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今からこの学園を支配する  作者: 総督琉
第一巻『青の陰謀』編
14/15

第九話「いつか魔王になる誰かに③」

 5



 彼に出逢った日、私の人生は一変した。

「日向……」

 気づけば呼び捨てにしていた。

「……大和」

 下の名前も呼んでみる。

 照れくさくなって、すぐに口を閉じる。

 口に広がる感覚。

 彼の名前を言って、私の心が心音を早める。

 これは恋なのだろうか。

 私は未だその答えを得れてはいない。

 いや、とっくにもう──

 私は高鳴る気持ちを感じるため、胸に手を当てる。

 早い。

 今にも破裂しそうなほど。

 これが日向への思い。

 こぼれてしまうんじゃないか。

 そう思えてくる。

 この学園に来てから、私の人生はずっと暗闇の中にあった。

 私の人生には太陽はのぼらない。

 そう思っていた。

 でも──


 彼が私を救ってくれた。


 私は嬉しかった。

 もう誰も信じることができない世界で、私は大切な人に出会ったんだから。

 私を救ってくれた人。

 私を変えてくれた人。

 私を見捨てないでくれた人。

 だから私も応えなければ。

 こんな私に手を差し伸べてくれたんだから、私も彼の力になりたい。

 私には何ができるだろう。

 私の能力は彼の役に立つ。

『未来図書館』

 未来に起こるあらゆる事象を知ることができる。

 条件はあるけど、その能力を使えば私は彼の力になれる。

 でも……

 やっぱり怖い。

 私はこの能力を得てしまったせいで仲間を失い、大切な人を傷つけてしまった。

 私は自分の能力を恐れている。

 彼の役に立ちたいけれど、私は私の能力を拒んでいる。

 もしも私が能力を使えば、今以上に私の能力が知れ渡るだろう。そうなれば彼に今以上の危機が訪れるかもしれない。

 その時、私は彼を守れるだろうか。

 今はまだ分からない。



 6



 四月二十六日。

 私は学園をぶらぶらと目的もなく歩いていた。

 歩きながら考えるのは彼のこと。

 気づけば私は校門まで来ていた。

「どうしてここなんだろうね」

 思わず笑みがこぼれてしまう。

 私の頭の中心にあるのはやはり彼のことなんだ。

 私はここで彼に出会い、救われた。

 桜並木が続くこの道で彼に出会ったから、私は今が楽しいと思える。

 これからを生きたいと思える。

 ありがとう。

 日向大和。

 私を救ってくれてありがとう。


 私は桜の木に背を預け、舞う桜の花びらを眺めていた。

 桜の花びらが私の頭に落ちる。

 その花びらを拾い、見つめる。

 花びら越しに足が見え、私はその正体を確かめるように目線を上げた。

 桃色の一本角を生やした女子生徒が私を見下ろしていた。

「少し話をしませんか。日下」

「は、はい。椿女さん」

 承諾すると、椿女さんは私の隣に腰を落とした。

 椿女さんとは休日にエアホッケーをして以来、多少ではあるが親密度は高まった印象だ。

 とはいえ今までのことも考えて、少しだけ気を許せないところもある。

「早速ですが、あなたは魔王になる気はありますか」

「え!? いやいや、全然ないよ」

「そうですか。やはりあなたも魔王には興味はありませんよね」

「ってことは椿女さんも魔王になる気はないの?」

「はい。しかし魔王にしたい方ならいます」

 言わずとも分かる。

「それって……」

「はい、鬼椿様です」

 やはり。

 私は少しだけ複雑な気持ちになる。

 椿女さんが口にした人物が魔王になってほしくないと、私は思っている。

「あなたの気持ちは分かります。あなたは日向に魔王になってほしいのでしょ」

「えっと……どうなのかな」

 今まで考えたこともなかった。

 言われてみれば、私は彼に魔王になってほしいと思っているのかもしれない。

 彼が魔王になったなら、世界が良くなると私は思っているんだ。

「答えは出ましたか」

 長いこと考える私を見て、椿女は答えが出たと察したのだろう。

「私は日向が魔王になってほしいと思うよ」

 それが私の答え。

「では私たちはライバルですね」

「そうだね……」

「私としては、魔王の座は鬼椿様以外の誰にも渡したくはありません」

「うん」

 椿女は躊躇うことはせず、はっきりと宣言した。

「しかしそれは日下も同じはずです」

「うん」

 椿女は少し沈黙する。

「私としては、敵に塩を送るような真似はしたくありません。しかし今回の件で、鬼椿様にとっての日向の存在の重要性を知りました。倒したい目標が明確にある鬼椿様は、今回の件で一段階強くなった。だから鬼椿様がより強くなれるように、日向には簡単に死んでもらっては困ります」

「うん……?」

「なので日下、私があなたを鍛えることにしました」

「……え!?」

 予想もしていなかった台詞に、私は驚く。

「日向は必ず鬼椿様によって倒されなければいけない。しかし今後日向と戦うのが必ずしも鬼椿様とは限らない。それ以外の者に殺されないよう、あなたが強くなって日向を守ってください」

「で、でも、それじゃ怒られちゃうんじゃないの」

「大丈夫です。私は日向ではなく、あなたを強くしようとしている。あなたが望むなら、私は力を貸しましょう」

 そっか。

 なら私の答えは一つだよ。

「お願いします。私を強くしてください」

 私は強くなりたい。

 日向を守れるように。

 力になれるように。

「ああ。私が日下を強くする」


 私は強くなって、日向を魔王にする。

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