を伝え、お前を倒す策を授けた。結果、倒せなかったみたいだけどね」

 鬼椿は駒に過ぎない。

 今回の裏で動いていたのは三輪だったのだから。

「本当は今すぐに殺したいほど、私はお前を憎んでいる」

 理由は分かっている。

 三輪の視線が熱く向けられていた先は、俺の胸もと。

 今はつけていないが、あの頃はつけていたとある物。

 三輪は歯を食い縛り、怒りを必死に抑えていた。

「あれはお前の物じゃない。私の物だ。だから──」

「それだけはできない」

「で、き、な、い?」

 激情に駆られるのを抑えながら、三輪は首をかしげる。

「あれは私が手に入れるはずのものだった。なのにお前が横取りするから」

「…………」

「答え合わせがしたかっただけならもう用事は済んだだろ。帰ってくれるかな」

 目は虚ろげに。

 三輪は視線を俺に向けることなく、遠い空を見上げていた。

「……分かったよ」

 俺は三輪に背を向け、歩き出した。

 呼び止められることもなく、俺は校舎を後にした。



 2



 校舎の屋上。

 三輪はその立ち位置からも分かるように、見下した視線で日向を見ていた。

「ふざけるな。私から奪っておいて、お前は何をほざいている」

 三輪は怒りで狂いそうだった。

 握りしめる拳は、爪が食い込み血が出ていた。

 水をかけてもすぐに蒸発するほどの熱を帯び、三輪は床を踏みつける。

「組織の目的など知らない。私は私の復讐を果たす必要がある」

 三輪は髪をかきむしり、乱れた髪を気にせず、ただ怒りを込めた視線を遠くに去る日向の背中に向ける。

「あのペンダントはお前の物じゃない。私の物だ。だから──」










 ──お前を殺してそれを返してもらう

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