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今からこの学園を支配する  作者: 総督琉
第一巻『青の陰謀』編
7/15

第五話「消え行く命を晒して②」

 4



 最上階。

 俺は血だらけになりながら、事前に最上階に用意していた油を床一面に撒き、鬼椿を待つ。

 既に意識が遠退きそうになりながらも、必死に堪える。

 やがて足音が聞こえる。一瞬止まり、足音が遠退いたと思ったら、再度足音が近づいて鬼椿が俺に姿を見せる。

「やっぱりさっきかけたのは油だったんだな。随分と熱かったぜ」

「はは……。それは良かった……」

 駄目だ。

 まだ倒れるな。

 必死に両足で踏ん張り、鬼椿と相対する。

「だが理解できないな。俺も火を使える。これじゃあ自爆するようなものだぜ」

 鬼椿は敷かれた油の外側にいる。

 俺は部屋の中央に立ち、油が燃えれば全身を火に焼かれるだろう。

 それでいい。

「何が狙いだ」

 鬼椿は攻撃するのが正解か、静観が正解か迷っていた。

 確かに俺は、このまま何もせずとも死ぬだろう。

「まずは、不意打ちで殺されないためだ」

「どういうことだ?」

「まるで目にも止まらぬ高速移動、あれはただの透明化だろ」

 鬼椿は表情一つ動かさない。

 だが答える。

「ああ、そうだ」

 俺に誤魔化しは通じない思ったのか、素直に答えた。

「上手く足音で誤魔化していたようだが、やはりお前にそれほどの素早さがないことは分かった」

 それでも鬼椿が素早いことに変わりはない。

「確かにな。じゃあ油を撒いたのは、透明化して殺しに来ることを避けたのか」

 油が撒かれていれば、透明化していてもどこを歩いているのか一目瞭然だ。

「で、油を撒いたのはそのためだけか」

「それだけだ」

「じゃあ終わりだ」

 鬼椿は刀に火を纏わせ、先端を油に当てる。

 油に引火し、俺は炎に囲まれる。

「さよならだ。日向」

 俺を倒せば、この戦いは終わる。

 そして俺は魔王のための生け贄となり、二度と会うことはないだろう。

 そう、鬼椿は思っている。

 今の台詞で、それが分かった。

 だから──

「俺の勝ちだ」

 俺の言葉を聞き逃さなかった鬼椿は、炎の外側で首をかしげる。

「今更勝ち目があると? この状況からどうやって俺を倒す?」

 鬼椿には分からない。

 だって全てはあの時から始まっている。

 俺の策は──

「俺は勝たなきゃいけない。だから──」

 俺の手に生成される刀。

 鬼椿は警戒し、刀を構え直す。

 俺は刀を鬼椿には向けず、天井に向ける。

「ん?」

 魔力を込め、刀は天井を突き破って空高く伸びる。刀が天井を突き破っているのは、ビルの外側からでも明らかだ。

「何をしている?」

 鬼椿には理解のできない行動だろう。

「最後に一つ聞きたい。お前は日下を仲間にすることが有益だと考えている。だがここで俺たちが負ければ日下も死ぬ。矛盾だな」

「救う方法はある」

「どんな方法だ」

「…………」

 鬼椿は沈黙し、炎に焼かれる俺を見る。

「ここで終わるのは惜しいな」

 鬼椿はボソッと口にする。

 俺は徐々に腕を焼かれ、遂に足までも焼かれ始める。痛みは既に限界を超えている。

 だがまだ、今だからこそ聞き出せる情報もある。

 意識が遠退きそうになる中、舌を噛んで寸前で意識を保つ。

「本当は、日下を救済しようと思っていた。彼女の能力は今後を進めていく上で有利に働くから。だが……」

 その言葉の続きを、俺は聞かなくてはいけない。

 日下が生き残る方法とは何か。

 だが、意識は俺を遠くへと追いやってしまう。

 続きを聞くこともなく、俺は眠りについた。



 5



 最上階に一人取り残された鬼椿。

 彼との戦いは十分に楽しめる者だった。

 まだ自分を倒す相手ではないにしても、この先学園で鍛練を積めば、自分にも匹敵する相手だった。

 だが現実は無慈悲にも、日向を奪い去ってしまう。

「いや、違うな。せめて日向には、策略で俺を超えてほしかった。だが、そんな願いは叶わない」

 鬼椿は右手に刻まれた十字の傷を見つめる。

 あの日もまた、炎に包まれた戦いだった。




 五年前。

 三輪と鬼椿は炎に囲まれた状況で、援軍が助太刀に入ることはない戦いをしていた。

 互いの刀は爆発するほどの衝突を続けるが、三輪は傷を負い、既に鬼椿の攻撃を受け続けることはできなかった。

 三輪は膝をつき、刀が手から離れた。開かれた手は血だらけで、これ以上刀を握ることができないのは明白だった。

 鬼椿はこの戦いの終わりを予感していた。

 だから鬼椿は、最後、大振りに刀を振り上げた。

 刹那、三輪は言った。

「これがお前の策か……」

 それは鬼椿に向けられた言葉ではなかった。

 鬼椿は気にかかったが、首をとるために刀を振り下ろす──


 響くはずのない金属音が響いた。


 刀を振り下ろした先に金属はない。刀は地を転がっているのだから。

 ではなぜ。

 その答えを示すように、鬼椿の顔に十字の短剣が迫る。咄嗟に右手を動かし、短剣は右手に十字の傷を刻んだ。

 目の前には、全身に火傷を負った少年がいた。

「お前は……」

 すぐにその少年を蹴り飛ばす。

 少年は地面を二転三転し、三輪の側まで転がった。

「日向……!?」

 三輪は少年──日向の背中に手を伸ばす。

「日向、まさかホントにあんなに分厚い火の中を通ってきたの!?」

 三輪と鬼椿を囲んでいた火は十メートルはあった。

 日向は火の中を十メートル進んだのだ。

 だが鬼椿は気付いている。

 日向という少年は、火の中でずっと好機を狙っていたということに。

 でなければ、最も隙をつけるタイミングで現れることができない。

 その時、鬼椿は日向という人物に興味を持ったと同時、恐れた。

 ──命の使い方が狂っている。




 そして五年の月日が経ち、今現在、日向は鬼椿によって敗れた。

 だが鬼椿はまだ勝利の確信を得ていない。

 自らを燃やすため、油を撒いてまで何がしたかったのだろうか。

 鬼椿には倒されていない、そう言いたいのだろうか。

 いや、それは鬼椿自身ですぐに否定する。

 あの狂気を持った日向が、そんなことのためにこんな行動に出るだろうか。

 ずっと考えている。

 考え続け、そして違和感に気付く。

「……終わらない?」

 日向は火の中で既に十分以上の時間を過ごした。既に死んでいてもおかしくない。であればなぜこの決闘は終わらない。

 鬼椿はその答えを知っている。受け入れることを脳が拒否している。

「いや……まさか…………」

 だが、残された可能性はそれしかない。

 その可能性について思索していく過程で、鬼椿は気付いた。

 鬼椿は日向に超えてほしいと願いつつ、心の奥底では勝ちたかったのだ。

 自分を超えてほしいと思っていたのは、負けた時に言い訳をするため。

 思い浮かんでしまった可能性の正体を確かめるように、炎の中にいる日向を見る。

 日向の左肩には鬼椿が浴びせた深い刀傷があった。だが胴体、そこに長く一本の切り傷が走っている。その傷はこの戦いで鬼椿と椿女がつけたものではない。

「そういうことかよ。日向」

 爆発音が響くとともに、ビルが揺れる。

「やっぱりか……。やっぱり…………」

 鬼椿は敗北を確信した。

 だって──

「生きていやがったんじゃねえか──」

 ビルの外、遥か遠くから、ある人物がビルを見ている。

 桜のような髪をして、桜の髪留めをつけた少女。

「──日下ああああああああああ」

 遥か遠くから、日下は呟く。

「バイバイみんな」

 日向が上階で鬼椿、椿女と戦っている間、日下はビルの一階に幾つも爆弾を取りつけていた。

 日向と日下は欺いた。

 鬼椿を。

 だから勝ったのは──

 爆炎に包まれ、ビルは崩壊していく。

 崩れ行くビルの中で鬼椿は瓦礫に埋もれる。



『鬼椿、椿女の死亡を確認。よって、第二試合は日向大和、日下朝ペアの勝利とする』

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