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今からこの学園を支配する  作者: 総督琉
第一巻『青の陰謀』編
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幕引「魔王宣言」

 それは四月二十二日のこと。

 ある講義室。

 三輪が出ていった後、しばらくしてからある人物がノックをして部屋に入ってくる。

 男はさほど驚きもせず、むしろ歓迎した。

「やあ日向、久しぶりだね」

 講義室に入ってきたのは日向だ。その隣にはエルフの少女も一緒だ。

「はい。久しぶりですね。ユスティア・カノン先生。いえ、キャノン・アイアンさん」

 そう言われ、男の顔はみるみる変化する。顔そのものが別人になる。

 まるで魔法が解けるように。

 変化した後の顔は、日向がよく知る人物の顔となった。

「にしてもよく分かったな」

「簡単な話ですよ。あなたから過去の話は聞いていました。ユスティアはあなたの恋人の名前でしょ。そしてカノンはキャノン。だからあなただと思ったんです」

「だがそれだけじゃ偶然にしか思えない」

「そうかもしれませんね。ヒントがあったとすれば、なぜ三輪が間接的にこの講義に俺を誘ったのか。それは鬼椿と鉢合わせさせる目的も会ったでしょうが、もう一つの目的もあった」

 男は黙って日向の話の続きを待ち望む。

「今回三輪は選別の内容を知っていた。なぜか。それは教師陣に三輪との内通者がいたから」

「確かに教師陣は選別の内容を一日だけ早く知ることができる。だがそれだけでは分からないのでは」

「あの時の台詞が気にかかったんです。鬼椿が選別の内容を見て、初めて知ったというふりをした際、あなたは言った。『あくまでも……か』と。これは『あくまでも知らないふりをするか』ってこと。あなたは鬼椿が選別の内容を知っていることを知っていた。そこからあなたが三輪の内通者だと分かった。まあ三輪は私とあなたを接触させたかったのでしょう。三輪の意思ではなく、あなたの指示で」

 キャノンは静かに感心した。

「さすがは日向、ティアの一番弟子だ」

 組織にいた際のことを、キャノンは思い出していた。

「懐かしいですね。ユスティアさんのこと」

 少しだけ二人の会話に間が空く。

 キャノンは咳払いをし、隣にいたエルフの少女に目を向ける。

「フレアの監視はバレていたか?」

「いえ、組織なら監視していると思ったので、隠密魔法で部屋をこっそり出て、部屋を見渡せる場所を片っ端から捜索したら見つけました」

 フレアは悔しそうに唇を尖らせる。

「先輩が休んでいる間に追い越したと思ってたのに。悔ぢい」

「隠密魔法だけは元の世界に戻ってからも極めてたんだよ」

「ストーカー?」

「ちょ……フレア、話を脱線させるな」

「ご、ごめんなぢゃい」

 目を強く閉じ、焦った様子でお辞儀をする。

「なるほど。それでフレアに俺宛てのメッセージをして、今に至るってわけか。衰えていないみたいだな」

「戦闘ではまだ遅れはとりますけどね」

 謙遜を挟みつつ、日向は話を進める。

「それで、わざわざ会いに来た用件は何だ?」

「俺の目的を伝えた上で、協力してもらおうと思いまして」

「目的か。言ってみろ」

 日向は一呼吸おき、目的を言った。

「──この学園で魔王になる」

 フレアとキャノンは目を見開き、日向を見る。

 今彼が言った言葉に動揺を隠しきれない。

「ほ、本気か」

「ええ。組織の目的を果たすなら、それが最も手っ取り早い」

「そ、そうか……。確かに」

 キャノンは動揺しつつ、日向の意見に頷く。

「確かに、組織の目的は最悪の魔王を誕生させないこと。だからお前が魔王になれば全て解決するが……」

 キャノンは言葉を詰まらせる。

「これまで何人もの人物が魔王に挑み、敗れた。確かに簡単に魔王になるなどと言ったところで、ですね」

 何百年もこの学園がありながら、一度として魔王が誕生することはなかった。

 それはつまり魔王への条件がそれほど難解であることを示す。

「まあそれもある。だが──」

「三輪を魔王にしたいと思っている者もいると?」

「あ、ああ」

 日向の推測にキャノンは肯定する。

 キャノンは一旦深呼吸をし、呼吸を整えてから話し始める。

「我々の組織は九百年前にある人物によって作られた。その人物は伝言と予言を幾つも託したが、全てが完全に伝わったわけではない。九百年も経てば、ある人物の言葉が曲解されたり、都合の良い解釈をされたり、はたまた解読不能であったり、様々な理由で原文から逸脱してしまった」

「なるほど」

「予言によれば、日向と三輪の故郷である予言の星から生まれる者が魔王になると言っている」

 故郷の名を聞き、日向は少しだけ友達を思い出す。

「また、魔王になる者は神の血を継ぐ者であると伝えられている」

「神の血……」

「調べたところ、三輪という家系は予言の星を創成した神の子孫だった」

「なるほど。確かに彼女は神の血を受け継いでいる」

「そして日向、お前については神の血を引いている可能性がある」

「ええ」

「日向という一族についての伝承は少なく、あの星での創成期を記す文献にも記載が顕著に見られない。だが、日向という家系が神の血を引いている可能性は十分にある」

「あくまでも可能性の話。だからこそ組織は三輪を魔王にするために動いている」

 日向は現状を理解した。

 日向が魔王を目指すということは、三輪と争うことでもある。

 この学園では、魔王を目指すためなら殺し合わなければいけない。

 日向は三輪を殺せるかを考え、言葉に詰まる。


 答えは──殺せない。


 日向は三輪を殺したくないと思った。

 だからこそ、日向は悩む。

「日向、お前が何に迷っているのかは分かる。だがその覚悟をしなければ魔王になれない」

「はい……」

 キャノンはじっと日向を見る。

「だが今はまだその覚悟を持たなくて良い。親しい者を殺すことは、到底受け入れがたいことだ。だから長い時間をかけて考えろ。殺せるか否か。もし殺せなければ生かす方で策を練れば良い」

「はい」

「この先、私とフレアが全力でサポートしよう。組織の力を借りることは難しいが、それでも出来得る限りのことはする」

「ありがとうございます」

 日向はキャノンへ感謝を述べる。

「全てが終わったら、またあの日のように皆で花見をしたいな」

「ええ、本当にそうですね」

「したいしたい」

 舞い上がるフレアを見て、日向とキャノンは笑みをこぼす。

 あの日の花を思い浮かべながら、彼らは未来に希望を寄せる。



 この学園では誰もが魔王を目指す。

 時に世界を滅ぼすために。

 時に世界を導くために。

 時に世界を創成するために。

 魔王になればどんな事象をも引き起こすことができる。

 だが、魔王への道は遥か険しい。

 魔王が生まれる日は来るのだろうか。

 その時、世界はどんなシナリオを迎えるのだろうか。

 希望か、それとも絶望か、はたまた──


 未来に待つ答えを、アマレイズは待ち望む。

 全てが終わった未来にあるのは、いったい何であるのだろうか。


 やがて世界に魔王が誕生する。

 その日まで、陰謀は終わらない。


第一巻『青の陰謀』編、完

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